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復讐の末路

暑い日がつづきますね

お読みいただきまして、ありがとうございます


「テオ、何をしているのだ!?」

 テオの元主であるケント・フレデリックが叫ぶ。


 その声に一瞬反応を見せるが、テオは向き直り、鏡を皆の方へ向けた。


「俺をここから出せ。俺はこれを使って、殺さなければならない奴がいる。この力さえあれば、腐ったあいつも、あいつの醜い妻も全て消せる!この世から消してやるのだ!!俺達家族を追い出し、いいようにこき使い、俺達の幸せを壊した醜いあいつらを、苦しませて苦しませて、極限まで苦しませてから、消してやる!!!」

 顔を真っ赤にして、涙を流しながら、彼はそう言い放つ。


 フレデリックもテオの差す人物が誰であるのか、そいつに彼が何をされてきたのかを知っているだけに、言葉が出てこない。


「君の気持ちは理解するが、それでも、それはいけないことだよ、テオ。」

 そう幼子を諭すように語り掛けたのは、ヘンリー殿下であった。


「殿下は黙っていてください!」

 テオがそう叫ぶ。


「黙らないよ。私は、君の家族の事を知っているからね。君に、伝えなければならないことがある。」

 ヘンリーはテオの目をジッと見つめて話し続ける。


 テオは自分の家族の情報を聞けるとなり、口を噤み、耳を傾ける。


 その様子に、ヘンリーは言葉を繋いだ。


「まず、君の姉だが、王家の方で厳重な警備をつけて保護しているので無事だ、安心しなさい…そして、君の母親だが……心して聞きなさい。君の母親は、君の姉がこの国に連れて来られた年に亡くなっている。彼女は、君の姉のことを連れて行かせまいと、必死で抵抗したそうだ。そう、君の時と同じようにね。その際に、大きな切り傷が背中に付けられ、それが原因で亡くなったそうだ。もうすでに、この世に居ない。」

 ヘンリーの言葉に、テオの動作が停止する。


 亡くなった事実が受け入れられないのだろう。

 テオは手に鏡を持ったまま、動きを止めた。


 それをチャンスとし、ジョージが行動を移す。

 鏡を取り戻そうと考えたようだ。

 だが、近づいた気配に気づき、テオは意識を戻し、反発する。


「来るな!!!来たら消すぞ!!!!」

 鏡をジョージへと向ける。


 ジョージは手を挙げて思わず後ずさりした。


「嘘だ、母さんが死んだなんて…俺を攪乱させるための嘘なのだろう?」

 もはや、冷静ではないテオは王太子であるヘンリーにさえ、言葉使いが崩れている。


「嘘ではない。君の姉を調べる際に、知らされた事実だ。その時は君があのリチャードの側妃の弟であることは分からなかったのだ。君の存在は閣下、君の父親によって、隠され、痕跡は綺麗に抹消されていたからね。だが、君が側妃の弟だと判明し、点であった話が繋がっていった。そして、辿り着いた事実。君の母親はすでに他界している。」


「そん…な……そんな…なんてこと…僕は、母さんを助ける為に、人質に捉えられている母を助ける為に、苦しめられている母さんを救うためにと、あいつのいう事を従順に聞いてきたというのに…すでに死んでいただと!?」

 その呟き後、テオは何も話さなくなってしまった。


 静寂が空間を支配する。


「それならば、なおさら、僕達を苦しませ、母さんを死に追いやったあいつらを許すことなど出来ない!」

 そうテオが口にした時に、一歩前へ出て語り掛ける人物がいた。

 フォード公爵だ。


「テオ君といったね。君の母上にはお悔やみを申し上げる。君は復讐をしようとしているようだが、それは叶わないかもしれない。」

 そう、テオの目を真正面からジッと見つめ、話し始めた。


「まず、聞きたい。君が復讐を望んでいる相手というのは、グランドル国の名将、ヴィオラ閣下とその正妻であっているかな?」

 フォード公爵がいつにもまして、緊張した面持ちで声を掛けていることが汗の量で分かる。

 短く刈られた襟足から、ポタポタと雫が零れ落ちている。


「そうです…」

 緊張がうつったのか、テオも背筋を硬直させて答える。


「そうか、ではやはり、君の復讐は叶わない。何故なら、閣下とその妻は、すでに斬首され、この世にいないからだ。」

 フォード公爵が、今度は落ち着いた声色で、テオに告げる。


「斬首?他の誰かに襲われたのですか?誰ですか?いったい、誰が、どうやって殺したのですか??」

 テオが縋り付いて必死に聞いてくる。


「君の異母兄弟だよ。君の他にも、ヴィオラ閣下には多くの庶子が居た。そのうちの一人が、グランドル国の内政部で働いているのだが、そこで、ヴィオラ家の国庫へ関わる不正の証拠を集めて告発したのが1年前。彼は、君と同様に脅迫を受け、父親の命でスパイとして城内に送り込まれていたようだ。そして、君と同じ理由で父親を貶めたのさ。まあ、奴が手を出していたものが悪かった。ドルトムントの秘宝ルトゥの遺品に手を付けたのだ。もちろん即刻、爵位取り消し、一族皆殺しの刑となった。刑を言い渡した張本人に聞きたいところだが、その状態では敵わない。」

 フォード公爵が倒れているドルトムントへ視線を送りながら話す。


「そんな……死んだというのか!?勝手に、勝手に死ぬなよ!!!!」

 テオが激しく取り乱し、腕を振り下ろして怒りを表す。

 その手に力が入り、鏡が強く握られ、ミシッと嫌な音を立てている。


 その様子に、女神の右目がピクリと動く。


 テオはガバッと顔を上げ、ドルトムントを凝視した。

 目が血走っている。


 これはマズいのでは?とオリヴィアが思ったと同時に、テオは手に持っていた鏡をドルトムントへ向けて、叫んだ。

「死ねー!!」


 そう叫んだが、何も起こらない。


「なんでだ、なんでだよ!!これで、あいつを呪い殺せるんじゃないのかよ!あいつが親玉なんだぞ、全ての元凶だ!元凶ならば死んで当然だろう!」

 テオが涙を流しながら、手の中の鏡をドルトムントへ向けて振り下ろし、叫び続ける。


 パンッと何かが弾ける音が響く。


 フレデリックがテオの頬を平手打ちした。


 テオの行動が完全に停止する。

 涙も止まり、何が起きたのかと唖然としていた。


 そんな彼に、フレデリックが声を震わせて語り掛ける。

「お前の復讐は叶わない。相手はすでに死んでいるのだから。理由をこじつけて代わりで復讐を実行しても、それは、タダの殺人だ!お前は理由なく人を殺める様な奴じゃない。猟奇的な殺人者になるつもりか?私の知るテオは、そんな奴じゃない。」


 テオはぶたれた頬に手を当てていたのだが、その手を覆うように、フレデリックが自身の手で包み込み、顔を向かせて目を無理矢理合わせる。


 そして、こう言った。

「テオ、また私の元へおいで。私が本を読む傍で、邪魔が入らないように見張っていてくれないか?」


 テオはその言葉に再び大粒の涙を流す。


 そして、無言で頷いた。



あと少しで夏休み、早くコイコイ夏休み


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