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魔法の坊ちゃん自体は凄いと思ってるんだよ?鬱陶しいけど

「あのねえ、魔法の坊ちゃん」

「魔法の坊ちゃん?」

「お前さん魔法を使うんだろ、魔法の坊ちゃんじゃないか。態々学園をお休みして遠路遥々ご苦労様と言いたい所だが、学生さんの退屈に付き合う(しま)なんぞ無いよ。こちとら仕事の最中だ。公爵閣下のお坊ちゃんに付いてきたんなら、そっちについてまわりゃあいいさね。鉄がある?武器がある?だからなんだってんだい?お前さんの住んでいる場所が平和だからって、国中平和だと思ってんなら頭ん中まで平和で緩んでるって事だから、もうちょっとお勉強した方が良いよ。武器があるって事は、ちゃんと許可を取ってるからって考えられないのかね?若いんだからもう少し柔軟な考えを意識した方が良いよ。人間、歳をとると考えも体も硬くなるんだからさ。お前さんがいるせいで仕事に取っ掛かれないんだけど、そろそろ気ぃ利かせてお帰り願えませんかね?お前さんの家の家業にも秘密(しみつ)ってぇのがあるよね?あたしの仕事にも沢山の秘密(しみつ)があるんだよ。暇な学生さんがこっちに来てから何日も、代わる代わる詰まらない御面相をぶら下げて『おこんにちは、本日は良いお天気様でございます』とおいでになって、大人の仕事を邪魔するのはそろそろご勘弁願いたいねぇ。大体、あたしんとこに来ても面白いもんは何も出ないよ。出ないどころかお前さん達の立場が悪くなるだけだから、早いとこ王都にお帰りな」

「なっ。僕は学年で首席を争う優等生で、入学から魔法関連は全て首席なんだぞ」

「争うも何もユーさん、公爵令嬢に総合成績で負けてるんだから、そんな事を得意気に主張されてもねぇ。良いかい、簡単な計算だよ。全部の点数を足して比べるだけで良いんだからね。そりゃあね、職人のあたしからすりゃあ手に職と一緒で、得意分野に一点集中で突き抜けるのが最上等だと思うけれど、残念ながら先生方は全体的に優秀で、やる気と努力を全面に押し出す生徒を評価したがる傾向があるからねえ。やる気なんて幾らでも見せかけの体裁を繕えるし、努力した所で身にならないんなら得意分野を伸ばした方が良いと思うんだけど、ま、学生さんのうちは努力する事も悪くないよ。結果も分からないのに努力するってのは結構な苦痛だと思うんだ。やってみないと分からない事は、ちょいとばかり努力して先に進んで見ないと目鼻もつかないからね」


 全く、この坊ちゃんがお神輿を据えているせいで、剣の型取りが出来ないじゃないか。金属グネグネの力は極秘だから、目の前でご披露した()には、魔法坊ちゃんの爺さんである魔法研究ジジイに人体実験されかねない。

 昨日まで三馬鹿を引き取りに来てくれていた警備員さんも今日は他で忙しいのか来てくれないし、ここは一旦話に付き合って差し上げて、いい加減ここにしても仕方が無いとご理解いただいて、ご帰宅と本日を最終訪問とする事を決定していただきたい。


 作業机の脇にある軽食ワゴンから、果実水とクッキーを坊ちゃんにも勧めたら顔を顰めて首を横に振られた。ああ、そうだった。あたしの偽もんの火傷痕を嫌って、感染るの何のと言ってたんだっけ。見た目差別反対、とは言わない。そのおかげで一定以上近寄って来ないから、変装もバレにくい。

