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馬車の中での死闘

いつもありがとうございます。

只今、窮地に陥ってます!


 ズガンと言う大きな衝撃音が響いた。

 耳が痛い…。


 ドサッと、前方で何かが地面に落ちた音がする。

 外で何が起きているのか!?

 そう考える隙も無く、さらに、もう一度、あの強烈な破裂音がする。


 “ズガン”


 すると、悲鳴のように叫び声を馬があげた瞬間、馬車が乱暴に走り出した。

 かなりの勢いがあったため、オリヴィアは座席へと転がり、尻をついてしまう。

 すぐに、この体制は非常にマズいと腰を上げると、急いで足を踏ん張り、体勢を整える。


 オリヴィアは、椅子から腰を浮かし踏ん張る姿勢で、カーターと呼ばれる男と対峙していた。


「なんでお前は分かるんだ!!俺は、あいつの侍従に見えるようになっているはず。お前は何だ?魔女か!?バケモノか!?」

「知らないわよ!!あなた、やっぱりカーターではないのね!?あなたこそ、何者なの!?いったい何が目的?って、痛ッ!」


 ちぐはぐに走る荒くれ馬の所為で馬車が激しく揺れる。

 喋れば舌を噛みそうにさるほどだ。

 その為、上手く身動きが取れない。

 転がらないように、力を入れるのが精いっぱいだ。


「まあいい。俺は報酬を貰えればそれでいいのさ。王子はヤリ損ねたが、お前への依頼を遂行する。お前に傷を付けさせてもらう。悪く思うなよ。」

「え!?私に傷!!」

 馬車が荒れているので、ナイフを片手にオリヴィアのもとへ、壁を支えにスリ足で近づく男。


 しかし、男は突然の痛みを感じる。

 何が起きたのか分からず、戸惑い後ずさりをする。


 自分にいったい何が起きたのか、腕を確認すると、腕には赤く腫れた線が何本も付いており、その線から血が流れ出ていた。

 男は自分に何が起きたのか分かってない。


 でも、やったのは対峙している女だということは分かったようだ。

 オリヴィアの方を勢いよく見る。

 すると、オリヴィアの手元にはキラキラと輝きを放つシルバーの鞭が握られていた。


「来ないで!今度は手加減しないわよ。」

 オリヴィアが啖呵を切る。


「そんなもの、どこから!?くそ、女の分際で歯向かうな!」

 男は、オリヴィアへ怒り心頭であった。


 今度はすり足ではなく、顔を両手で防御しながら、勢いよく突っ込んでくる。


 王族の馬車とは言え、車内は鞭が触れる程広くない。

 これでは鞭が上手く扱えない…オリヴィアはじりじりと追い込まれていた。


 狭い車内で、ナイフを持つ男の手を鞭で捉えようとするが、男の方に利があり経験から策を講じていた。

 男はもう片方の腕に鞭を巻きつけさせ、鞭を動かせないようにしてしまう。

 そのまま、オリヴィアの間合いに詰め、ナイフを振り下ろしたのだ。


 オリヴィアは力を入れてピンと張っていた鞭を少し緩め、相手に隙を作りよろけさせることに成功しギリギリでナイフを除ける。

 だが、ナイフは肩を掠めていた。

 肩の布が少しばかり切り裂かれている。


 逃げる間もなく、もう一度、男がナイフを真上に振り上げようとする。

 次の瞬間、オリヴィアは鞭を床に落としピンと張り、足で強く押さえた。

 男は体勢を崩し前のめりとなり、腰を折る。

 鞭が絡まった片手が床に近い位置にしか動かせなくなり、上手く動けない。

 仕方なく、中途半端な位置からナイフを振り下ろし向かってきた。

 胸の前へ振り下ろされたナイフを持った腕をオリヴィアは両手で力いっぱい掴み、押し戻す。


 男の力は片手でも強い。

 ナイフの先端が、体を逸らしたオリヴィアの顎下へと当たる。

 一滴の血がナイフを伝う。


 もう…ダメかも…。


 諦めそうになった瞬間、馬車のドアが外から勢いよく開けられた。

 大きく開かれたドアの向こうから、強く光が差し込んでいるように感じられる。


 “助けて!!”

