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求婚なんて冗談ですよね?

いつも読んでくださりありがとうございます


 後ろを振り返ると、そこには庭園にいる男性の中でもかなり高価な衣装を纏っている男が口許を押えて立っていた。


 此の方、この国では珍しいジャボをつけている。


 ジャボの文化という事は、もしかしたら隣の国の?

 あらっ、あれは!

 ジャボの中央に着いているカメオ、あれは、隣国の王家の紋様では?

 ということは、アドラシオン王国の王族がなのでは!?


 なぜ、ここにいるの!?


 彼とバッチり目が合うと、焦った様子のオリヴィアに、彼は不敵な笑みで挨拶をする。


「初めまして、私はアドラシオン王国第三王子ヘンリーだ。ああ、今は見聞を広めるために外遊中でね。この国にはテンペストの有力者に会いに来た。それよりも、君の名を教えてくれないか?」


 ヒェ!?やっぱり王子だ!!!


 そっと、椅子から立ち上がり、今できる限りの笑顔を作り、返答する。


「こ、このような姿で申し訳ございません。私は、ウェルト王国フォード公爵の娘オリヴィア・フォードと申します。お会いできて光栄です。」

 自分の名前を名乗る際にスッと姿勢を正し、スカートの裾が在る体で布を掴むポーズをし、令嬢の美しい一礼を披露する。


 もう、いったいなんなの!?なんで隣国の王族が私なんかに話し掛けてくるのよ。

 こんな男装した格好だし、今はそっとしておいてよ…。

 心の中では、泣き言でいっぱいだ。


「フッ、君が庭園に入って来てから見ていたのだが、肩幅、線、指先の動き、柔らかい振舞いから女性であることは直ぐに分かった。だが、なぜそのようなことをしているのかが分からなかった。だから、探求心から、君を追い掛け回してしまった。先程の君達の会話を聞いてやっと理解したよ。あ、立ち聞きしてすまない。だが、クククッ、とても楽しませてもらった。面白いものを見させてもらったよ。クッ、ククククク。」

 そう言って、彼は思いだしたのか笑った。


「楽しんでもらえたようで、幸いです。ジョージ殿下は、あれを余興だとおっしゃっていたので、観衆を楽しませると言う彼の命を私は果たせたようですね。」

 自分が笑われていることに少々ムッとしながら、ニコッと華麗に微笑んで返答した。


「そうだな…フッ。」

 また王子は口許を押さえて笑っている。


「ここに座っても?」

 本当は嫌だけど、王族を袖には出来ない。

 オリヴィアは王子がそうしたいのならばと答える。

 隣国の第三王子は、それに対してにんまり笑うと、オリヴィアの隣の席にサッサと腰を下ろした。


 それと同時に、そういえば友人と約束が!?と惚けたあからさまな演技をして、メアリーが席を立ちあがり、王子へ断りを入れると、いそいそと何処かへ行ってしまった。


「メアリー?」

 オリヴィアは、初対面の隣国の王子と突然2人きりになり、心細くなる。


 王子と無言でお茶を啜る…味がしない。

 実は彼女、先程の堂々とした振舞いは何だったのかと聞きたくなるくらいネガティブ思考で、かなりの小心者だ。

 久々の殿方との二人きりの会話は緊張と不安でいっぱいいっぱいになっている。


 いざという時には強いタイプなのだが、意中の相手には長年アピール出来ないような性格の父親に似ているせいか、オリヴィアは男性と2人きりというのが、かなり苦手であった。

 それに、普段は結構なポンコツも突如発揮してしまう母親譲りの所もあるので、どこか抜けていて危なっかしい。


 只今、隣国の王族を前にして、思考が悲観的になり極度の緊張状態のオリヴィアである。


 ガシャン、コップを受け皿に置いた際に、ティースプーンを引っかけてしまった。

 テーブルクロスにティースプーンが転がり、紅茶が滲む。


「あわわわ。すみません。粗相を…」

 オリヴィアは、かなりテンパっていた。


「フハッ、君ってとても意外性があるよね。先程の周囲を魅了していた君とは大きく異なる一面で、これまた可愛らしい。君は俺をどこまでも楽しませてくれそうだ。」


「???」

 オリヴィアが王子の言葉の意味が分からず戸惑っている間に、王城のメイドが何処からかやってきて、コップを回収し、テーブルクロスをもの凄い速さで交換し、新しいカップを置いて去っていく。


