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リチャードもどき再び

いつもお読みいただきありがとうございます


「流石ね、オリヴィア。」


 公爵令嬢とのやり取りの後に声を掛けてきたのは、アドラシオン貴族フォールズ辺境伯爵令嬢ニコルであった。


 フォールズ辺境伯爵家はオリヴィアの祖母の生家であり、親交がとても深い。

 フォールズ伯爵は、オリヴィアの事も孫同様に気にかけ、とても可愛がってくれていて、長期休暇などに邸宅へ呼ばれ、定期的に会いに行っている。


「ニコル姉さんお久しぶり。嫁いでからはお屋敷で会えなかったから、とても寂しかったわ。」

 親し気に話しかける。


「フフッ、そうね。オリヴィアは結婚披露宴も参加していなかったから、私と会うのはかれこれ2年ぶりかしら?彼とは初めてね。」

 ニコルも、親しい様子で和気あいあいと返す。

 年が少し離れている2人だが、仲がとても良い事が自然と伝わってくる。


「彼?」

 そうオリヴィアが首を傾け、言葉を零すと、ニコルの後ろから横にずれて一歩前に出る男がいた。


「彼は夫ジェームズ。あのラックランド伯爵よ!フフッ、会うのは初めてよね。」

 ニコルが紹介する。


「初めまして、フォード公爵令嬢。私はジェームズです。貴女の事は妻と妹からよく話を聞かされています。それなので、初めてお会いした気がしないのですよ、ハハハ。身内共々、これからもよろしくお願いしますね。」

 ジェームズがいつもの調子のよい笑顔で、挨拶する。


「初めまして、ラックランド伯爵…フッ。私はオリヴィア・フォードです。フフッ、ご、ごめんなさい…クフッ、こちらも色々と、ええ、色々と話をお伺いしておりまして…メグのお兄さん…プッ、す、すみません、少しばかり余計なことを思い出してしまいました。こちらこそ、よろしくお願いします、クックククク。」


 オリヴィアがマーガレットの話を思い出したようで、鼻の穴をピクピクさせて、笑いを堪えている。

 妹が何か吹き込んだようだと、ジェームズが感づき、苦い顔をしている。



 オリヴィア達が仲良く先程の突撃してきた公爵令嬢の話や(メグ)の話、最近の出来事についてなどを和気あいあいと話していると、割って入る者がいた。


「やあ、フォード公爵令嬢。また会ったね。先程の踊りは見事であった。クククッ、弟は間に合ったようでよかったよ。」

 リチャードだ。


 いや、リチャード殿下ではない、オリヴィアにだけリチャードには見えない例のあの人だ。

 オリヴィアはそれに気が付き、周りの様子を伺う。


 ラックランド伯爵も、ニコルも、緊張が走り身構えたのを感じる。

 二人共、貴族の笑顔を張りつけて対応しており、何もつかめなかった。


「ご心配をおかけしましたが、お陰様で、無事に終えることが出来ましたわ。」

 オリヴィアも、とりあえず無難な対応した。


「やあ、ラックランド伯爵に奥方…ふーん、君達は彼女と親しい様子だな。なるほど、君の奥方は、フォールズ辺境伯家の出だったね。そうか、そう繋がると言うわけか…ふむ…なるほど。」

 何やら腕を組み、小さく頷いてブツブツ言っている。


 リチャードの言動に、ニコルが困惑の表情を浮かべている。


「リチャード殿下、お久しぶりでございます。側妃様の歌声はとても素晴らしいものですね。デーヴィッド殿下も彼女の歌声に心安らいだことでしょう。」


 ジェームズがリチャードもどきにそう言うと、

「あ?側妃?ああ、あいつが歌の上手い奴を所望したから、そう見繕っただけなのだがね。」

 投げやりにそう答える。


「えっ!?それはどういった意味なのでしょうか?」

 と、ジェームズが驚いた声を出す。


 その時、辺りが騒がしくなり答えは聞けなかった。

 喧騒が徐々に近づいてきている。


「ここに居ましたのね。リチャード。」

 国王陛下の側妃様のお出ましだ。


 いつもならば、王妃が居る式典には決して現れる事の無いプライドの高い側妃だが、王妃の子の弔いの場であり、王妃が意気消沈な姿を自分の目で拝むために、この日は意気揚々と参加した様子。

