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浮気してませんから

いつもありがとうございます

 

 室内に沈黙が流れる


「なるほど、傷心したお前は、慰めて貰おうと婚約者のもとへと走ったという訳か…」

 ウィリアムが馬の吸気を変えようと冗談を交えて軽い口調で話し始めた。


「そうしたら、婚約者とその護衛との浮気を目撃しちゃったというわけね。ふむ、可哀そうに。」

 ケント医師も参入。


 え!?はぁ?浮気??誰と誰が!?!?

 この人、今なんて言った? 


 オリヴィアが何を言っているのだとケント医師に鋭い視線を向ける前に、皆が反応する。


「「「浮気!?」」」


 聞き捨てならないワードを耳にし、一斉に合唱したのだ。


「う、浮気なんてしてないから!!!」

 オリヴィアが即座に否定する。


「そうですよ。こんなオジサンをうら若き令嬢が相手にするはずがないでしょう。」

 アーハイム公爵が自虐的にフォローする。


 困ったようにヘラヘラと自分を蹴落とすハロルドに何故だがオリヴィアは腹が立った。


 あんなに色香を巻き散らして女性を虜にしているのに、どの口が言うのかと、それと同時に、本当に自信がないのなら、自分と同じようで可哀そうだとも思えた。

 そう考えたら、口が滑っていた。


「それ、本気でおっしゃっていますの!?あなたは周囲にセクシーを振りまいて、年中、薔薇背負っていらっしゃいます!道を歩けば女性達があなたへと熱烈な視線を送っているじゃないですか!?それこそ幼女から老婆まで。そんな自虐的なセリフは、眉毛を全部沿ってからおっしゃってください!!そうでないとその言葉を受け入れるのは無理です。あなたはとても魅力的なのですから。つまりは、もっと自分に自信を持ってください!」


 眉間に皺を寄せてオリヴィアは突っ込みを入れ、一生懸命に励ました。


 初対面の時に自分を若いと繰り返し主張していたことを思い出し、あれも彼の外見コンプレックスがもとであったのかと哀れに想い、思わず強く励ましてしまっていた。

 全てはオリヴィアの思い込みの空回りなのだが…


「リヴィ、突っ込むところはそこじゃないわ。それに眉毛って…」

 マーガレットが残念そうに諭す。


「ブッ、ほらっ、ほらね。私の婚約者は彼にベタ褒めさ、もう手遅れだったのかもしれない。俺はもう捨てられちゃうんだ。うぅぅ、悲しいな………ブグッ。」

 ヘンリーがオリヴィアの言葉に泣く真似をするのだが、最後は笑ってしまって中途半端になっている。


「ああ、あれはもう手遅れだな。なぜなら公爵が眉毛を剃っていないから。」

 ウィリアムがさらに悪乗りする。


「だから心は移ろいだと言ったでしょうに。だって彼、立派な眉毛があるもの。負けちゃうよ。」

 フレデリックが追い打ちを掛ける。


「あっ、えっ!?こ、言葉の選択を間違えてしまったようです…うぅ恥ずかしい。と、兎に角、浮気なんて、本当に違いますから!だから、えっと、ヘンリー!私を信じてください!!」

 オリヴィアは誤解を解こうと必死にアタフタする。


「もう、皆、リヴィをからかうのを止めてよね。リヴィはそういうからかいにはあまり慣れていないのだから。あなた達、まるで社交界の意地悪令嬢みたいだわ!!ウィルが一番の親玉ね!」

 マーガレットが助け船をだした。


 皆が顔を見合せて、確かにやり過ぎたといった表情をした後、申し訳なさそうにオリヴィアを見る。

 見つめられたオリヴィアは、これは彼らの揶揄いであったのかと漸く気づき、馬鹿にされたと怒りが湧き、顔を歪ませ泣きそうになる。


 表情の変化に気づいたヘンリーが瞬時にオリヴィアを抱きしめ詫びる。

「リヴィ、すまない!」


「「フォード嬢、すまない。」」

 ウィリアムとフレデリックも慌てて謝った。


 その時、扉向こうから侍従が声を掛けた。

「そろそろ、清めの儀が始まる時刻です。皆さま、キャマラドの間へ。」


「さ、さあ、皆、行くとするか。」

 ヘンリーが気を取り直すように明るく皆に声を懸けながら振り返ると、まだ怒りの冷めないオリヴィアが、もの凄く不機嫌に口をプクッと膨らませていた。


 その可愛らしい様子に、ヘンリーは先程の憂鬱は吹っ飛び、彼女にさらにメロメロになるのである。


 そっと、オリヴィアの耳元へ顔を近づけ、耳打ちする。


「すまない、嫉妬した。君があまりにもあの御方を褒めるから、ヤキモチだった。私だけを見ていてほしい。」

 オリヴィアは耳を傾けていた顔を上げ、ヘンリーの顔を覗き込む。

 ヘンリーは少し悲しげな表情をしていて、ほんのり笑っていた。


 それを見て、オリヴィアの胸に杭が打たれる。

 自分は彼の婚約者であると、再確認した。


 彼はこんなにも自分を愛してくれているのだと…。


「私は、浮気など致しません。ヘンリーが私を手放さない限り、私はあなたのものなのです。家名に誓います。」

 信じて欲しくて、そう返した。


 誰からも相手にされないと悩んでいたオリヴィアを婚約者に向かい入れ、救ってくれたヘンリー。

 婚約してもう何年も経つのにずっと変わらずに愛を囁いてくれている。


 自分も返したい……。


 そう思い、精一杯の気持ちを言葉にし、オリヴィアはヘンリーに笑顔を向けるのであった。




次回は清めの儀

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