【とある公爵の心情日記より抜粋】
とある公爵の気持ちをお伝えできればと。
今日から国王に強引に押し付けられた任務にあたる。
エドワード・フォード…王弟であり、憎々しい男。
私の初恋の令嬢リナを奪い去っていった男。
あやつの娘、名をオリヴィアと言ったか、その愛娘だという子供の子守が今回の私の仕事にあてがわれた。
隣国で亡くなった第一王子の国葬へ第三王子の婚約者である彼女と一緒に国の代表として私も参列する、それが我が国の王から与えられた役目であった。
彼女も連れて国葬に参列し、翌日の夜に開かれる儀式にも付き添い、彼女を護衛せよとの王命が秘密裏に成されている。
しかし、突如、王弟として参加するはずであったエドワードが付き添えなくなったとはいえ、宰相の私が代理に選ばれるとうのは大丈夫なのか、何せ隣国の王太子が亡くなったのに王族でない私が…こんな役割、本当についていない。
こんな何が起こるのか分からない面倒な催事など、誰も行きたがらないのは目に見えている。
自分もそうだと考えていたのに…。
男とは愚かだ。
私も男であったのかとこの年になり思い出させられた。
国王に呼ばれた部屋にあの初恋の君であるリナも居て、実娘を守って欲しいと強く懇願された。
今ではリナも婚約者の居る娘を持つ母親となっている。
エドワードの妻とは決して口に出して言いたくないが、彼女は人妻だ。
だがしかし、未だにあの頃と変わらぬ若々しく愛らしい容姿は健在で、ついあの頃の初心を思い出させられ、何となくソワソワしてしまうのだ。
流石にもう、何としてでも奪ってやる!などとはならないのが現状だが、彼女は私の初恋の相手だし、ワンチャンあるかも??などと脳裏の片隅に過ってしまったわけで…気がついたら私は、この任務を引き受けていた。
ああ、もうすでに後悔しかない。
だって、信じられないことが起きてしまったから…。
護衛対象の婚約者の居る年の離れたリナの娘に、私は一瞬で心を奪われてしまったのだ。
つい先日まで初恋の君にワンチャンある??とか良からぬ思いを抱いていた自分をもの凄く殴りたい。
この年になって、ひとめぼれをしたなんて…それも一回りも下手したら二回りも若い娘に。
若いってだけでも頭を抱えるのに、さらに婚約者が居るのだ。
正直、自分に呆れているところだ。
なんでいつも、いつも、いつも、私はこうなのか。
なぜ、苦しむ恋を選ぶのかと…。
これまで、オリヴィアとは全く接点が無かった。
リナに娘が産まれたことはウェルト国中に知れ渡っていたので知っていたが、聞きたくない情報であったので、自らは積極的に調べていない。
ただ、生まれてすぐに天使と言われるほどの美貌だという事は知っていた。
国中が大騒ぎであったから、そこかしこで噂が飛び交い、嫌でも耳にしたのだ。
悔しいが、王家の外見は世界的に見ても素晴らしいものだ。
あの両親から生まれたのであるなら、それは当たり前の話だとしか、聞いた時には考えなかった。
それから時は流れ、ある時期から社交界で彼女の妙な噂が流れ始める。
国王に似ている美貌の為に、彼女に求婚をすると、嫉妬した王家の怒りを買うというモノであった。
その為、社交界の男性の間には彼女には求婚してはならないと言う暗黙のルールが出来上がり、熱心な信者や遠目から眼差しを送る者たちが膨れ上がった。
今はその噂が流れた理由を私は王の口から知らされたので理解は出来るのだが…彼女からしたらあんな噂は良い気分のものではなかったはずだ。
その程度しか知らない令嬢、その娘の護衛、ちゃっちゃと済ませて国に帰りたい。
そう考えながら会いに行ったのだが…。
―――あの日、私はオリヴィア・フォードと出会った。
昔の話だが、正直、リナへの恋慕はかなり引きずった。
多忙な仕事が無ければ今でも引きずっていたかもしれないし、もしくは自防自棄になっておかしな行動を取っていたかもしれない。
だって、彼女の相手が私よりも無能なへっぽこ王子であったし、自分がちゃんと行動出来ていたならば自分が彼女の隣にいたはずだと考えると、なかなか諦めがつかなかったから。
あの時の私は、自分自身に酷く酔っていたのだ。
だがもう、かなりの時間が経ち、自分の事もよく理解し、リナへの恋心も遠い昔の事だと割り切れている。
まあ、ワンチャンの話は、独り身の長い私のちょっとした一時の気の迷い事だと思ってくれ。
久しぶりに彼女と会って、色々と環境変わっているし、これはイケるのでは!?というあわよくばな下心がひょっこり顔を出してしまってね…私も男だから…そこは本当に全力で忘れて欲しい。
そんな中、彼女と邂逅した。
オリヴィアに会った第一印象は、兎に角、美しい!!!!で言葉を失った。
陛下にそっくりだとは聞いていたが、決して同じではない。
目元は昔、心の底から恋漕がれた初恋女性に似ていてとても優しい眼差し、それ以外は王家の造形美、スラッと筋が通つ鼻、ほどよい下唇の膨らみに合わせた形の良い唇、お人形のように小さな顔、白く透き通る肌、流石だと言わざるを得ない顔立ちである。
アッシュブロンドの髪がふわふわと揺れ、金色の潤んだ瞳が、私を見つめてくる。
可愛いと美形が混在する奇跡の人。
目の前に女神が舞い降りたのかと思ったほど完璧な形体。
こんな鐘が鳴るような衝撃を受けたのは、リナにフラれて以来の事だ。
リナとの恋の時は、鐘が頭上に覆いかぶさるように落ちてきて、横から強く叩かれたような不快な衝撃音であったが、今回は教会中央の鐘が軽やかに知らせを継げるように世界へと鳴り響く音色であった。
天使たちが鐘を鳴らさなきゃと、懸命に揺らして音を鳴らしている様子が目に浮かぶ…。
何なのだろうか、彼女に会った瞬間に生じた心の奥底から込み上げる様な胸の高鳴り。
親子ほど年の離れた少女に対して、いったい私はどうしてしまったというのか!?
動揺しすぎて、自制するために若いと言い聞かせるように何度も何度も口に出し、連呼してしまった…失礼過ぎたと思う…嫌われてしまったかもしれない…。
ああ、これからこんな素敵な子と一緒に過ごすなんて…。
はぁ〜なんで婚約者がいるんだ!?
神様、私は何かやらかしましたか?
何の罰なのでしょうか?
何でもしますから、直ちにお許しください。
もう、こんな年になり、出会う事はないと思っていた恋心を再び抱いてしまった。
小さな恋の炎の揺らめき。
これから私はどうしたらよいものか……この気持ちをどうしてよいのか、分からない。
炎が大きく膨れ上がらないように、努めなければならないのかと、この先を案じる。
事件の裏には恋愛模様
金曜の投稿時間ですが、お昼頃となります




