女神の帰還
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「そろそろいいかしら、手に持つ鏡が今にもこばれ落ちそうで、危なっかしいのよ。返してくれない?」
女神がテオへ指を向け、その指を手前に折る。
こっちへ来いというように。
すると、テオの手の中にあった鏡が一瞬のうちに女神の元へと移動した。
テオは驚きのあまり自分の掌を眺めている。
鏡を手にした女神は再び力の回収を始めた。
女神の前に人々が並び、ひざを折り挨拶をし、一瞬で力を奪っていく。
ウェレの子孫であるウェルトの王族から力を回収する際は、キラキラと光る粒が白い霧に混じって湧き出てきた。
それを鏡が吸収していく。
女王の血筋の者達からは、虹色の霧が立ち上がる。
オリヴィアも力を回収されてしまい、この後どうなるのだろうかと不安が募る。
今は何も変わった様子はない。
だが、力を回収したのだからあの能力はもう使えないのだろう。
ハロルドと強く手を繋ぎ、行く末を見届ける。
そんな折、最後に女神に呼ばれた人物がいた。
それは意外な人物、カイルであった。
カイルに近くへ寄るようにと女王は言うと、彼に耳を貸せと言い、彼の耳元で内緒話を始めたのだ。
カイルは耳に神経を集中させて話を聞いていたのだが、表情が次第に変化していく。
最初は緊張の面持ちであったが、次第に目を見開いて驚きの表情をしたかと思うと、その後、頬を赤らませ、口を緩めてニヤついた顔へと変わる。
最後はとてもとても、嬉しそうであった。
女神が話しを終えると、カイルは深く腰を折り、お辞儀をする。
それは丁寧にお礼を言うカイルを、はいはい分かったといいながら、早く帰れというように手をヒラヒラさせて追い返す。
何があったのかとフォード公爵が聞いたのだが、カイルは真顔に一瞬で戻り、
「秘密事項です。」
としか答えなった。
次にリナが質問をしてみると、
「そのうち分かることだ。」
とだけカイルは答えたのであった。
「では、力の回収を終えたので、私とドルーは天へ帰る…分かっているだろうが、私が帰還すれば、この地から女神の力は消滅する。これからどんな変化が起こるのかは正直分からない。だが、本当に困った時は手を貸そう。その時は、ケイト。お主があの神殿に参り、泉に祈りなさい。女王の血を引く者の役目とします。」
顔の強張ったままの女王へ、女神は言葉を残す。
ガタガタと小刻みにケイト女王は震えている。
そして、突然走り出し、女神の元へと駆け寄り、女神の前で膝をつくと拝むような仕草をして懇願した。
「お願い、どうか、どうかあの人を私から離れさせないで!エマ、お願いよ!?」
涙ながらに必死に訴える。
親しい間柄であった時の癖が無意識に出てしまうくらい、精神状態がいっぱいいっぱいとなっているようだ。
「ケイト、悪いようにはならないから。大丈夫、私を信じて!」
そう女神が長年仕えた侍女の口調で語り掛ける。
そして、腕を伸ばして立ち上がらせて、彼女を抱きしめる。
その耳元で何かを呟いた。
その事に反応して、ケイト女王は瞳を大きく見開き、涙する。
「ありがとう…ありがとう、エマ…」
何度もお礼を言う。
「いい子ね。では、ケイト。先程の役目を引き受けて頂戴ね。」
女神が言うと、ケイトはゆっくり頷いて、再程の話を承諾した。
「ありがとう。」
そう嬉しさを滲ませ言葉を発したのち、女神は鏡を天へと向ける。
「#%#&%」
言葉無き言葉を放つと、その瞬間に女神の周囲が光りはじめた。
あのコンパクトは、女神の力を使わずして、起動することは出来なかったようだ。
足元に広がりを見せる女神から放たれた虹色の光は、平面的であったものが背後へ線状に伸び始めていく、その線は強い閃光の集合体へと変わっていった。
光りの集合体は女神の背後に延び続け、どこまでも続くトンネルのようになっていた。
その光の先へと導かれる様に、女神は向きを変え歩み始める。
少し歩いたのちに女神が振り返り、最後にこう言った。
「この世界を頼みます。」
再び背を向けて歩き出したと同時に、光は尻すぼまっていき、消えて行った。
女神の帰還である。
女神が帰還してしまいました。
今後、どうなるか…