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初体験1

お読みくださりましてありがとうございます


 忘れもしないあの日の出来事。


 ウェルト王国の第一王子であるジョージの16歳の誕生を祝うために、王妃様が主催し王城の庭園でお茶会が開かれた。

 それには、王子と年の近い王国の主要な貴族の子息と令嬢が招待されていた。

 もちろんオリヴィアもである。


 この日は、母の渾身の作品として朝早くから長時間かけ、オリヴィアは着飾られていた。

 先にさっさと準備を終えていた弟たちはこれ以上、待つのは御免だと薄情にも先に王城へ出発してしまった。

 完璧な淑女へと変身したオリヴィアは、愚弟たちから少しばかり遅れて一人で馬車に揺られ、王城へと向かった。


 だが、王城へ着くや否や、何者らに囲まれたかと思うと口を布でふさがれ、縄でグルグル巻きにされ、どこかに運ばれる。


 驚くことに、オリヴィアは母国の王城内で人さらいに会ったのだ。


 馬車から片足を下車した瞬間、物陰に隠れていた者達が一瞬で扉の前に押し寄せてきて、間合いを一気に詰められ捕まえられたので、オリヴィア一人では逃げようがなかったのだ。


 まあ、あの鉄壁の王城で人さらいが起きるなんてことはありえないと、気が緩んでいたっていうのもあるのだけれど。


 それに、私を襲った人攫いの格好が明らかに近衛騎士の格好で、チラホラと知った顔の者達もいたから、ここは王城だし、犯人もだいたいの察しはついていたので、無駄に抵抗はしなくてよいかなと浅はかにも怠けたのだ。

 後悔することになるとは知れず…。


 そして、私はグルグル巻きのまま、とある部屋へと連れていかれた。


 そこは、|第一王子<あいつ>の離宮の一室であった。

 到着したのち、私は近衛騎士達から丁寧にそっと下ろされた。

 そして奴らは、蜘蛛の子が散るが如く去っていった。


 何処に行くのか察しが付いていた私は、下ろされても逃げることはしなかった。

 その行為は無駄だと分かっていたからだ。


 すると、すぐさま10人もの王宮の侍女達が現れた。

 物陰に隠れていたようだ。

 私を勢いよく取り囲み、縄を解いた。

 2人が私の手を引き、2人が背中を押し、残りの者たちに絶対に逃さないと囲まれたまま、どこかへ連れていかれる。


 風呂場へと移動させたかったようだ。

 バスタブ前で服を脱がされ、湯船に鎮められ、化粧を丁寧に落とされ、ありのままの姿を曝け出される。


 抵抗しなかったわけではない。

 最初は自分を最高の淑女へ仕上げてくれたお母様の為にと結構な抵抗を試みたのだ。

 だけれど、相手は十人もいたし、か弱き女達を傷つけるのは心書いたんだ。


 それに、これをやらなければ宮廷侍女を解雇されるのだと大泣きしながら必死に懇願されるので、心が折れたのだ。


 あああぁぁぁ、お母様の頑張りが水の泡…と心の中で憐れんでいるうちに、隅から隅までピッカピカにされた私は、バスローブを着させられ、衣装室へと連れていかれた。


 そして、あの服を着させられたのだ。


 今でも覚えている。

 私の記念すべき、男装初体験の瞬間だ。


 そう、私は男物の正装を着させられたのである。


 全てが終わり、額に筋を立てながら部屋に用意されたお茶をまったり飲んでいると、強めのノック音がした。


 ドン、ドン。

「私だ。」


 やっぱりこんなことをさせたのは…お前か!!


 誰が来たのか声から直ぐに分かり、怒りに震えながら、私はぶっきらぼうに、どうぞ!と応答した。


 扉を開けて入ってきたのは、本日の主役、第1王子のジョージ殿下だ。

 私を見るなり、おおっ!?と驚きの声を上げる。


 白々しい、今さらお前が驚くな。

 こうなることを分かっていて、お前がこの格好をさせたのだろうが!!!

