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不安要素

お読みくださりありがとうございます

 

 その時、ドアのノック音がする。

「ウィル兄さん、私です。入ってもよろしいでしょうか。」

 女性の声がする。


 ウィリアムが部屋に入る様、その女性に返す。

 入って来たのは、ウィリアムに似た整った顔立ちの美女であった。

 あ、これは確実にウィリアムの妹だろうと、オリヴィアは察する。


 それは正解で、彼女はウィリアムの妹でメグの大親友のキャサリンであった。

 彼女は、アドラシオンの公爵令嬢であり、ヘンリーを昔から知る仲の良い女性であるので、オリヴィアが婚約者でなければ、ヘンリーの婚約者として最も有力とされていた令嬢であった。

 今でも彼女に婚約者がいないのは、ヘンリーの側妃になるためではないかと囁かれていると噂を聞いたことがある。


 そんな彼女がオリヴィアの手を取り、“メグから貴女の話は沢山聞いている”“ずっと会いたいと思っていた”“会えてうれしい!ケイティと呼んで”と、嬉しそうに笑い、挨拶をするのだ。


 その屈託のない笑顔に本心からの言葉であると伺えて、自分も愛称で呼んでほしいと、緊張を解き、柔らかく微笑むと、そう返していた。

 すると、彼女は弾んだ笑顔でもちろんと答える。


 気さくで、とても可愛いらしい性格のとても美しい令嬢だった。


「あっ、そうだわ。ウィル兄さん、大変よ。第二王子(リチャード)が行動を開始したわ。昨夜から夜通しの大聖堂での長時間の祈りを行い、早朝から王都の広場で国民に向けて、ディビッド殿下の死を嘆き、涙を流して演説をしたらしいの。それに対になるように、(ヘンリー)殿下への評判を下げる噂が所かしこに広まっているわ。特に、リヴィを陥れる様な発言が目立つみたい。どうにかしないと、このままでは2人の婚約が危うくなるかもしれない。」


