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ここは馬車の中

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます☆

今は馬車の中。


ホワイトキャッスルを去る際に、結婚式を開くよう、フォード公爵夫妻に言われたので、馬車の中では嬉しそうにその話を進めるオリヴィアが居た。


だが、向かいに座るハロルドの表情は浮かない様子だ。


それを気にしつつ、楽しくおしゃべりしていたが、話しを止める。


それに気が付いたハロルドが心配そうに声を掛けた。

「どうかしましたか?」


「ハロルドが、思い悩んでいるようで、気になったのです。私だけが2人のこれからの結婚式に浮かれていて、恥ずかしくなりました。」

 オリヴィアが言う。


 そしてオリヴィアは聞かれた質問を聞き返した。

「ハロルド、何かありましたか?」


 重い沈黙の後に、少し震える小さな声で絞り出される。

「……離婚しよう……」


 ハロルドの口から飛び出したその言葉は、オリヴィアにとって衝撃の言葉であった。


 離婚しよう??今、彼はそう言ったわよね?

 えっ、何で?どうして?

 なんでそうなるの?

 好きだって言っていたわよね?

 嘘だったの?演技?

 えっ、どういう事?

 私を好きじゃないの?

 嘘ついていたっていう事なの??

 やっぱりツインレイの力が無くなってしまっていたというの!?


 私はまた、ひとりになるのね…


 オリヴィアの大混乱の思考の中で、パニックが頂点に達し、プツンと何かが弾けた。


「いいやぁああーーーーーーー!!!!!!!」

 叫び声を馬車の中で上げてしまったのである。


 それに反応したのが女神の力。


 感情の高ぶりが周囲を巻き込み、空間を歪ませ、気候へ変化をもたらした。


 ドドドーーーン

 轟音が響いた。


 馬車の真横に生えていた木にこの世のものとは思えない眩い光の矢が、大きな音と共に落ちたのだ。


 それに驚いた馬たちが、前足を大きく持ち上げた。

 御者は馬の手綱に引っ張られる。

 強制的に前上がりに持ち上げられ体勢を崩し、御者席から転げ落ちてしまった。


 慌てて戻ろうと立ち上がった瞬間、激しく暴れる馬に尻込みする。

 その一瞬で、馬が走り出してしまったのだ。


 一方その頃、馬車内は、激しく揺れていた。

 椅子に座っているのも一苦労である。


「いったい何が…」

 舌を嚙まぬようにしながら、ハロルドは天井に手を当て固定し、腰を上げ、転がらぬよう窓へと近づく、外を見ようと、小窓に手を掛けた。


 開くと、驚きの光景が広がっていた。

 馬車の後方の茂みが、燃えているのだ。

 よく見ると、木が真っ二つに折れている。


「何が起こったのか?」

 見ても状況が把握できない。


「雷、雷、鉄槌って言っていました…」

 両耳を塞いだオリヴィアが揺れ動く馬車の中で、泣きそうになりながらそう言った。


 雷が、落とされた様だ。


 次の瞬間、馬車がガコンという大きな音と共に、前へと急激に引っ張られた。


 どうやら動きだしたようだ。

 それも、荒れ馬たちが猛スピードを出して…


「きゃああああああああ。」

 オリヴィアが悲鳴を上げて、転びそうになるのを、ハロルドが抱え込むように体で支える。


 自分がハロルドの腕の中に居ることに気が付き、咄嗟に腕を力いっぱい押して突き放し、オリヴィアは言い放った。

「離婚する癖に!」


「なっ!?」

 大粒の涙を流しながら、言い放たれた言葉に、ハロルドは言葉を失った。


「ち、違います。いいや、違わなくないのですが、ですが、私はあなたを嫌いになったわけではありません。むしろ、好きで好きでしかたがないのです。」

 ハロルドが緊張状態の中、必死で弁明する。


「じゃあ、何で!?なんで離婚しようなんて言うの?」

 オリヴィアが責め立てる。


「それは…」

 ガタンという音と共に、再び大きな揺れが襲う。

 石に乗り上げた様だ。


 体勢を崩したオリヴィアを再びハロルドが全身で支える。

 強く腕を持ち、自身の方へと抱き寄せる。

 そして、こう言った。


「あなたを心から愛しているからです。」

 その言葉に、オリヴィアは驚いた。

 ハロルドの表情を確認したくて、すぐに上を見上げると、思ったよりも近くにハロルドの顔があった。


 目が合った瞬間、オリヴィアは真っ赤に顔色を染める。

 そしてそのまま、

「ど、どういう事ですか?」

 と、精一杯冷静を装い質問した。


 それを可愛いと感じるハロルドは、心の中で悶絶しながら、本心が出ぬように淡々と解答した。

「私はやり直したいのです。強制的に結婚させられた関係からの始まりではなく、あなたをもっと知って、あなたと心を通わせ、婚約期間を得て、大事に作り上げられた結婚式を挙げ、熱烈な初夜を迎えたいのです。」

 ハロルドが、真面目な顔をしてそう熱弁している…


 オリヴィアは思った。

 自分はそんなことを望んでいないと…


「私は、あなたと別れるなんて、嫌です!!一緒に居たいのに、離婚なんて、絶対に嫌です。ほんの少しでも、離れるなんて、嫌です!!知っていくのも、心を通わせるのも、大事に結婚式を作り上げるのも、しょ、初夜を迎えるのも、結婚したままでも、できるではないですか!!ネ、ネツレツナ初夜、大歓迎です。」

 イヤイヤと首を振りながら、必死で腕にしがみ付きそう訴えるオリヴィアに、ハロルドは撃ち抜かれた。

全身に熱気が押し寄せ、汗が噴き出す。

 そして、自分は一瞬でもこの人を手放そうと考えたなんて、馬鹿な考えであったと心底後悔した。


「ああ、ああああ、その通りです。私が間違っていた…別れたりしたら、虎視眈々と狙う猛者共に君を掻っ攫われる隙を与えてしまう。そんなことは絶対にさせない。させてなるものか!リヴィは私の妻だ!私だけが愛せればいい!」

 思い直したようだ。


 だが、お二人とも、今がそのような夫婦喧嘩をしている場合ではないってこと、知っていますか??


 そう、馬車の激しい揺れとスピードの圧で、危機がすぐそばまで来ているという事を優先してほしいのです。



残りあと2話。

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