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王弟の娘

いつもありがとうございます!!

 

 キャマラドの間にて、鎮魂の晩餐が始まった。


 鎮魂の晩餐とは、ツインレイの後に行うもので、皆で酒を飲み交わしながら故人を想い、言葉を交わし合い故人を偲ぶ場である。


 広間に入ってからは、今日の踊りへの賛美のコメントや亡くなったヘンリーの兄であるデーヴィッドの話を、ヘンリーに友好的な貴族らと交わしていた。


 デーヴィッドが亡くなって以降、王妃の体調が優れないので陛下が付きっきりで寄り添っている。

 今にも後追いをしてしまいそうで、目が離せないくらい悲嘆しているというので致し方ない。

 そのため、事情により挨拶を終えると早々に退席してしまった王と王妃に変わって、全ての仕事がヘンリーへと回ってきていた。

 この場にいる多くの貴族への応対もその一つである。


 本来ならば陛下が対応していた者たちも、ヘンリーのもとへと声を掛けにやって来るのでいつも対応するよりも多くの者達を相手にしなければならなかった。

 時折、ヘンリーの隣にいるオリヴィアが、輪からはじき出され、のけ者のようになる場面もある。


 少し距離を置いた位置でその様子を伺い、ひっそりと待つ者がいた。  

 その瞬間を見逃さないと獰猛な鷹のように狙い、奴らはやって来る。


「失礼、少しよろしいかしら?」

 声を聞き取り、後ろを振り返ると、そこには令嬢が一人立っていた。


 その令嬢は見るからに、第二王子リチャード殿下を支持していると思われる人だ。

 なぜわかるかと言うと、頭がこんもりしているからだ。

 髪の毛を顔の二倍近く盛り、レースと宝石で装飾している頭であった。

 これは、リチャードの母親、現国王の側妃の頭と同じである。

 以前は装飾やら盛り具合がこの2倍、3倍といった大きさの頭だったのだが、陛下にやり過ぎだと咎められ、少しだけ落ち着いたのだという。

 それでも、オリヴィアからしてみれば、随分と派手である。


「私に何か御用でしょうか?」

 オリヴィアは話し掛けてきた目的が分からないので、詳細に気を配り、柔らかい笑みを作り、返答する。


「貴女は、ヘンリー殿下の婚約者、ウェルトのフォード公爵令嬢ですわね。私は、アデラシオンの王弟クィーンズ公爵の娘、ジェーンですの。貴女のお父様も、ウェルトの王弟だとお聞きしましたわ。王弟の娘同士、仲良く致しましょうよ。」

 そう言ってきた。


 確か、彼女の父親のクィーンズ公爵は、現陛下の弟で、アドラシオン国王の側妃と結婚を申し出た程の側妃ファンという人物だったわね。


 側妃の公国からの輿入れ話が持ち上がった際に、王弟はすでにアドラシオン貴族の伯爵家の娘と大恋愛の末の結婚を遂げており、臣籍降下していた。

 だが…そんな王弟は側妃にどっぷりと浸かり陶酔していった。


 元々夢見がちで衝動的、浪費家である王弟は、伯爵の娘との結婚生活が上手くいっておらず、その生活に嫌気がさしていた。

 その時、実兄の側妃にと連れて来られた彼女に一目ぼれをし、酔いしれたのだ。

 離縁してでも側妃と一緒になりたいと妄言を吐いた。

 だが、それは公国が許さなかったので叶う事はなく、伯爵家も面子の為に頑なに離縁はしなかった。

 という経緯から、現在、王弟とその奥様との関係は酷く冷めきっている。

 王位継承権は持っているので、それがなくなればどうなるやらとは聞くそうだが…そんな家で育った彼女は、娘の事は溺愛している父の影響で側妃にかなりの憧れを抱いているようであると聞いている。


 ヘンリーから親族の話を聞かされた時に、彼らの事を嫌な顔をしてそう話をしていた。

 それから、彼女は幼少期に王子妃には相応しくない品性の者だとして烙印が押され、既に王子達の婚約者候補リストから外れている。

 彼女のおまけ話として聞いた話では、彼女は数年前に初恋の君であったウィリアムと婚約がしたいがために対決を挑み、大きな大きな頭で小犬を必死に捕まえたのだが敗れたという。


 その話が気になっていてあとでマーガレットに詳しく話を聞いたのだが、おかしな対決をウィリアムが繰り返していた話を聞かされ、そちらに興味が移ってしまい、彼女の事はそれ以上知り得なかった。


 その時も、こんな頭で犬を捕まえていたのかな?と考えながら視線を目の位置より少し上げて、凝視してしまう。


 おっと、そんな事よりも今のこの状況よ。

 そんな側妃ラブの彼女が、私と仲良くしたいのだと言う理由は…何か企んでいるのかな?

 思いっきり、側妃の味方の者、つまりは敵なのよね??

 きっと何か裏があるはずよね???


「ええ、それはよい提案ですね。」

 オリヴィアは当たり障りなく返す。


「そう!それでは仲良くなったよしみにお願いがあるのよ~ヘンリー殿下の王子妃の正妃の座を私に譲って下さらない?」

 そう悪気も無く、自身に満ち溢れた表情で、王弟の娘ジェーンは言い放ったのだ。


 周囲の音が一斉に消える。


 皆、オリヴィアが何と答えるのかを固唾をのんで見守っていた。


「それは、私にはお答えできかねます。」

 オリヴィアは凛とした声で答え、不敵に微笑む。


「では、貴女はヘンリー殿下の正妃でなくても良いという事なの!?ヘンリー殿下をお慕いしていないという事なのね。それならば話が早いわ。」

 公爵令嬢が憎しみを含んだ表情で笑みを浮かべ、大きな声で問う。


 その質問に、先程の微笑んだ表情から一変し、冷たい表情でオリヴィアが答える。


「私はヘンリー殿下を慕っていないなど一言も申しておりません。デマを吹聴するのはよしてください。私とヘンリー殿下は想い合っています。そこに割って入ろうというあなたの無謀な挑戦、私は受けて立ちますわ。ですので、先程の仲良くするという発言は、なかった事と致しましょう。それと、私に正妃の座を譲れという発言ですが、あなたは何か大きな勘違いをしてやいませんか?“正妃の座を譲れ”とのこと、その様な大事は、私ひとりで発語できるものではありません。それは、アドラシオン王家がお決めになる事柄、私に決定権はないのです。その様な事も分からないのに、王子妃になりたいとおっしゃるなんて…フッ、まずは初等科教育からやり直すことを強くお勧めします。」


 最後の鋭いナイフのような言葉が公爵令嬢へと向けられる。

 美人が凄むと恐ろしいのであった。


 迫力に押され、後ずさりさせられながら、お父様に言いつけてやる!!と捨て台詞を吐いて踝を返し、公爵令嬢はそそくさと逃げ去っていった。



オリヴィアはやればできる子。

やる時はやる女なのです。

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