 勧めたのも食べて欲しいと思ったわけじゃあなくて、


「ユースティティア嬢の成績は君と関係無いでしょ。学園の内情も知らないくせに、彼女の権威を笠にきてあれこれ言わないで欲しいな」


 いや、あたしが試験受けてるんで。当事者なんで。ユーさんの記憶だけじゃ危なっかしいから、日々真面目に復習してるんで。言えないけど。


「首席で優等生って言い出したのはお前さんで、だったら総合トップについても話をされても仕方がないと思わないのかい?」

「は、話を逸らさないで欲しいんだけどっ?」

「別に逸らしちゃあいないよ。お前さんが言った事をそのまま返しているだけさね」

「ふん、話を戻すけど陛下の許可があっても、武器がらみで不審な点が多いのは事実だから詳しく調べられると拙いんじゃないの?」

「話を戻すも何も、元々決まったテーマで話をしているつもりは無いからね。調べたきゃあ調べてくれて結構だけれど、あたしがやってるのは正式な仕事だから、お前さん達があたしの手を止めたり軍の機密に首を突っ込もうとしたりするのなら、ご実家に正式な抗議が行くよ。それでもよければ幾らでもどうぞ。それとね、あたしは別にお前さんが優等生って事にケチをつけてる訳じゃ無い。寧ろ魔法関連の成績がずっと首席なのは素晴らしいと思うよ」

「はぁ?何を言っているの?さっき得意気に主張するなって言ったのは君だよね?」

「言ったよ。言ったけど、主張するのはどうかって言っただけで、成績そのものは素晴らしいって思うね。魔法の坊ちゃんの家は偉い魔法使いさん達を沢山排出してるって聞いてるよ。そんな家業にピッタリあった才能を持っていて、更に才能に胡座(あぐら)をかいたりしないで努力し続けてるんだよね?人間、才能が無くてもどうしてもやりたいって事は結構頑張って、結果が今ひとつでも趣味にしたりと楽しめるもんだよ。けれど、義務が付随する努力って辛いじゃないか。例えそれが好きな事でもね。魔法の坊ちゃんが大天才でも、学園の魔法系統全部の成績で一番を取るのは大変だ。周囲がみるのは結果だから、どんなに苦労して学んで結果を出しても『天才だから当然』『あの家の子だから当然』なんて言われるし、ちょっとでも失敗すれば『何でどうして』の嵐になってしまうんだろうしね。常に絶好調って訳にはいかないし、体調が悪くても悩みがあっても結果は求められる状況で、その結果を出してるんだから凄いよ」


 うんうんと頷くあたしに、珊瑚色の目ん玉をまん丸にして口元に手をあてる魔法坊ちゃん。おや、可愛らしい。


「あたしの仕事と魔法は全くの畑違いだけど、日々新しい技術を研究したり腕を上げる訓練をするのは一緒だから、そこは純粋に凄いって思っているし、思っている事は伝えとかないとね」

「ぼ、僕を、誤魔化そうとしても、ダメだから」

「誤魔化しじゃなくて、だからね、得意分野がずば抜けていて、更にそれを伸ばす為の努力を怠らず、周りのプレッシャーに負けないで結果を出していっているのは事実で、それを凄いって言うのは何もおかしな事じゃないさね。しかもだ、お前さんはなんだかんだ言って魔法に関わる事が大好きなんだよね?嫌いだったら自慢すらしないんじゃない?だとすると、素晴らしいね。自分の好きな事に才能があって、周囲の環境がそれを伸ばすのに適してるんだから。周りが勝手な期待や押し付けをあれこれ言ってきても、ずっと続けられたのは楽しいからだよね?」

「それは……。いや、僕が何をしているか知らないくせに、誤魔化さないでくれる?」

「知らないよ、他人だから。なんで、他人の仕事場に来ないでおくれって言ってるんだよ。どうしても話したい事があるんならお手紙にでも書いて送っとくれ。どうしても直接話したいんなら予定調整確認のお手紙を送っとくれ。お前さん達の目的はあたしがどういう人間か知りたいってんだろ?しかもだ、魔法の坊ちゃん自身が知りたいんじゃなくて、メガイラお嬢ちゃんが知りたがってるんだよね?お嬢ちゃんの力になりたいのも分かったけど、あたしにはあたしの都合があって、あたしにはあたしが話ししてもいい相手を選ぶ権利があるからね。あたしんとこ来ても無駄だよ。いい加減なあたしから何かを聞き出そうとあれこれ話しかけて無駄な時間を過ごすより、魔法の坊ちゃんの好きな事をやった方が良いよ。態々学校をお休みしてまでこっちに来たんだから、そうだね、この街の図書館には珍しい本があるって聞いてるよ。魔法研究の役に立つかも知れないから覗いてみたら良いかもね。お前さんの実力なら本棚の肥やしになってる本から、未だ誰も見つけていない新発見が出来るかも知れないよ?」


