月夜の晩に
いつもありがとうございます☆★☆
明日投稿出来ないので一日前に失礼します。
その夜、オリヴィアは滞在先のクロスター公爵邸で、なかなか寝付けないでいた。
色々な大変な出来事が起こった事が原因なのだろう。
ベッドに入り、目を瞑ると、不安が胸に押し寄せるのだ。
暗い部屋に居るとさらに良からぬ考えが想い浮かび、気が滅入る。
なぜ自分にだけ、人とは違うように見えるのか?
あの人物はいったい誰なのか?
あの場で正直に言ってよかったのか?
皆、困惑していたな…
頭のおかしな奴と思われたかもしれない。
自分の話を本当に信じてくれているのだろうのだろうか?
否定的な意見ばかりが繰り返され頭を埋め尽くす。
このままではまいってしまいそうで、夜風に当たろうと、窓を開け、バルコニーへ肘をつき寄り掛かり、空を見上げた。
真ん丸の大きな月が雲一つない夜空に凛として浮かんでいる。
綺麗。
いろいろな事がいっぺんに起こりすぎて、心がパンクしそうだったのに、あの月を見ているだけで、どうでもよくなってしまう気持ちになる。
あの月はあんなにハッキリと見えているのに、手には届かないのよね。
それは悩んでも仕方ない事だわ。
そう言うことが起こり得るのが現実なのね。
そう、答えが出ないのであれば、いっそ考えるのを辞めてみようか。
今の自分の状況もそうなのだから。
そう考えた時に、下の階から声を掛けられた。
「どうしたのですか?オリヴィア、眠れないのですか?」
ハロルドだった。
彼は、オリヴィアが滞在を延長すると言ったので、王からの任を受けている身だからとオリヴィアが帰国するまでは共に行動し護衛任務を遂行すると主張し、今夜はクロスター邸に共に泊まっていた。
その話を聞いて、オリヴィアは自身の行動を勝手に決めてしまった事を申し訳なく思っていた。
警護の見回りでもしていたのだろうか?
バルコニーの下の庭で、剣を持ち、彼は立っていた。
「あ…はい。ハロルド様はそこで何を?」
オリヴィアは、口ごもりながら返答すると、手すりに手を掛け、下に居るハロルドに聞き返す。
「私は見守りと日課の鍛錬をしておりました。昔から続けている事なので、これをやらないと寝つきが悪いのです。」
ハロルドが照れくさそうに頭を掻いて話す。
「そうですか。」
気落ちしていたので、ここで話を辞めて部屋に戻ろうと思ったが、ふと、昼間のハロルドの話を思い出す。
“何も言わなかった自分に、消極的になり、行動しなかった自分に激しく後悔した”
“言いたいことは言わないと伝わらないから言葉にする“
彼はそう言っていた。
自分で答えが出ないのであれば、いっそのこと他の人に聞いてみてはどうか?
そう思いたったのだ。
「あの…その…ハロルド様は昼間の私の発言を、どう思われましたか?」
不安に想っていたことを思い切って、ハロルドへ聞いてみた。
「昼間の発言とは、どの発言でしょうか?」
ハロルドが首をひねり、聞き返す。
「えっと、その、皆がリチャード殿下だと言った者の事を、私は違う人物に見えると言った発言の事です…だって、そんな事をいきなり言われて、そうなのですねなんて、受け入れられるのものではないでしょう?あの人の事が皆はリチャード殿下に見えているのに、あれは全然違う人物だって言われても、普通ならば、そんなことを言う奴は気がふれたのかもとなりますよね??」
段々と感情的に、苦しそうに話し、オリヴィアは下を向いた。
沈黙が流れる。
「まあ、確かに、自分の見えている物とは違うものだといきなり言われて、かなり驚きはしましたね。」
やはりそうよねと、オリヴィアは肩を落とす。
その落ち込みようにハロルドは慌てて続きを話しだす。
「ですが、ここ数日、貴女と共に行動している私としては、貴女の事を少しは理解できていると勝手に慢心しております。それにより自分の知っている貴女の言葉を信じようと思いました。私より付き合いの長い方々は、より貴女の言葉を信用しているはずです。」
ハロルドの穏やかな声の優しい言葉が、オリヴィアの胸に灯を宿す。
「それに、あの話には前例があったから唐突ではなかったでしょう。馬車での御者も偽者でしたから。貴女の一言、勇気ある行動で、あの時は皆が助かりました。だから、皆、貴女の話を心から信じていると思いますよ。」
ハロルドの気づかった言葉は、オリヴィアの苦しかった心に安らぎを与えた。
「ハロルド様……ありがとうございます。」
月明かりに、涙を溜めて微笑む彼女は、声を失いそうになるほど美しかった。
「…なんて愛らしい…」
本当に小さな声であったが、ハロルドは声に出して呟いていた。
その事に本人は全く気が付いていない。
ハロルドは、これは気を逸らさなければ思わず告白でもしてしまいそうだと慌てて月へと視線を移す。
「月が、綺麗ですね。」
と、急いで話題を逸らしたのであった。
夏目漱石ならば告白だったのに。