プロローグ
【兄さんまずいことになりました】から始まり、アルトニア大陸物語として一括りにした集大成がこの物語です。
前の作品からも多くの人物が登場していますので、気になる彼らのその後が分かるかもしれません。
前作を読んでいなくても大丈夫です。
気軽にお読みください。
ここに【アルトニア大陸創世記】と題された古い書物がある。
これには、こう記されていた。
“ これは、遥か昔から人々の間で語り継がれている神話である。
その日、神は気まぐれに二つの大地を創造した。
我が子の教育の材料とする為にであった。
神の名は、ルゥー。
ルゥー神がこの地を創られたのち、物音一つ聞こえてこない地に、思うままに生き物を創るようにと末娘に命じる。
そして、末娘は快諾すると地上へと降り立った。
この地に降り立ち、人類を誕生させた神の娘、彼女自身も女神である。
その者の名は、ルトゥと言った。
創造の神、ルゥー神の七人いる子の中で最も賢く、慈愛に満ちた神と言われている。
地上へ降り立ったルトゥは、広い大地を見渡すと、たったひとりでこの任務を実行する事は困難であると判断した。
ルトゥは、すぐさま従者を岩と土と苔から作りだし、自らの力を分け与えた。
そして、ドルと言う名を与える。
暫くの間、2人は和衷協同し、西の大陸で生き物を増やしていった。
しばらくしたのち、海の向こう側に、もう一つ大陸があることをルトゥが発見した。
西の大陸をグランドル、東の大陸をアルトニアと名付ける。
ルトゥは、一人で東の地へ赴き、そちらで生命を増やすので、ドルはこの地へ一人残り、さらに生命を増やし続けるよう命じた。
ドルはルトゥの命を受け入れ、西の大陸で一人、黙々と生命を増やし続けた。
ルトゥの存在しない地は、生き物が増え賑やかに成りつつあったのだが、ドルの心が満たされ、安らぐことは無かった。
虚しさと寂しさが募る日々。
仕事をこなしていくものの、ルトゥと共に行っていた時とは雰囲気や意識、感情がまるで違う。
だが、ルトゥに必要とされ、認められての任であるのだと心に鞭をうち、粛々と作業をこなした。
離れて多くの時間が流れた。
ドルはとうとう一人に堪えきれなくなり、ルトゥのいる東の大陸へと向かってしまう。
そこでドルは、驚くべき光景を目にした。
ルトゥの横に、眩いばかりの美しい青年が居たのだ。
その者の名はウェレ。
彼はこの地でルトゥが、宝石と花、貝殻を集めて創り出した者であった。
それはそれは、とても美しい青年である。
その青年はルトゥの腰へ手を回し、憂いに満ち溢れた表情でルトゥを見つめている。
それは彼女も同じで、彼らは共に想いを通じ、心底幸せそうに笑っていた。
そればかりか、彼に似た赤子をルトゥが腕の中で抱いている。
さらに、その周りにも、彼によく似た小さな子供達が綿毛を追いかけ、花を摘んで遊んでいたのだ。
その光景をドルは、目のあたりにした。
極度の侘しさから彼女に会いに来たドルは、これに激怒した。
そして、ウィレへと強い嫉妬心を抱く。
自分のみがルトゥの一番であったはずなのに、自分のみがルトゥに近しい存在であったはずなのに、自分のみがルトゥに最も愛されている者であったはずなのにと……。
ドルの激しい嫉妬心は、醜い淀みとなり、大地を覆い尽くした。
それを察知したルトゥが、ウェレ達を急いで山の木々の中へと隠した。
しかし、怒りに我を忘れたドルは鼠を使い、隅々まで探し続け、執念で彼らを見つけ出す。
その醜い淀みは、木々の合間に隠れていたウェレとその子らを襲い、瞬く間に飲み込んだ。
飲み込まれたウェレ達は、淀みの中でもがき苦しむ。
このままではいけないと、ルトゥはドルのもとへ急ぎ、彼と約束を交わす。
「ウェレ達は東の地へ住まわせ、自分は彼らから離れた大地で暮らす。金輪際、会うことはない。どうか、その感情を鎮めてほしい」
と、ドルへと強く訴えたのであった。
ドルはその言葉を受け入れ、嫉妬の感情をうちに閉まった。
それから長い間、ドルはルトゥを近くに置きと共に、自らの国を築いた。
そして、彼女に自分を認めさせようと強大な財力、戦力を持ち、権力を振るった。
その間も執拗な監視を続け、彼女へと愛を囁き続けた。
しかし、ルトゥはドルに想いを返すことはなかった。
それから、数十年…ウェレが寿命で無くなった。
ルトゥは、ドルの前では気丈に振舞い、夜になると床で静かに悲嘆し続けたという。
その後も多くの国が誕生し滅びを繰り返したが、その間もルトはウェレを愛し、自らの家族を想い続けた。
時間は流れ、世界は急速に発展を遂げていく。
その間も、ドルはルトに愛を囁き続ける。
だが、ルトゥは愛に答えることは一度も無かった。
それから長い年月が過ぎ、神力が失われていった2人は、この地から消え去ったのである ”
改めまして、多くの作品の中から目に止めてくださり、ページを開いてくださり、誠にありがとうございます。
次回から本編完全始動です。
これからどうかよろしくお願いします。