庇われるのは柄じゃあないが必要な時もあるよねぇ
取り巻きってぇのは、もっとこうぐるりと周囲を囲むもんじゃあないかね?しかも地味な方ってぇ言うくらいだから、派手な方も居て良いんだけれど、派手な方と表現出来るような人にとんと心当たりが無い。敢えて何とか無理を通して派手な方の係を選べってぇのなら、栗皮色の髪に鉄紺色の目ん玉のエピさんと比べて、山葵色の髪に緑青色の目ん玉のキルさんが派手な方になるんだろうけれど、緑系は蛍光やパステルカラーじゃ無い限り落ち着くアースカラーの仲間だと思うんだよ。となると、派手な方は誰を指しているんだろうねぇ?
第一、学校ってぇ場所での取り巻き表現が気に食わないよ。真ん中のユーさんは良いとして、周囲のお友達がオマケみたいじゃぁないか。そりゃあね、囲まれる側に物凄い魅力があって、お互い納得尽くってぇのなら良いけれど、外っかわから見て勝手に中心が誰で残りは賑やかしみたいに判断するのは良くないさね。
「ヴァルム男爵家が娘、エピナート・ヴァルムと申します。ユースティティア公女の侍女として、閣下より用命を受けております。学生として平等を旨とする学園内であっても、メガイラ嬢のなさりようはお嬢様に対して礼を失しておられます。少なくともメガイラ嬢がお嬢様と懇意になさっている事実はございませんし、閣下の認識も同様でいらっしゃいます。お嬢様の許可も無く愛称で声を掛け、乱暴な言葉遣いをなさる方と直接お話しする様な事は侍女として認める訳に参りません。どうぞご考察お願い致します」
「え?な?」
エピさんカッコいいよぉ。よっ、ヴァルム屋!
にしても、庇われるってぇのは性に合わないねぇ。己の事は己で。売られた喧嘩は買うのが度胸。火事と喧嘩は江戸の花。キルさんが然りげ無くあたしにアイコンタクトをしながら『待て』的な手振りをして来ているもんだから、我慢して表面上は何も気にしていませんよってな態度ではいるけれどさ。
年下のお嬢ちゃんお坊ちゃんに庇われるなんてこそばゆいじゃあないか。でも我慢我慢……。
「い、今まで文句を言わなかったじゃない」
「学園内の独自ルールもございましたし、お嬢様がお返事なさっておられましたので、差し出がましい真似は控えていただけです。状況を閣下に報告し、周囲から見ても宜しくないとのご判断をいただきましたので、進言させていただいたまででございます」
「酷い!ウィスが公爵家で私が伯爵家だからって、差別するのね⁉︎ 」
「私は男爵家の娘だと申し上げましたが?」
「あ……、で、でもでも。結局公爵家の名前で私を差別しているじゃない」
「差別ではございません。それ以前に、大前提が間違っておられます」
「え?」
「王妃殿下よりどの様な御下命がなされたのか、私如きには分かりかねますが、エルトリアの尊き王妃殿下よりメガイラ嬢が賜ったお言葉について、臣下であるお嬢様が関われる筈がございません」
「えっと、つまり、私が伯爵家だから王妃様と「家格は関係ありません」」
「王妃殿下の尊きお言葉を一介の臣下であるお嬢様が左右出来るとお思いとは、メガイラ嬢も本気でおっしゃっておられませんよね?」
うーん、完全にエピさんの独壇場になっているよ。
ただでさえ周囲との関わり合いを避けていた挙句に不登校までしたあたしに対して、ユースティティア以外にはいつもニコニコ人当たりの良いアザレさんにはお友達がたくさんいる。
基本的にアザレさんが突っかかってくるのはユースティティアだけとはいえ、エルトリアルールに照らし合わせりゃあ完全にアウトなんだけれど、王子さんとお兄さんを含めたお偉いお坊ちゃん連と連んでいるという前提があるんで、無礼講ってな思い込みでそこいらのマナーは追及されて無いんだよねぇ。
ユーさんが学生さんだった時は目立たない様にあれこれ正そうとしていたけれども王子さんやらに『公爵令嬢として良く考えて発言し行動しろ』という、箸にも棒にも引っかからない適当な言葉で有耶無耶にされていた上に、強い責任感が裏目に出て爺様達にも相談出来なかったし、キルさんやエピさんに協力を仰ぐっていう選択肢も無かったから潰れちゃったんだ。
けどまあ、今回は違うよ。こちとら利用出来るもんは親でも使う主義だ。いや、実際は離れてたんで利用する事も無かったんだけれどさ。その代わり、必要とあらば近くにいる人に頼み事をする事に遠慮会釈の無い性分だ。お礼の言葉はどれだけ言っても、頭は幾ら下げても減るもんじゃないし、逆に自分が気分良く使われるんなら否とは言わないよ。
ユーさんの記憶だと、アザレさんが絡んでくると同時に周りの学生さんがわらわらと集まって来て『ユースティティア嬢』に対してヒソヒソやり出すんで、多少理不尽であっても騒ぎにならない様にその場は引いてお手紙やら個人的にやんわりと指摘していたんだよ、一応ね。
一応ってのは、手紙を書きゃあぞろっぺぇ連が鬼の首でも取ったみたいに『言いたい事があるなら態々手紙にするな。嫌みか?』とやって来るし、やんわりと注意すりゃあ『立場の弱い者を呼び出して難癖をつけるなど、思いやりのある者のやる事ではない』と集まって来る。
暇かい?暇なのかい?
無聊を託ってるってぇのなら、立場上もっとこう実りある何かっしらに取っ掛かれないもんかねぇ。大体、アザレさんの事だけにしゃしゃり出て来るってのがおかしいってぇ事に気付かないんだから、恋愛青春男子達は手に負えないよ。
ところがどっこい本日は、単身乗り込んで来たアザレさんの『オトモダチ』はヒソヒソの『ひ』の字も出さずに黙りで見守っている。そりゃそうだ、アザレさんより立場が弱いエピさんが問題点を指摘しているから『いつもの強者と弱者』が逆になってしまっている上に、エピさんは真っ当な事しか言っていない。
でだ、エピさんにばっかり話をさせているせいで、今にも飛び出しそうなあたしを抑えているキルさんが、周囲に『問題があればユースティティア家として抗議する』ってな空気を漂わせているんだから、下手に近付いたら面倒になるってのが明々白々。
「アズ、ここに居たのか⁉︎ ウィス、一体アズに何を「高貴なるエルトニア王孫殿下に申し上げます」」
教室に飛び込んで来た王子さんと愉快な仲間達にこれでもかってぇばかりの笑顔を、右手は細工が美しい室内時計に向ける。
「そろそろ授業が始まります。お教室にお戻り下さいませ」
さようなら、さようなら、ぞろっぺぇ連。残念ながら時間切れだよ。続きはまた今度、とはいきたくないから、身内で楽しく過ごしておくれ。