 叫びたいのに喉に刃を押し当てられていて声が出せない…。


 人影が視界に入る。

 犯人が明け放されたドアの方へ気を取られている隙を見て、オリヴィアは足元の鞭をドアの方へと蹴飛ばした。

 先端がドアの方へ滑っていく。


 犯人は鞭を腕に巻き付けていたので、鞭と共に体が引っ張られ、後ろへとよろめいた。

 その瞬間、オリヴィアの喉からナイフが離れた。


「それを拾って、ドアの外へ投げてぇーー!!」

 オリヴィアは人影に向かって叫んでいた。


 人影は言われたように鞭の先端に手を伸ばして拾い、思い切り力を込めて馬車の外へと引っ張った。


 男は、巻き付いた鞭により片腕が引っ張られ、ドア付近へとよろめきながら後ずさりさせられた。

 オリヴィアはその隙を逃さず、男に力いっぱい体当たりする。


 それにより男は、ドアの外へと放り出された。

 走る馬車の横をあっという間に過ぎ去り、男は地面へと落下。

 土埃を立てて転がった。


 た、助かった~。


 安堵したのも束の間、馬車がガタンと激しく揺れる。


 そうだ、馬車はまだ止まっていない!

 馬が暴走しているのだった。

 どうしたらいいのだろうか…。


 へたり込んでいると、入り口のドアの後ろから何者かがヒョコッと顔が覗かせる。


 は?へっ??

 キラキラ爽やか笑顔のアーハイム公爵であった。


「良かった、間に合って。」


 何故かしら?恐ろしいほど彼が輝いて見えるのです。

 眩しい!?ギャアアア、眩しい。


 窮地だから?神様?いいや、勇者様なのかしら?

 でも、なんなのよ、なによ~これ…もう胸をキュンキュンと締め付けるのと、激しい速度のドキドキが止まらないの。


「遅くなってごめん。貴女を助けに来た。こちらへ来られるかい?ちょっと、中に入れなくて。」


 ハロルドの“君を助けに来た”という言葉にボボッと顔を赤らめて最高潮にのぼせ上ったが、そのあとの“ここまで来られるか”の言葉に、今それどころではなかったのだと、切り替えスイッチの如く意識を戻し、大きく返事をする。


「は、はい!いけます。」

 踏ん張りから解放された足腰に、力が上手く入らなかったが、根性で移動する。

 目に涙を溜めて、必死で動く。

 ドアの所まで来た時に足がもつれる。

 その拍子に倒れそうになったのだが、伸ばした手をハロルドが引っ張り上げてくれ、彼の腕の中に優しく抱きかかえてくれた。


 ちょっと、彼、素敵なんだけど…え、ええええええええ??

 おじさんのくせに、おじさんのくせに、おじさんのくせにぃぃぃーーーかっこよすぎる。


 王家の馬車の装飾に足を掛け摑まっているハロルドだが、その背中には、頭から腰辺りまでの大きさのクッションのようなものを紐で巻き付けて背負っていた。


 ん?背中のそれは何??


「さあ、私に身を委ねて。手は出さないように、出来るだけ小さくなって。首を引っ込めて。」

「あ、はい。」


 そう言うと、ハロルドはすっぽりオリヴィアを腕の中に包み込み、タイミングを見計らって、馬車の装飾に掛けていた足を外した。


 ボフッッ、ズザァーと、音を立て、2人は地面へとハロルドの背中を下にして落下した。


 ああ、助かったのね…。

 オリヴィアはハロルドの胸の中で、緊張が解け、安堵と共に目を閉じた。


 P.S. 犯人に巻き付いたままの鞭は、のちほど兵士よって回収され、オリヴィアへと返却されました。



オリヴィアは母親から訓練を受けているため鞭を指先を動かすように繊細に使えます。

優秀な生徒であったようです。


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