王城内での激闘
お読みくださりありがとうござます
今回はヘンリー殿下視点です
一方、ヘンリー王子は、ウィリアムと共に戦っていた。
まさかの王城内での敵襲である。
――遡る事、半刻前。
ヘンリーは、会場に不審な仕掛けを見つけたと従者から報告を受け、対処に追われていた。
シャンデリアの上に蝋燭仕掛けの時限式で複数の短剣が落ちてくる罠が設置されていたのだ。
そのままにしていたら、踊る己の頭上に落ちてきていたかもしれない危ない仕掛けであった。
だが、こんな場所にしかけるとは、ヘンリーのように周到な性格ならば、必ず調べさせる場所である。
まるでこの罠を見つけてくださいと言っているかのように、そんな場所に分かりやすい罠を仕掛けてあるなんてと、胸がざわつく。
マヌケな奴が仕掛けた罠なのか、はたまたもっと裏のある何かがあるのか?
「カーター、例のあれを用意しておいてくれ、やはり念には念を入れておきたい。」
ヘンリーが斜め後ろに待機していた従者のカーターにそう言うと、カーターは深く頷き、声を震わせ返事をした。
「今度こそは…私にお任せください!殿下!!」
急ぎ動き出した。
前回の馬車の事故の際、馬車から長く離れているうちに事が起こり、主と主の婚約者を危険に晒してしまったと言う責任を負い、信用を無くしたとカーターは落ち込んでいたのだ。
それなのに、そんな自分に重役を任せてくれると言うヘンリー殿下からの信頼に、一層の気合が見られる。
そんな漲る力を隠せないカーターを見て、ヘンリーは深く頷いた。
だが、ヘンリーは先程の蝋燭の仕掛けが気になりモヤモヤしたままであった。
不安であるので、急いで大事なオリヴィアの元へ戻ろうとしたのだが、第一王子の死に憔悴し後追いをしかねない王妃に懸命に対し、寄り添い慰めている陛下の代わりに、式の進行や準備を全てやらなければならない立場となっているヘンリーのもとへ、ようやく見つけたと言った様子で、次から次へと各所の担当が最終確認へとやってきていkて、意見を求むのである。
そして、ようやく、戻れるかとなった時には、すでに開始時間目前となっていた。
まずいと焦り、足を動かす。
広間を出てから王子であるがゆえに駆け足はせずに回廊をこれでもかと速足で移動していた。
開始時間が迫り、早くオリヴィアと合流する為にもう駆け足に変えようと、大股で踏み出そうとした時である。
あの部屋付きの宮廷侍女が、殿下、殿下と呼びながら、血相を変えてやってきたのだ。
そして、目の前に来た彼女はこう言った。
「大変です、ヘンリー殿下。フォード嬢が、何者かに連れ去られました。」
汗を掻き、息を切らして言う様子から、ただ事ではないと汲み取る。
先程、この侍女について聞くために王妃に遣いを出した。
自分が行かせた身元のハッキリしている者だと、王妃からは返答が来ていた。
彼女は1年ほど前から宮殿で働いている宮廷侍女で、よく働き、気が利き性格も良い信用できる者なのだという。
年もオリヴィアと同じくらいだから話しやすいだろうと気をきかせて、困ることのないようにと彼女をオリヴィアの元へ向かわせたのだと、王妃からの返答としてきていた。
それなので、この侍女は危険ではない排除しなくてもよいだろうと判断していたのだ。
その侍女からの報告は、ヘンリーに酷い恐れを生じさせた。
あのシャンデリアの簡単な仕掛けは、自分をあの部屋から居なくさせるためのものだったのだとしたのならと、そう考えさせられたからだ。
リヴィが危ない!!