 そろそろ帰っていただかないと今日のノルマが終わらないのだけど、ポカンとした顔でふわふわ三つ編みの先を持ち、くるくるまわしていて席を立つ様子が無い。何か新しい魔法でも思い付いて、早速発動させてみたいんだろうか。そう言うのは外の誰もいない原っぱででもやっていただきたい。


「もう良いかい?あたしゃあ忙しいんだよ。さっきも言ったけれど機密事項が絡んでるんで、お前さんが居ると仕事にならないんだよぉ。とっとと出てっておくれな。お帰りはあちら。ルースト隊長、お客様のお帰りだよ。エスコートして差し上げて」

「承知しました。さ、アルタール様、お見送りしますのでこちらに」


 然りげ無く手を背中にあてて押し出すその技術が素晴らしいね。魔法の坊ちゃんも大人しく帰って下さるみたいだし、明日はどうなるか分からないけど、明日は明日の風が吹く。さぁて遅れた分、頑張っちゃうよー!


ーーーーーー


 って、昨日は頑張ったんだ。頑張ったんだよ。どれくらい頑張ったかといえば、初詣でごった返す参拝客の間をすり抜けて、観音様の真ん前に陣取って一年の無病息災、ダメでも頭と手だけはしっかり動きますようにって祈願して、御神籤引いてる時に違和感を感じて確認したら初詣に選んじゃあいけないフード付きを着ちまっていて、そのフードの中に後っから投げ銭で祈願したお(しと)達の祈りのこもったお賽銭が入ってて、いっそ社務所の人に手渡しすればいいか、いやでも、賽銭箱目掛けて(ほう)ったのに他所さん社務所経由になるのは、知らなくってもこっちの気が()ける。これも何かの縁、元旦から情けは人の為ならず、自分がこうされたら嬉しいってんで、もいっぺん人混みの流れに乗って無事お賽銭箱にたどり着いて全部入れた時くらい頑張った。

 あん時は賽銭箱にたどり着いたのが嬉しくって、危なくここまでの道のりで新しくフードに入り込んだお賽銭に気づかないところだったんだっけね。後頭部に小銭ぶっつけられて気が付いたけど。で、誰にぶつけられたかは分からなかったけど、観音様に『人様の頭に小銭ぶつけたやつの願いも大切な願いなんで叶って欲しいけれど、新年からあたしに危害を加えられた事は業腹なんで、帰ってから箪笥の角に軽く足の小指ぶつけますように』祈った。


 それっくらい頑張ったんだよ。で、仕事も進んで気持ちよく寝た。

 そっから今朝、エピさんとキルさんには『あんなのまともに相手して差し上げる必要はありません。シオンさんが追い出せって言ったら直ぐに引き摺り出します』って言われて、あんだけ言ったらぞろっぺぇ仲間も暫くは来ないんじゃあ無いかねと返事をして。気分良く仕事の準備して中庭で作業開始して。


 で、今。午前の休憩を取る前の時点で。


「アトラークに聞きましたよ。彼の魔法の才能を褒めたり、軍の機密という言葉で話を誤魔化そうとしたとね」


 坊主の坊ちゃんに絡まれている。

 頼むよー、何であたしんとこ来ても無駄の部分を受け取ってくれないんだよー。

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― 新着の感想 ―
[一言] いや・・・後頭部に小銭ぶつけられるのはしゃあない 気が付いたらフードごともげてても不思議じゃない
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