(現在)宮廷舞踏会にきています
いつもありがとうございます。
「と言う感じであの日は色々あったのよ。」
シードルを片手にオリヴィアがあのお茶会での出来事をマーガレットに語って聞かせた。
今日のオリヴィアは、ピンクのふんわりレースの付いた可愛らしいドレス姿である。
男装をしていない。
現在、2人は宮廷舞踏会会場にて、優雅に会話を楽しんでいるところである。
「ちょ、ちょっと待って。今の話だと、あそこに居る第一王子とリヴィがいまいちな関係だって事と、|アドラシオン王国第三王子と婚約した経緯しか分からないわ。さっき私が質問したのは、本日の舞踏会主催者ジョージ殿下とその寵愛妃となると噂されている婚約者のエレノア様との馴れ初めだったはず?でも、その話だと2人は到底仲睦まじいという話には結びつかないし、そこからどうやってあのラブラブへとたどり着いたというの?」
マーガレットが首を大きく傾げている。
はい、皆さま、いきなりで失礼します!
先程まで昔の回想を挟みましたので、話が現在の舞踏会へと飛んでおりますので、困惑しておられるかと思います。
はい、今は第一王子ジョージの主催する宮廷舞踏会へと来ています。
それよりも、先程の思い出話は、いかがでしたでしょうか?
私とジョージ殿下との確執の理由を説明できたかと思います。
それから、私の婚約者との馴れ初めも分かっていただけましたでしょうか?
あの時に舞い上がり、思わず婚約をOKしてしまった私ですが、お受けしたことに後悔は一切ございません。
それに、後日談として、我が家へ足を運んでくださったヘンリー殿下は、あのような場での早急な求婚では、あまりにも浅はかであったと、100本の薔薇を持って私の前に跪き、我が家の庭にてもう一度熱心な口説き文句を並べてプロポーズをしてくれましたの!
素敵でしょう~!!!
このように、少しずつですが3年の間に彼の人となりを知るにつれて、この方が婚約者でよかったと18歳になった現在は心から思えているのですよ。
それに…あの二回目のプロポーズは憧れのシチュエーション!
夢のようで絶対に忘れられません。
だって、乙女の憧れそのものでしたもの!
まあ、その現場を目撃したお父様は一週間も寝込みましたけれど。
そういった流れでヘンリーと婚約をしたのですが、お父様の許しはなかなかおりませんでした。
お父様の意向により、せめてオリヴィアが学院を卒業するまでは我が家で過ごさせたいと、公の婚約発表はなさらずに少し曖昧な形での婚約となったのです。
婚約は確定しているけれど、まだ正式には扱わない曖昧な関係でした。
その間、なぜかヘンリーに会う時以外は男装をするという謎のルールを父から言い渡されていました。
まあ、令嬢やご婦人達には、白薔薇様と呼ばれ、社交界でかなり喜ばれたのでよかったのですが…。
そして、2人の公での正式な婚約発表が昨年やっと行われた次第です。
おっと、その話は一旦置いといて、現在の話に戻りましょう。
先程も言いましたが、一年前に歴史の試験も優秀な親友の支えにより無事に終え、オリヴィアは学院を卒業することが出来ました。
そして、本日は、ジョージ殿下主催の王宮舞踏会に来ています。
ジョージが王族として独り立ちしたアピールをする一発目の大仕事なのだそうで、ガチガチの挨拶を繰り広げている様子が見られ、笑いがとまりませんでした。
歴代の王族では、だいぶ遅い独り立ちのようですね。
例のあのお茶会以降、彼も新たな人間関係を構築し、だいぶ真面な性格へと変わりました。
それにより、ようやく、渋渋、陛下のお許しが出たのです。
何度かお叱りを受け、延期を余儀なくされたと聞きましたが、無事に開けて良かった。
ジョージ、本当によかったね。
幼馴染というよりも親心に近く、オリヴィアは大層感激しているのです。
さてさて、先程のマーガレットとの会話の続きに戻りましょう。
「それはね、私が婚約をOKした直後にひと悶着あったからなの。それのお陰で2人はめでたく婚約者になったのだけれど。」
マーガレットの質問であるジョージとエレノアの馴れ初めの話の続きです。
「何があったの?」
