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聞きたくなかった

いつもありがとうございます!!!


「きゃあああ、ふしだら!」

 オリヴィアは思わず悲鳴を上げ、後ろに大きく退いた。


「ふ、ふしだらって、ブハハハハッ。」

 ハロルドが声を出して笑う。


「ちょっ、ハロルド様。笑い事では済まされないことですよ。あああ、私ったら、なんて卑猥な行為を、これよねあれよね、男を襲う……ち、痴女だわ!?」


 真っ赤な顔のオリヴィアの嘆きに、さらに大笑いをするハロルド。

 ツボに入ったのか、笑いが止まらない。

 部屋の外まで漏れ聞こえていた。


「ちょっと、そんなに笑わないでくださいよ。酷いです。」

 オリヴィアは涙目でハロルドを片手で叩く仕草をする。

 それをハロルドが掴む。


「ハハハ、すみませんでした。もう、もう笑いませんから…ブフフッ。」

「クゥ…うぅ。」

 オリヴィアが真っ赤になって拗ねていると、バンッと、ドアが勢いよく開いた。

 開け放ったのは、ヘンリーである。


 歌が終わったのか、駆け足で戻ってきたようだ。

 息切れが尋常ではない。

 それにしても、早かった。


「はぁはぁはぁはぁはぁ……2人共、とっても楽しそうですね…はぁはぁはぁはぁ…」


 目の前には、長椅子に座り、扉がいきなり開いたことで驚いて笑いの止まったハロルドと、腕を掴まれ涙目のオリヴィアがいた。


 (なぜ、オリヴィアは涙目なのか。

 なぜ、公爵に腕を掴まれているのか。

 なんだ?この部屋の甘い雰囲気は??

 とにかく、2人が近いことが、俺は気に入らないぞ!!)

 ヘンリーは状況に憤る。


 ヘンリーが2人のもとへ速足で近づき、オリヴィアを自分の胸に引き寄せて、2人を強制的に離れさせた。

 そして、アーハイム公爵へ睨みをきかす。


 ハロルドはそれを目にするとしまったと思い、慌てて体制を整え、立ち上がった。


「2人で何をしていた?」

 ヘンリーが怒りを我慢している声で、ハロルドに質問する。


「で、殿下が考えているような疑わしいことは一切しておりませんよ。ただ単に、普通の会話をしていただけですから。」

 ハロルドが困った顔でヘンリーに返す。


 オリヴィアが怒っているヘンリーを見て、キョトンとしている。

 なぜヘンリーが怒っているのか、ハロルドを睨んでいるのかが分かっていないのだ。



「私も見ていましたが、2人は普通の話をしていただけでしたよ。」

 彼らの後ろからそう声がした。


 振り向くと、フレデリックが窓際に立って居た。


 えっ、ええっ!?いつから居たの??


 オリヴィアが驚いた表情をしていると、

「ええ、彼はずっとこの部屋に居たので、証言してくれるはずです。だから、心配しないでください。」

 ハロルドが、ヘンリーへ言った。


 は、え?彼が居たのを知っていたの?

 え、え??今、ずっと居たって言わなかった??

 2人きりだと思っていた…じゃあ、さっきのふしだらを…彼にも見られたって事よね!?!?

 う、ああわあわあああああ!?内心雄たけびを上げて、顔を青くするオリヴィア。


「フォード嬢、お気を確かに。」

 脳内を汲み取ったフレデリックが近くまできて、憐みの表情で励ました。


 オリヴィアは頭を抱え落ち込む。


「つまり、2人きりじゃなかったのか、そうか、なんだそうだったか!!」

 ヘンリーは逆に上機嫌になった。


 ケント医師がオリヴィアのもとへ来て、小声で話し掛ける。

「私は男爵位。大広間へは高位貴族のみしか入れないので、ずっとここにいましたよ。フォード嬢、何だかすみません。」


「あ…いえ…それよりも、先程の事は忘れてください。お嫁に行けなくなるので…」

 オリヴィアがモゴモゴと答える。


「その点は問題ないと思われます。保証しますよ、ねっ、ヘンリー。それはさておき、フォード嬢。清めの儀までに、足の治療をしておきましょう。そこの長椅子に腰かけてください。もっと早く手当てをしたかったのですが、声を掛けづらい雰囲気でしたのでね…えっと、ヘンリーにお願いしておいた氷も丁度届いたようなので、治療を始めましょう。この氷の入った水桶に足首を入れてください。」