「はあ、凄業(スゴワザ)ね…」

 オリヴィアは、その様子が無駄がなく見事であったので思わず口から零れてしまっていた。


「フフッ、声に出ているよ…君って本当に…ククク。」

 王子がまた口を押えて笑っている。


 笑われていることに気が付き、オリヴィアは真っ赤にして口を押える。

 その様子を見て、王子はさらに声を上げて笑う。


「なあ、フォード嬢は他国に興味はないか?」

 笑い終えて満足したのか一息つくと王子がそう切り出した。


「興味は…大いにありますわ。だって、この国に居ては、私は誰とも結婚できそうにないので。国を出たいとは、常々思っているのです。」

「どうして?貴女のように可愛らしい女性が結婚できそうにないなどというのか。なぜそう思う??」

「可愛らしい?……この国の殿方は、私を国王様の偽者としか思っていないのですよ。だから、偽者と扱われない国で、幸せを探してみたいのです。」


 オリヴィアは可愛いと言われ、内心かなり動揺していたが、すぐに冷静を取り戻し、気にしてない風に装う。

 そう言って終えて、お茶を清ました表情で飲むのだが、淹れたてのお茶は熱かったようで、アチッと慌てふためいてしまった。

 まだ動揺はかなり残っていたのだった。


「フッ、やっぱり君って面白いな。じゃあさ、俺の所においでよ!」

 満面の笑みで隣国の王子が誘ってくるので、オリヴィアは自然と嬉しくなる。


 だが、交流の深い隣国へとなっては、国王の顔も良く知れ渡っているし、偽者と言う考えは変わらないのではと不安があった。

 だから、遠慮がちに断る。


「お誘いは嬉しいのですが、アドラシオン王国は我が国とはとても交流が盛んですし、同じような思想の方が多いのではないでしょうか。私は、行くとしたら、もっと陛下の顔を知らない国へ行こうと考えておりまして―――」

 話していると隣国の王子はぶった切り、笑顔で言い放った。


「違う、違う。留学を進めているのではない。俺の妃にならないかってことだよ!!!!」

 サラッと、大事を言いのけた。


 え?あ?これって、もしかしてあれじゃない?

 所謂、求婚と言うやつじゃないかしら!?

 あ、うん、そうよね?


 はっ、えっ?!ん!?求婚??

 求婚!!!!うそでしょ…嘘でしょう??


「ヘ、ヘンリー王子!?あ…またまた、ご冗談を。ハハハ。」

 笑ってごまかしてみた。


 この御仁…何かを企んでいらっしゃる??

 新手の嫌がらせとかなのかしら???

 それとも隣国ジョーク!?


 驚きと混乱の為に置き忘れて手に持っているコップが震え、紅茶がビチャビチャとテーブルクロスへと零れる。

 王宮のメイドは見逃してはいなかったが、だが動かない。

 いや、動けない…。

 今、片付けに入ってはならないと、2人の会話の行く末を生垣側でジッと見守っている。


「君ってば本当に正直だな、顔に出過ぎだよ…ブフッ。ごめん。笑ってしまっているが、俺は、冗談は一切言っていないぞ。本気だ。ぜひ、君を俺の許へ貰い受けたい。君がOKしてくれるのであれば、オリヴィア・フォード、そなたは今日から俺の婚約者だ。どうだ、この願いを聞き入れてくれるか?」


 ほ、本気だ…本気の目だ。

 本気の言葉だった。


 う、嬉しい!!嬉しい!

 両手を上げて、クルクルクルクル回りに、回りたーーーーい。

 お、落ち着け。

 今は駄目よ、リヴィ!?廻っちゃダメ。今は抑えるのよ。

 そして、すぐに返答しなさい。


 さあ、さあ、あの胸の中に飛び込んじゃいなさいな!!

 もうこんなチャンスはやってこないいから。

 さあ、バチッと答えるのよ!!


「しゃい!?あ…はい、お受けいたします。」


 プロポーズ大成功!!


 という事で、見守っていた侍女が控えめな小さい拍手をした。

 すると、その隣から耳が痛くなるくらいの大きな拍手が鳴る。


 メアリーであった。

 隠れて様子を見ていたらしい。

 その後ろで、リコとトムがまばらに力なく拍手をしながら、大量の涙を流していた。

 嬉し泣きなのか、悔し泣きなのかは不明だが、嗚咽が凄いことになっている。

 ついでに弟たちも引き連れてきていて、一部始終を見ていたらしい。

 プロポーズに驚いた後、ちゃっかり拍手に加わっていたよ。


 その後、すぐに駆けだした俊足のオリヴィアの弟ユーグにより、このことは両親へと報告されたのであった。



 婚約者隣国の王子ヘンリーとオリヴィアとの馴れ初め、過去編でした。

 次回は現在に戻り、宮廷舞踏会から。

 

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