ヘンリーは疲れや緊張などの要因も重なり、これまでにない焦りと動揺を見せ、冷静さを欠いた。
そして、いつもならば取らないだろう行動をとってしまった。
「私、攫っていった方向を知っています。」
そう言った侍女の後ろをついて行ってしまったのだ。
行きつく先は、王城の人気のない袋小路。
そして、敵に囲まれたのだ。
もうその時にはヘンリーの近衛騎士は不意打ちを付かれ何人かは倒されていて、すでに姿が消えている騎士もいた。
自分の近くに居た近衛騎士が攻撃を受ける音で異変に気がつき、ヘンリーも自ら応戦する。
だが、敵は多勢である。
剣の実力のあるヘンリーでも、こう大人数で来られては、残った数人の近衛だけでは厳しい状況だ。
後悔先に立たずである。
このままではまずいと苦しい状況の時に、敵の後ろからヘンリーの名を呼ぶ声がした。
「ヘンリーーーーーー!!!!!」
あ、この声は、ウィリアム。
「ウィーーリアーーーーム!!!!!」
ここだと叫ぶヘンリーの元へ、ウィリアムがクロスター家の護衛と更なる近衛騎士の部隊を引き連れてやって来たのだ。
よーし、加勢が来た反撃だ!
と思ったのだが、ウィリアムの連れてきた近衛騎士の一部が反旗を翻す。
「は??どういうことだよ!?」
ウィリアム、激おこです。
この裏切った騎士は第一王子の近衛の隊だった者だ。
第二王子派に乗り換えたのか、元々そうであったのか分からない。
先程のヘンリーの近衛にも混じっていた裏切り者たちと同様、平然と矛先を向けてくる。
その様子に絶対に許さんと怒りが込み上げる。
こいつら、もしかしたら兄上をも裏切ったやつらなのかもしれない。
そう考えた瞬間、ヘンリーが怒りのパワーで、周囲の敵を一掃した。
もともと、剣技の才があるヘンリーだが、これは火事場の馬鹿力だろう。
見事に敵を蹴散らした。
彼らを捕らえ、さらに、侍女も捕らえる様にヘンリーが怒りの表情で命じる。
よく通る声は周囲一帯に響き渡った。
「あの侍女、さっき話した時に顔を見て、どこかで見たことあるなって引っかかっていたんだ。あいつだ…お前との犬対決で、敗れた公爵令嬢に腰巾着でくっ付いていた、あいつ、告げ口令嬢だ。」
ヘンリーが汗を拭いながらウィリアムへ話す。
「あ~そんな奴いたな!デリカ子爵のところのだったか?家名は覚えているが、顔はどんなだったか?お前、よく覚えているな、スゲーわ。確か、あのあと直ぐに、あいつの家は公爵家から見放されて、公爵家から優遇されていた仕事を取り消されたとかで没落寸前となったはず。最近になって少しだけ持ち直したと小耳に挟んではいたが…そうか、娘が王城で働き、側妃の手先となっていたとはね。まあ、これであの家は完全に終わりだ。」
必死で戦っているとは思えないような爽やかな笑顔でウィリアムは話し、ヘンリーと共に普通の会話をやり取りしている。
「そうだな。それよりも、急がねば。もう儀式が始まっているぞ。」
「ああ、分かっている。急ごう。」
2人は話ながら、敵を順調に倒していた。
「居たー!!殿下を救えー!!」
騎士団を連れた男が突進し来る。
妹に言われたとラックランド伯爵が駆け付けたようだ。
「ジェェェェェエームーーース、後始末をしっかり頼むーーー。」
もう時間がないと言った状況であったので、後片付けをラックランド伯爵に任せ、ツインレイの行われている大広間へとヘンリーたちは急いだ。
大広間の手前で、青い顔をし右往左往するフレデリックと合流した。
急いで、大広間へ入る。
全ての窓が布で覆われ、燈は多くなく、近づかないと顔を確認出来ないほどの暗さになっている。
まだ目は暗さに慣れていないが、静かに隅の柱の影へと移動する。
やはり始まってしまっていた。
明かりの集まる中央に、仮面を着けたオリヴィアと仮面を着けた男が踊っている。
仮面を着けたあいつは誰だ??
ヘンリーは思わずその男に嫉妬する。
今すぐ、そこへは俺が行く。
そこは、俺の居るべき場所だぞ!
リヴィの隣は俺でなければならしい。
待っていろ、リヴィーー!!!
ヘンリーは心の中で叫ぶのであった。
次回、オリヴィアついに入室