 ケント医師がオリヴィアの治療を始めたので、皆、いったん落ち着き、一息つく。


   ***


 暫くして、ドアがノックされ、ウィリアム、マーガレット、キャサリンが顔を覗かせた。


 ウィリアムは部屋に入るなり、ヘンリーを叱りつける。

「おい、バカ王子!!いい加減にしろよ。途中で出て行きやがって、皆、気づいていたからな。」


 ヘンリーが斜め上を見上げ、聞いていないアピールをする。

 その態度にウィリアムがさらに苛立ち説教をする。

 ガミガミ叱りつけていると、マーガレットが止めた。


「ウィル、少し落ち着いて。ヘンリー殿下にも何か理由があったのでしょう。無暗に叱りつけないで、話を聞きましょう。」

 マーガレットの言葉に、ウィリアムが素直に静まる。


 皆がヘンリーに注目する。


 視線に返事をするように、ヘンリーが口を開いた。


「…腹が…立った…」

 悔しそうに唇を噛む。


「あの女、リチャードの側妃を紹介され、妃にする事を告げられたのが一年ほど前だ。その頃から、あの女の素性を調査していた。あれは、アドラシオンの片田舎で小さな領地を持つ貧乏な伯爵の養女であるという事は直ぐに分かったのだが、養女になる前がなかなか突き止められなかった。伯爵が養子に彼女を迎えてすぐに亡くなってしまっていて、息子が跡目を継いだのだが、何も知らされていなかったからだ。伯爵には保護することを目的にした歳離れた妾がおり、それがある色男に伯爵を紹介するようせがまれ、伯爵へ取り次いだそうだ。側妃が養女となると同時に、領地の膨大な借金が消えているのと関係あるのだろう。伯爵は持病を抱えていたと言うし、死が近いことを予見していた。膨大な借金まで息子へ受け継がせたくはなかったのだろう。伯爵の妾から情報を辿り、調べたら、側妃は西大陸出身だと分かった。さらに独自のルートで調べあげると、ある貴族の名が挙がった。そしてその貴族の館で働いていたメイドの娘へと辿り着いた。その女は西大陸ミモザ地区でオペラ歌手として舞台に立っていた。それがリチャードの側妃だ。何でこんな女を王子の側妃に迎えたのかとずっと疑問に思っていたのだが…」


 1つも音を立てず、ヘンリーの言葉を皆が聞いている。

 ヘンリーが言葉に詰まり話が一度止まった。


「西大陸のオペラ歌手?なぜそのような者が第二王子の側妃に?リチャード殿下が視察に行って、お忍びで掛けた先で見初めた者なのでしょうか?」

 キャサリンが静寂の中、疑問を投げかける。


「いいや、リチャードは幼少期に側妃と同行した外遊以来、西大陸へは渡っていない。おそらく、誰かがあの女を用意したのだ。美しく、皆が圧巻する歌声で鎮魂歌(ちんこんか)を歌える王子の側妃(ひと)をあの場に立たせるために。一年、いや、それ以上前から…兄様の鎮魂歌の為にあいつは用意されていた…そう考えたら、あそこで呑気に歌など聞いていられなかった…」


 言い終えたかという瞬間にサイドテーブルを拳で強く叩く。

 ヘンリーの苦しく絞るような声に、悔しさが滲む。


「では、デーヴィッド殿下を亡き者にしたのは、やはり…」

 マーガレットが確信を問おうとした瞬間、被せる様に言い放つ。


「リチャードだ!!」

 ヘンリーが強い口調で叫んだ。


「そうか、先程、ハングルド伯爵令嬢、今はハリントン夫人に会いましたの。ダンスパートナーであり夫のロイス殿も一緒でした…ですが…着ていた衣装が…お二人の鎮魂の舞の衣装とかなり類似していたので、事前にツインレイを踊る代理としてリチャード殿下側が用意していたというわけですね。そうなると、先日の馬車の事故も、ヘンリー殿下を先程襲撃した者達も…あの方の差し金ということに…」


「そうだろうな…」

 キャサリンの仮説に、ヘンリーは感情のない声で同意する。

 全て分かっていたのだろう。


「という理由で、俺はあの場から立ち去ったのだ。」

 ヘンリーが思わず感情的になってしまった事を反省し、気持ちを切り替えて、軽い口調でウィリアムへと返事をする。


 室内に重い沈黙が流れる。





今回はシリアスな雰囲気でした。

次回はいっぺんしワチャワチャへ。

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