 心の中で、激しく罵倒する。


「思った通り、我が父、国王にそっくりだ!うん、いいぞ!!これならば作戦はうまくいくはずだ。しかし、お前、本当に父上にそっくりだな!?」

 オリヴィアをジロジロ見た後に、ジョージが愉快な声色でそう言い放った。


 それさ、もう十分に知っているから…呆れて何も言えない…。


 そう、私はウェルト国の国王にそっくりな容姿なのだ。

 まあ、父親が王弟であるし、つまり王様とは伯父と姪の間柄なので、似ていても全然おかしくない。


 だが、私が自国の国王にそっくりな顔の所為で、どんなに傷ついてきたことか…従兄であり幼馴染である第一王子(この男)は、十分承知しているはずなのに…。


 それなのにこんな格好をさせるとか、マジで許せない!!


 私は、静かに、静かに、表情筋が仕事を放棄するくらい真顔で、怒り心頭となっていた。


 そんなオリヴィアの感情などお構いなしで、ジョージは話を続けてくる。


「今日は、俺が16歳を迎えた記念の茶会である誕生会が庭園で開かれる。唯の誕生会でないことは、リヴィも知っているよな?フォード公爵家の者ならば、もちろん知っていて当然の話だからな?」

 ニヤニヤしながらジョージが質問してくる。


 その顔はウザイ。

 マジで腹立つ!!


「もちろん、知っているわ。|糞王子への可哀そうな生贄《第一王子ジョージ様の婚約者》を選ぶための出会いの場なのでしょう?だから、王弟である父を持つ私もあなたの子守役(サポート)として呼ばれているのよね。それに、今日は、私が良家のご子息と出会う絶好のチャンスだと、王妃様もおっしゃってくれていて、その為にお母様が今世紀最高のレディーと自賛した素晴らしい衣装を私に着させてくれたの。さっき王城(ここ)に着くまでは、その恰好で完璧な淑女だったのよ。貴方がお母様の努力を全て消し去り、私にこんな格好をさせるまでね…いったいどうつもりなのかしら??ジョージ!!」


 皮肉を織り交ぜて話したつもりなのに、鈍感なジョージには、オリヴィアの怒りは全く伝わらない。

 こんなに嫌味を込めているのに会話の続きだと感情もブレずに普通に話を続けるのだ。

 都合の良いところだけ切り取って、都合の悪い部分は無かったことにしてしまう、今のジョージはそうなのだ。


「うむ、分かっているならば話が早いな。さすがだぞ。リヴィは俺の婚約者候補からはとっくの昔に外れているのは分かっているだろう。だって、リヴィは父上にそっくりだからな、俺は父似の嫁を貰うのは絶対に嫌だ。ハハハッ、絶対にナシだ。そこでだが、父上にそっくりな君に、やってほしい事がある。」


 はぁ?こいつ、今の私の話をスルーしたあげく、私が婚約者候補じゃないからって、自分の為にこの顔を利用して何かさせようって言っているわよね?本気か!?


 オリヴィアが婚約者候補ではない事は、昔から周囲を巻き込みトラウマを植え付ける程の酷い暴言を彼自身から受けていたから十分に知っていた。


 ついでに言うと、ジョージが母親似で父親に似ていないから、意地悪な貴族たちから、やっかみを受けていたこともよく知っているし(自分が比較対象で話題に出されるから)、王城での貴方の評判も散々苔降ろされているのも耳にしていたから、幼い頃からあれではと同情心はある。


 心の広い私は、今さらこの男を怒ったりはしない。

 ぶっちゃけ、散々怒りまくってきたから、もう何の感情も湧かなくなっているところまで来ている状態だ。


 それに、ジョージに言い返しても、話がかち合わず疲れるだけだって、しっかり学んでいるから、人間は学習する生き物なのよとなっている。


 むしろ、自分の父親のそっくりさんと、結婚しろとか何の罰ゲームだよと、嫌悪する気持ちは大いに理解できるから。

 私はジョージに婚約を拒否されても構わないと、むしろするよね?と、平然と考えているわけで。


 でもね、でもね。

 一言だけ、言わせてほしいの。


 “こっちこそ、

 ジョージだけはお断りだからーーー!”

 

 これだけは言っておきたい!!




次回も回想続き

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