せっかく追っ払ったのに昼休みに再戦とは残念無念
食堂のテラスでお昼を食べていると、何やらキリリと表情を引き締めた王子さん達が近付いて来た。残念ながら朝のお願いは神様に却下された様だ。いやまあ、観音様も大明神もいない異世界の空の下、あたしのお願いはどこの神様の担当になっているのかは知らないけれど。
そういやあ、あの神様のお使いだってぇ妖精とやらはどうしているのかねぇ?夏休み町内会合同夏祭りアニメ映画上映会のお手伝いをさせられて、三日連日で王子さんとヒロインの出て来るファンタジー映画に出て来る妖精は、ヒロインの周りをへろへろと飛び回っていて、困った時には助けるってぇ役割だったけれど、こっちの妖精は妖精の『よ』の字もみせやしないよ。
ちょっとした電化製品だって一年は保証がつくし、あたしの作る指輪なんざぁ五年間サイズ直し無料の大盤振る舞いサービスだ。電気屋の有償保証サービスに入れば、普通に使っている限り十年間補償をしてくれるってぇのに、まったく、幾ら一つしかない命を救ってくれたとはいえ、体はこんがり狐色で再起不能で再利用不可ってんだから、もうちょっと気を使ってくれても良いのにねぇ。
「ウィス、何故母上にアズを私の婚約者とする様に進言した?」
近付いて来るのを軽く頭を下げて待っていれば、挨拶も無しに単刀直入に言い放つ王子さん。
「ご返答差し上げても宜しいですか?」
「ああ」
偉そうだね。その口を摘んで捻り上げたいとこだが、ユーさんの記憶が『ダメ絶対』と警鐘を鳴らしまくっている。
「王家の婚姻に口を出せる様な立場ではございませんし、わたくしが申し上げたのは『婚約者候補』となさっては如何か、でございます。妃殿下と婚約者候補とのお茶の席で、話の流れで申した事。妃殿下より叱責はございませんでしたので、問題は無いかと考えておりますが」
王子さんが自分の価値をどう見積もっているのかは知らないが、少なくとも婚約者候補三人の中じゃあババ抜きのババ扱いの認識で統一されている。更に言えば、候補三人だけじゃなくって、その親達も同じ認識だ。
王家からすれば力のある家の娘を王孫妃にする旨味は大きいけれど、軍閥のユースティティア家は臨機応変に動くべきタイミングに動きにくくなるし、魔道具研究の大家グロスターべは資産と年月と人材を掛けた研究結果を王家の手柄にされる可能性もありうるし、辺境を守るマスキュール家は守備に少しでも不備があれば王都で孤立無縁の娘の立場が悪くなる。
そんなデメリットがあるのに名誉と忠誠心で娘を嫁がせるのだから、その娘の立場を尊重してくれないなんて事は万に一つもあるべきじゃないよね? 婚約者である王子さんが、婚約者候補として納得した他の二家以外の、今現在これといった勲功も無い伯爵家の、これといった才を見出された訳でも無いお嬢さんと楽しく過ごして、大切な娘を一顧だにしない状況で『是非嫁がせたいです!』って言うわけ無いでしょうが、このすっとこどっこい。
そんなすっとこどっこいあんにゃもんにゃの婚約者になる利点と言えば、このまま問題無くいけば王妃として国母として崇め奉られるので、そういうのがお好きな方なら満足感が得られる事。王家との繋がりが強くなるので、宮廷政治での実家の発言権が強くなる、かも知れない事。国のトップに直接意見を言えるかも知れない事。素敵なドレスやら王家の至宝のアクセサリーなんかを着用出来る事。
…………。
いやね、そう言うのが好きとか憧れるってぇ気持ちがある人には良いだろうし、そういう御仁も多いんだろうけれど、あたしには無理だし、他の候補者もダメだったと。
で、態々あたしが不敬承知で王妃さんに『恐れながら』と申し上げてあげたってぇのに、礼を言われこそすれ、不満を言われる筋合いは無いね。
大体、気取った婚約者連中が気にいらない、庶民の気持ちが良くわかって新風を吹き込むアザレさんを見習えって言っていたから、あたしが推薦して推薦して差し上げたんだよ。感涙に咽びながら感謝の言葉を、そうだね、王子さんと言う立場だから大負けに負けて、恩人ではあるけれど名前を呼び捨てにする権利をやってだ、『ウィスタリアのお陰で心寄せ合うアズと手を取り合って国を治める未来への道筋がついた』と言ってくれるべきだよねぇ。
こちとら不登校はしていても、アザレさんがあたしを追っかけて来て面倒を掛けられた時以外、王子さんと御神酒徳利だったってぇ報告は腐る程入って来ている。
王子さんが特定の女生徒とべったりじゃあ風紀がどうこうと言う苦情受付解消窓口よろしく、記名有りやら無記名やらの手紙がジャカジャカ送られてくるし、父様に向かって『学園で一番尊い令嬢をお持ちのユースティティア卿は、お嬢様からお話を聞いていらっしゃいますか?』ってな具合にカーブを掛けた苦情解消願いも入ってくる。
当然、裏打ちも無しに一方的な要求を聞く訳にいかないから、ユーさん家の独自の情報ルートからの話も併せて確認しているし、深読みして余計な事を言うなと言われても、深読みする以前に最初っから最後まで真っ昼間の明るいお天道さん、白日の元で晒す必要も無くこの国でのマナー違反をやらかしている時点で多くの証拠と証人がいるってぇ事実があるんだよぉ。
といった事をビシャビシャのオブラートに包んで丁寧に説明して差し上げた。
途中、『な』とか、『あ』とか言った合いの手が入ったけれど、その度に『聡明な殿下なら』『聡明な皆様なら』と前置きを付けて差し上げた所、鼻の穴を膨らませて黙ってくれたのでそのまま言い切った。




