脱出
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さてさて、ここからが本題だ。
女神が帰還した今、女神の力がどの程度残り、どの程度の影響が現れるのかが、心配なのだ。
オリヴィアの手を握るハロルドの掌が、ずっと握っていた所為で、ぐちょぐちょに汗を掻き、少しばかり熱がこもり気持ちが悪い状況となっていた。
その為に、一度ギュッと力強く握っているものを軽く握るに変えようかと握る力が緩められた。
そんなほんの小さなハロルドの反応に、オリヴィアは恐ろしく意識が集中し、危機感を抱いた。
もしや、彼の気持ちが無くなってしまったのかもしれないと…不安でたまらなくなったのだ。
そう考えている時点で、オリヴィアはハロルドへの気持ちを失っていないのだと分かるはずなのに、お互いに気持ちが無くなるか、そうでないかであるはずなのに、それにも気づけないほどに緊張が高まり、神経が昂っていた。
少しばかり、緩んだ指を離すものかと、オリヴィアは瞬時にハロルドの指を強く握り絞めてしまう。
力が思ったよりも入ったらしく。
「イツッ。」
ハロルドが小さく声を漏らした。
その声に即座に反応を示したオリヴィアは、繋いでいた手をパッと離した。
傍から見たら、ツインレイの力を失い、気持ちが途切れたと思われただろう。
手が離れてしまった本人もそう感じ、顔色を真っ青に染めた。
「ツインレイの力は失われたか??」
チャールズ王子がニヤケそうになる口元を押さえて問いかける。
二人が話し出す前に、カイルが発言する。
「いや、残念ながら失われない様だ。」
カイルは、リナとフォード公爵が抱きしめあい、チュッチュ、チュッチュと軽いキスを交わし合うのを目の前で見ながら、落胆した声色でそう答えた。
「こ、個人差があるのかもしれない!?」
チャールズ王子が一滴の希望を胸に、発した言葉に、ハロルドが容赦なく、両断する。
「いいえ、以前と何も変わらず、私は私の妻を心から愛しています。」
そう迷いなくハロルドが言い切った。
その言葉に感動したオリヴィアは勢いよくハロルドへと抱きつく。
ハロルドはオリヴィアを両腕でしっかり受け止めると、その場でクルクルと回った。
そして、
「私もよ!!」
と、オリヴィアが嬉しそうにハロルドへ答えた。
まだプラトニックな2人は嬉しそうに微笑み合う。
その様子を確認し、涙を流しながらケイト女王が地面へぺたんとお尻をつき座り込んだ。
心底ほっとしたのであろう。
地面へ座り込んだまま、丘を覆い、嗚咽を漏らして泣いている。
彼女の侍女として仕えていたエマこと女神ルトゥは、この地から居なくなってしまったので、その場で地べたに座り、声を出して泣く女王ケイトを叱咤する者はいない。
いいや、彼女よりもこの地で高貴な身分の陛下がいたのだった。
「ケイト夫人、師匠を上に待たせておりますので、その目でご確認を。」
そう、肩に手を置き、ゆっくりしゃがむと耳打ちしたのである。
彼女は急いで立ち上がり、来た道を戻って行った。
彼の夫であるハートフィル前侯爵が井戸の見張りをかって出て居ることを教えてあげたのだ。
前侯爵はテンペストというボードゲームの世界的トッププレーヤーであり、陛下が師匠と慕い、教えを乞うている相手なのだ。
その時、想い合う者達に水を差す言葉が、ある男から発せられた。
「あの~女神の力が消えるという事は、この空間も消滅するのでしょうか??」
カイルが目の前の見たくない光景を拒否した瞬間、酷く冷静になり、自身に向けた女神の言葉を反復していた際に、ふと思い立ったのだ。
その事に気が付いて、すぐさま、陛下へとその言葉を伝えた瞬間に、ゴゴゴゴゴゴゴという音が何処からか唸り聞こえ出す。
皆は恐怖を感じて、一目散に、この空間から出ようと動きだした。
流石、高貴な貴族の集まりである。
テキパキと皆で安全に避難していく。
だが結局、ループゾーンのストーンサークルの上で、先に付いた者は足止めを食らっていた。
先についていた者達がそこに乗っても何の反応も示さなかったからだ。
その場に居る者は、ここに取り残されるのかと恐怖を感じ、青ざめている。
リナとオリヴィアが合流した際に、そのストーンサークルは機能した。
女神ルトゥが、少しは女神の力を彼女たちへ残してくれていたのだと、ここでその事実を知る事となる。
ここにいる者達は、かなり精神的に疲れていたようだ。
ストーンサークルの先、この上はホワイトキャッスルだからとヘトヘトの皆を割と気力の残っている陛下が、お疲れ様と気遣いながら城へと誘導する。
すると、その指示に皆がすんなりと従い、階段へと移動し昇り始めた。
早く腰を落ち着かせて、休みたいのだろう。
それだけ、精神が大きく揺さぶられた出来事であった。
あと何話…