 性格が悪すぎる。


 国王の側妃がオリヴィアを視界に入れる。


「お前は…第三王子(あの子)が勝手に決めた婚約者なんて、誰も認めていませんわよ。他国の貴族の令嬢だか何だか知らないけれど、ここで何をなさっているのかしら?他国の者が居ていい場ではないはずよ。」

 強い口調で言い放った。


 その声がヘンリーへ届き、急いで話していた相手に断りを入れて駆け付ける。


「私が何をなさっているのかとお聞きにしましたか?本気でそうおっしゃっているのですか?それならば、私も誠心誠意お答させていただきます。私は、婚約者であるヘンリー殿下の実兄であるデーヴィッド殿下がお亡くなり、鎮魂の舞を踊るようにとアドラシオン国王(陛下)に呼ばれ、この場へ来ております。これは、王族ならば知る事実であると王妃様より伺っております。そして、私はそれだけでなく、個人的にデーヴィッド殿下への弔いの為にも、陛下に招かれてこの場に居るのです。優しく大らかな殿下を私は心から尊敬し、亡くなったことを深く悔やみ、悲しみ、心底落ち込んでいる。だが、それでも前を向いて歩んでいくために、この場で殿下への気持ちを、殿下を思いやる者達と共に分かち合い、共に故人を偲ぶ為にここにいるのです。デーヴィッド殿下を慕い尊敬する私が、何故この場に居てはいけないのでしょうか?弔いの気持ちが無い、よこしまな心を持った者こそが、この場には居るべきではないと、私はそう思うのです。」

 オリヴィアは、目力いっぱいに強く見つめ、国王の側妃へ返した。


 たじろぐ国王の側妃…すぐに体勢を直し、言い返す。

「私が弔いの気持ちのない、邪なものだとでも言いたいのかしら!?なんて無礼な娘なの。」

 側妃はオリヴィアを睨みつける。


「いいえ、私は、いち意見として、そのような者はこの場に居るべきではないと発言したまでです。特定の者を示しているわけではありません。まして、側妃様の事を言っているのではないのです。ですが、側妃様がそれほど気に障るという事は、私の言葉で怒りに触れるような要素をお持ちという事なのでしょうか。いったいどの部分が気に障ったのか、お教え願いませんでしょうか?」

 さあさあ、白状しなさいと言った風に、オリヴィアが迫る。


 大量の汗を掻きながら、側妃は言った。

「そのようなもの、私は持ち合わせないわよ。リチャードを探しに来ただけですもの。ほらっ、リチャード、さっさと行きますわよ。フンッ。」

 国王の側妃はそう言うと、踝を返しサッサと退散していった。


「迎えが来てしまったので、私も大人しく退散します。それではこれにて失礼。」

 踝を返し、すぐに追いかけるかと思いきや、立ち止まる。

 振り返り、リチャードもどきが近づき小声でこう言った。


「またお会いましょう。我が主の墜とし仔。オリヴィア。」

 言い終えると、今度は振り向くことなく、雑談する貴族の中へと紛れ、消えて行った。


「ど、どういう意味なのかしら?」

 放心しているオリヴィアのもとへ、ヘンリーが駆け寄る。


 ヘンリーだけでなく、ウィリアム達も先程の王の側妃の声に気づき、来てくれていたようだ。

 口を挟んでさらに面倒事にならぬように、しゃしゃり出ずに、一先ず見守っていたのだ。

 オリヴィアが上手く対応したことに、皆が褒めている。


「これくらいの強気の対応が出来なければ、これから彼らと関わっていけないでしょう?第三王子の婚約者として、これくらい出来て当然のことよ。」

 と、オリヴィアは胸を叩いて言うので、ヘンリーが口元を押さえプルプルするほど、感激している。


 だがすぐに、ヘンリーは正常に戻る。

 胸を叩いたオリヴィアの手が震えていることに気が付いたからだ。

 オリヴィア本人は気づいていないが…。


 気付いた皆が、暖かい目で彼女を見つめる。


 オリヴィアにハロルドがそっと近づき、よく頑張ったなと頭を優しくポンポンする。

 ブワッと頬を一気に染め、照れるオリヴィア。


 ヘンリーが急いでハロルドの手を掴み、ハロルドを睨みつけ威嚇した。



今はラックランド伯爵夫人、フォールズ辺境伯爵のご令嬢であったニコルは【全力で掛かって来い!】にジェームスの婚約者として少し出ています。


ヤキモキする三角関係。

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