「あの時、祝福の拍手の音で、私の婚約が決まったことが周囲にバレてしまって、ジョージ殿下まで話が伝わったのよ。その時、ジョージの周囲にいた令嬢達が、私に婚約者がいる事を知り、泣きし出しちゃって…何でも、あの一瞬で白薔薇のファンになっていたらしく、もの凄いスター性のある若手舞台俳優が華々しくデビューし、熱狂的なファンになったと同時に引退してしまったみたいな心境で、気持ちがついて行けず、何故だか涙が止まらなくなったとかで、阿鼻叫喚の大混乱が起きたのよ。白薔薇様ーって泣き叫びメイクの流れ落ちたご令嬢達の地獄絵図よ。」
「あーそれで、殿下がリヴィの人気に嫉妬したのね。」
「正解!その状況が面白くないジョージが気分を害して、お茶会を去ってしまって…さらに、私に対抗するために婚約者を無理矢理作ったの。」
「その相手がエレノア様!?」
「ええ、もうやけくそでね。その時点での揺るぎない婚約者候補が彼女ひとりになっていたから。」
「でも、今の2人を見ていると、穏やかで仲が良くて、(馬鹿みたいにラブラブで)凄くお似合いの2人よね?」
「ええ、何だかんだで2人は気が合ったのよ。最初はどうなるかと思ったけど、周りが全力で頑張ったからね。」
そこまで話した時に、頭上から声がした。
「当初は本当に大変だった。2人の仲が冷え切っていて、ジョージ殿下は姉上を嫌っているし、姉上はそれに気が付いていたから殿下とは距離を置いていた。でも、2人の趣味がまさか一緒だとは思わなかったから、フォード嬢が2人をあそこに連れて行くと言い出した時は、姉上の悪趣味をバラして婚約者の後釜を狙っているのかと、正直、俺は疑ってしまった。」
そう話し掛けてきたのは、話していると首が痛むほど背が高いエレノアの弟、シュゼイン公爵家の跡継ぎであるジャンである。
「まさか!?それは絶対に在り得ないことよ。冗談でもよしてちょうだい!それに、私だって、あなたのお姉さまが競馬好きだという報告を聞いた時はあの可憐な令嬢が何故??と、かなり驚いたのよ。でもね、その時に思い出したの、それってジョージと一緒の趣味だわって、それならば、友好のきっかけ作りにデートで2人をお互いの好きな場所に連れて行ったら、何か起こるかなもしれないと期待したのよ。まあ、協力者していた皆が、もう打つ手が無くて疲弊していたからね。半ばやけくそだったってのもあるけれど。」
オリヴィアが誤解があってはならないとジョージへの想いを全力で否定した。
「姉上は競馬場に到着した当初は嬉しそうな内心を悟られまいと気難しい表情をワザと作ったりしていたそうだよ。表情の変化が忙しい2人だったと姉上付きの侍女が言っていた。でも、レースが始まって2人の予想した馬が一位になった瞬間の2人のはしゃぎ様がもう、手を取りあって顔を合わせて嬉しがってたって聞いて、笑っちゃったよね。あれからだった。2人の心が近付き始めたの。今じゃあ、あんなに仲良くて、フォード嬢には頭が上がらないとジョージ殿下が私の前で漏らしていたよ。とても複雑な顔をしてね、ククッ。」
思い出したのか、声を殺してジャンが笑う。
「え!?そうなの?私は未だにジョージには嫌われていると思っていたのに。今日も男装してくるなと嫌味言われているし…」
実は少しだけ、そのことを気にしていた。
やはり、人から嫌われるのは落ち込むと、オリヴィアの本音が出る。
「ああ、それは、姉上を奪われないかヤキモキしているからだよ。白薔薇様の人気は本当に凄いからね。」
「何それ!?笑っちゃうわ。あっほら、見てみてよ。ジョージの願いは叶いそうだわ。彼、愛する人との結婚に凄く憧れていたから…幸せそうね。本当に良かった。」
そこにいた者達は、壇上で招待客に挨拶をするジョージ殿下とその横に居る婚約者のエレノアを見て、微笑ましく感じ、思わず笑顔になるのであった。
いいなあ~恋するって、あんなにも幸せそうな顔になるのね。
いったいどんな気持ちなのかしら?
オリヴィアは婚約者はいるのだが、恋については未だにサッパリ理解できていなかった。
時系列、現在に戻ってまいりました。
次回から漸く物語りは動き出します。