「…!?」

 驚きで言葉が出ない。

 この国で、いったい何が起こっているのか。


「あいつ、民衆を味方につけようと…もう跡目争いを仕掛けてきているのかよ…俺を陥れる気だな。その為に…リヴィを悪者にするとは…クソッ。」

 拳を握り、悔しそうにヘンリーが言った。


「ええ、リヴィを悪者にして殿下を陥れ、貴族たちから2人の婚約を取り消すよう訴えさせる計画みたい。しかもその後釜に例の犬令嬢をと画策しているみたいなの。」

 キャサリンが私の前で言いづらそうに、話す。


「そんな…」

 私は、言葉を失う。


 自分がヘンリーの足を引っ張ってしまっている。

 その事実に胸が痛む。


「大丈夫!!俺がリヴィを守るから!!」

 不安な表情のオリヴィアを見て、ヘンリーが力強く言い放つ。


 熱く見つめあう二人。


「それでは、この後の対策を考えなければなりませんね。」

 甘い雰囲気などお構いなしで、ハロルドが冷静にそう言うので、その場の桃色が吹っ飛んだ。


「あっ!?」

 マーガレットが突然声を上げた。


 皆が驚き、注目を集める。

「メグ!?どうしたんだい?」

 手を大きく差し伸べてウィリアムが大袈裟なリアクションをしながら聞くと、大きな声を出し過ぎてしまったとマーガレットが気まずそうに話し出した。


「さ、さっき足を負傷って言ってなかったかしら?フレデリック様が、リヴィは足を負傷しているから、安静にしていなければならないって、そう言っていましたよね??」


 その言葉に、ハロルドとケント医師以外のその場にいた者達が危機感を持った。


「怪我をしているならば、踊れないわ。」

 マーガレットが眉間に深く皺を寄せ、怪我をしているのならば躍らせないと言う意志を持ってそう言った。


「ああそうか、あの役目か。」

 と、ケント医師も思い当たり、そう言うとどうしたものかと考え込む。


 訳の分からないハロルドが、苛立ちながら質問した。

「ちょっと、皆さん、何なのですか?私に分かるように説明してくださいよ。」


 その言葉に、ヘンリーが答えた。


 ヘンリーの話によると、アドラシオン王国には、古くから伝わる儀式があるのだそうだ。

 死者が出た際、葬儀のち土葬が行われる。

 ここまでは多くの地で行われている事なのだが、その後にアドラシオンでは、もう一つ儀式を行う。


 死者へ安息の祈りを捧げ、現世に残された悲しみに暮れる者達を元気着ける為の追悼式だ。


 遠い昔、アドラシオン王国を築いた先祖が、愛する主人を失い悲しむ友人を励ますために行ったのが始まりだとされていて、それが風習となった。

 庶民や中流階級の貴族なんかでは、舞や歌は簡略し、飲食や語らいがメインとなり厳粛には行われないのだが、今回は王族の儀式、手を抜くことは一切出来ない。

 簡略はない。


 この追悼の儀の総称をアドラシオン王国ではツインレイと言うのだそうだ。


 ツインレイでは、一部で集められた著名な音楽家の演奏。

 二部で、鎮魂と祈りの舞踊。

 最後に、独唱と参加者全員による合唱で締めくくられる三部構成で音楽の儀式が行われる。


 その後、死者を語らう慰めの立食形式の夜会こと、最後の晩餐が設けられている。


 今回は、踊り手をヘンリーとオリヴィアが、独唱は第二王子の新しい妃である王子の側妃が国王より任されていた。


 このことを知らされた日から、オリヴィアはマーガレットやクロスター家で踊りを教わり、その練習をし、励んできた。

 ヘンリーにプロポーズされてから、アドラシオン国の文化や歴史を学び、この踊りも教育の一環として一通りは習っていたもだが、こんなに早く行うことになるとは思いもしなかった。


 という事から、ここにきてのオリヴィアの足の怪我は、非常にまずいと言う訳なのだ。


「なるほど、足を怪我したこのままの状態では踊れない。だが、代わりの者を立てると、さらなる悪意ある噂を生むことになるという訳ですね?」

 ハロルドが、ようやく理解できたと頷いた。


 ウェルト王国には無い風習で、オリヴィアはヘンリー王子の婚約者として初めて参加する重要な儀式だ。

 ここで参加しないとなると、ヘンリー王子の婚約者として認められていないと思われる。


 ただでさえ、今はオリヴィアに悪評が流れているのだ。

 さらに酷い悪評が立つことは避けたい。


 だが、参加したとしてもこの怪我、失敗した場合も悪い状況になると考えられる。

 歯がゆく、不安が募る。


「私は以前、アドラシオン王国(こちら)に婿入りした近縁の者が亡くなった際に、その舞踊の儀式を見たことがあります。大がかりものではありませんでしたが、確か、舞踊は、目元を隠した仮面を被って踊っていました。誰が踊っているかは分かりませんでした。今回もそのように仮面を被れば、代理の者が行っても本人でないと露見せずに済むのではないのでしょうか?」

 ハロルドがそう質問する。


「今回の俺達の踊る曲は王家の者が亡くなった際に踊るレクイエム“光へ導かれし者よ“だ。コレがマズいのだ…死して悲しみに嘆く亡者が、主の声を聞き、死を次第に受け入れ天界へと導かれるというストーリーがある。前半部は仮面を着けっぱなしでなんとかなるのだが、途中で主が着けていた仮面を剥ぎ、相手に仮面を渡し、それを受け取り、自身の仮面と取り替えるという場面がある。そしてその後は踊り子は顔を施したままとなる。主が本性を晒し、亡者に自身の力を分け与えるという名場面であり、絶対に仮面を取らなければならない。つまりはこの踊りは、顔は晒さなければならないのだ。」


「顔が露わになるから、代理がきかないという訳なのですね。」

「ああ、そうだ。」


 難しい問題に一同が黙りこむ。


 周囲がこの問題の解決策を見いだせないので、オリヴィアは言った。

「皆さん、私ならば大丈夫です!踊れますから、私に任せてください。」


「だがその足では…」

 ヘンリーが言葉に詰まる。

 マーガレットも険しい顔でリヴィを見る。


「足は、さっきから確認しているけれど、動かせない訳ではないわ。痛みは多少あるけれど、動かせる。これならば、一曲踊るくらいなら何とかなると思うの。いいえ、やって見せる!だから、私に躍らせて。」

 オリヴィアは、力強く、胸を叩いて見せた。

 そしてむせた…。

 その様子に、ヘンリーが笑いつつの眉根を下げた顔をし、小さく頷く。


「分かった。リヴィを信じるよ。」

 ヘンリーがそう言うと、

「ですが殿下!?」

 マーガレットが釘を刺そうとする。

 それを、ウィリアムが止めた。


「2人の判断に任せるべきだ。僕らは全力で2人をサポートしよう。」

 とウィリアムが言うと、皆が頷いた。


 何だかんだと、私の事を彼は理解してくれていたみたい。

 我儘を通してくれてありがとう、|ウィリアム・クロスター《私の護衛さん》。


 オリヴィアは初めてウィリアムに感謝した。


「皆、ありがとう。」

 ヘンリーが頭を下げた。

 それに合わせて、オリヴィアも頭を下げる。


「いつもは高慢な王子の癖に婚約者の為となると…ふぅ、王子はそう易々と頭を下げるんじゃありませんよ。」

 厭味ったらしくフレデリックが言うと、


「俺、王子が頭下げるのを初めて見た!感動だな。今日は記念日にしなくっちゃ。お祝いだ。」

 茶化すような言葉を言って、ウィリアムが大笑いをした。


「お前ら!!」

 揶揄う2人に腹を立て、悔しそうにヘンリーが叫ぶ。


 おふざけ含め、ここまでがいつも三人でいる時の三人のやり取りなのだろう。

 とても楽しそうである。


 これまでの張り詰めていた雰囲気から一変、場は大いに和らいでいた。



儀式を行うために、いざ王城へ。

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