幸せを壊された者
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不安でたまらない…先程の言葉を聞いてから、オリヴィアはハロルドとの関係がどうなってしまうのか恐れを感じていた。
それを察したのか、ハロルドがピタッとオリヴィアの横へくっつき、手を握ってきた。
恐らく、彼も同じ思いを少なからず抱いているのだろう。
彼の手の温もりに、気持ちが騒めく。
“この手を離したくないし、離れて欲しくない”
周囲を見回すと、両親は寄り添い、父は母の頭を優しく撫でている。
祖母も、とても不安そうな表情で両手をギュッと握り、口を結んでいた。
「か、帰らなくても、よくないですか!?そうよ、このままこの地で、今まで通りに過ごしていけばいい!ほら、女神様と分かったのだから、国を挙げてもてなすわ。凄く贅沢が出来るわ。それにこの国だって、繁栄と豊作を持続できるのだし…ねっ、そうしましょうよ…能力を奪わずに、このままでいてください…」
オリヴィアが女神に向けて、泣きそうになりながら、訴えた。
この願いは、自分勝手な思考も混じる。
本人もその事はよく分かっているのだが、家族や伴侶の気持ちを考えた瞬間、つい言葉に出てしまい訴えていた。
「リヴぃ、それは女神様にとって過酷な願いだわ。今まで、女神様は家族と別れて暮らしてきた。想像よりも遥かに長い間…今、この時ではないと、天へと帰れるチャンスはないの。人の欲望を満たすために、女神様をこの地へ縛り付けたままにするとことはできないのよ。」
リナはオリヴィアへと近づき、諭す。
そして、小さな声でこう付け足した。
「リヴぃの気持ちは痛いほどよく分かるわ。心が離れていってしまうのではと怖いのよね。私もよ、怖くてたまらない。私達の愛が、自身の感情ではないものであったらと考えただけで、恐ろしくて仕方がない。それが、今から実証されようとしているのだから、逃げ出したい気持ちでいっぱいだわ。でも、そうじゃないかもしれない!!私はそっちを信じることにした。私達の心を、愛を信じてみましょう。」
手を握り、優しく話す。
「はい……信じます。」
リヴィは涙をポロポロ零しながら、返事をした。
隣で肩を抱くハロルドが、手を回し、オリヴィアをギュッと抱きしめる。
そして、耳元で、
「大丈夫、大丈夫だよ。」
と繰り返した。
「では、話がまとまったみたいなので、力の回収に移らせてもらおう。」
女神が一歩前へ出て、大きな声でそう叫ぶ。
「まず、お前からよ、ドルー。」
女神が自身の斜め後ろでずっと直立不動であった中身がドルーのドルトムントへと振り返り、声をかけた。
「仰せのままに。」
と言いながら、ドルーは膝をつく。
皆が固唾を飲み見守る中、それは始まった。
女神が彼の頭上へと手を伸ばした。
手の中に何かを持っている。
細やかな装飾の施された銀のコンパクトであった。
あれは、ルトゥ教聖地ゲベートの神殿の泉から見つかった鏡だわ。
オリヴィアは思い出す。
あの時、確か力を集める鏡だと言っていた。
これに使う為にあそこへ取りに行ったのね。
女神がコンパクトを指で開けると、鏡が現れる。
その鏡を女神はドルーへと向けた。
鏡に、ドルーが映り込む。
その瞬間、ドルーの体から黒い靄のようなものが立ち始め、鏡へとどんどん吸い寄せられていく。
勢いは加速し、ドルーから黒い靄が出て来なくなるまで続いた。
そして、彼はその場にドスンと音を立てて、倒れ込んだ。
誰しもが息を飲み、恐怖に震える。
「これは…我々もこうなるのか?」
ドルーを見て、誰かが思わず発する。
「いいえ、彼はドルーの魂を取り除いたからこうなっただけよ。そのうち目覚めるわ。アレクシス、この者を後でグランドルへ返しておきなさい。」
そう女神が言うと、フワッとドルトムントの体が浮き上がり、陛下の真ん前に静かに降ろされた。
「えっと、彼は死んだのですか?」
ウェルト国王アレクシスは内心ドキドキしながら尋ねる。
「いいえ、ドルトムントは生きています。ドルーの意識と記憶を抜き取りました。きっと性格がガラッと変わるでしょう。」
女神が答えると、陛下は案著した。
だが、次期王の中身がガラッと変わるというのはどうなのかと、不安にもなる。
考えたら終わりそうにないので、陛下は一旦考えるのを辞めた。
「では次…」
そう女神が口にした時、人影が勢いよく飛び出し、女神に体当たりした。
女神が手の中にあった鏡を落とす。
幸いにも、鏡が割れることは無かった。
何らかの力が備わっているのかもしれない。
我はしなかったが、クルクルと回転しながら、部屋の隅へと飛ばされる。
そのコンパクトへダッシュで掛けて行き、手の伸ばして拾い上げる人物がいた。
テオである。
「これがあれば、あいつの能力が俺も使える。」
そうコンパクトを手にして言い放つ。
テオテオ