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味方は近くに居た方が良い

 一通り意見が出揃った所で、武器の材料なりそのものなりが横領されているってな可能性が一番高いと纏まった。軍の武器には印がついているが、鋳潰して金属の塊にしちまえば出所不明の単なる材料に過ぎなくなる。

 武器、特に剣の殆どは鉄で出来ていて、鉄は生活道具にも必要だ。横領するとなると管理者だけでなく、運んだりチェックする連中と、多くの不届き者が必要だ。きな臭くなってすわ戦闘か?となった時点で不足が発覚しても、最優先は戦闘若しくはその回避。落ち着くまで横領犯を探している暇は無い。


「うーむ、シオンの記憶が正しければ、今から武器を作り直しても不足は否めぬ。何か良い方法は無いか?」

「購入するにしても、保管されていて譲っても良い武器そのものも少ないだろうし、それを買う予算も考えねばならない。作るとなると時間が掛かる」

「父上、私は武器の確認と横領の有無を調べて参ります」

「頼んだぞ。シオンはどう思う?」

「いや、難しい事は分かりません」

「そうではなくて、武器不足を補う案は無いか?」

「材料さえあれば、制作時間をグッと減らせますよ」


 あたしはにっこり笑ってグッと拳を握った。んだけどね、なんでキルさんとルーストさんが半信半疑の目でこっちを見ているのかねぇ。全く、イワシの頭も信心から。信じよ、されば救われん、だよ。


「剣を作る時、粘土や砂の型枠を作って、そこに溶かした鉄を流し込みますよね?その型枠を表裏と二枚セットの鉄で作って欲しいんですよ。こう、剣を寝かせて、上っかわと下っかわ」

「持ち手側と剣先側という事か?」

「いや、横にして上下なんで、同じもんが二個ですね。柄を真横にして半分半分」

 

 机の上にあったペーパーナイフを手元に引き寄せて、柄からナイフの先まで指で示して裏返し、もう一度同じ動き。


「知っての通り、あたしの能力は金属の硬さを自由自在に変える事なので、いちいち鉄を溶かして流し込まなくても型に押し込む事が出来るんですよぉ。で、型は砂やら粘土を使って作っていますけれど、あたしは直接必要な鉄を伸ばして型に嵌めて整形出来るんで、砂とか粘土だと勢い余って失敗する可能性が高いんですよね。だから丈夫な金属で作って貰えれば、剣一本に使う分の鉄の塊を半分側ぴったりに広げて押し込んで、上から残りの型でぎゅっと押してやったら剣の原型の出来上がりってなる筈なんです。これは剣帯飾りなんかに使う、同じ大きさのメダルを作る時にやっている手法なんで、大きさと作るもんが違っても上手くいくはずだ。後は職人さんに刃を付けて貰えば出来上がりってのを考えたんですよぉ」

「しかし、鉄の剣を鉄の型で作ったら、くっついてしまわないか?」

「溶かした鉄ならそうでしょうね。けれど、あたしの能力は温度変化が無いんで大丈夫です」

「ふむ、型取りも鋳型の作り直しも鉄を溶かして流し込む作業も要らないのか」

「鉄その物があれば、ですけれどね。鉄鉱石から取り出すのは無理なんで、横領されて足りない鉄材そのものは購入するなり取り戻すなりしていただいて、順次、刃を付けるだけのとこまで持っていけば間に合うんじゃぁ無いですかね?」


 ユーさんが追い詰められた時、爺様も父様も不在だったのはモンスターを撃退するのに手間取ったから。その前から忙しくて王都の屋敷に戻らなくなった、爺様と父様に手紙でも出して助けを求められりゃあ良かったんだろうけれど、それを良しとしない生真面目で優しい美徳が悪い方に働いちまったから、今ここにあたしが居るって事さね。

 だから、あたしは味方であるこの人達が出来るだけウィスタリアの側にいられる方法を考えた。考えたけれど、具体的に何かをする事は出来ないから、記憶という情報を開示して足りなかった武器を作れるという提案をした。


「ウィスは武器が不足していた事を知っておったのか」

「王子さんの婚約者としてあれこれお誘いがあったんで、そこで『ユースティティア将軍が苦戦なさっておられてご心配でしょう?』てな具合にぺれぺれ話してくれるお嬢さん方が多数居ましたね。ユーさんは好意的に受け取ってましたけれど、あたしからすりゃあ王子さんやらに邪険にされている位が上のお嬢さんに親切ごかしに近寄って、動揺したり悲しんだりする姿を見てみたいってな、嫌らしい子供の意地悪だと思うんで、頭に残っているそういう連中とはお付き合いしない様にしているんですよ」

「それでシオン様は学園で孤立に近い状態になっているのですね」


 キルさんの言葉にエピさんがうんうんと頷いて、それを見た爺様達が心配そうにあたしを見たので、手を横にぱぱっと振った。


「いや、三十路前の大人で国民皆平等民主主義で生きてきたあたしが、西洋映画風世界の青春真っ盛り下は十二歳、上は十八歳のお嬢さんお坊ちゃんとキャッキャウフフするってのはごめん被るってだけの話なんで、別に寂しくもなんとも無いですよ?確かに、学園に通うお子さん方はあたしの知っているお子さん方より、成人も早いし人の上に立つ心構えなんてぇのもお持ちですけれど、結局の所子供だってのは変わらないんで、すんなり混ざるのは無理ですよぉ」

「私が、シオンさんと同じ位大人だったら」

「エピさんのお気持ちはありがたいんだけれどね、無いもんを欲しがっても仕方が無いし、こう見えても一応年上のお姉さんだから分別は備えているつもりさね。偉そうな物言いになるのはご勘弁いただくとして、あたしは道理のわかった人と話すのは好きですよ。ちっちゃな子供から人生の大先輩まで、色々な考えやら経験やら思いやらを話せるのは楽しいもんなんでね。エピさんとキルさ、キルハイトさんがいるから面倒が近寄らないってのも大きいよ。あたし一人で学園に通っていたら、それこそ狙い目だってんで集中砲火を浴びていただろうしねぇ」


 外から見りゃあ可愛らしいお人形さんみたいな十代半ばのお嬢さんだけれど、中身はレトロ趣味な異世界の大人だよ。


「皆さんがあたしを心配してくれるのはありがたいけれど、あたしゃあお願いは口に出してくタイプなんで文句や頼み事をしていない時は、何とかなっている時だと思ってくれると助かります。それから、こうした方が良いってなアドバイスは随時受付中ですが、ご期待に添えない場合もあるので、どうしてもそうすべきってな時はご面倒様でも一声掛けていただけますかね?納得すりゃあ気に食わなくっても頑張って何とかしますんで、あ、目で南京豆噛めってな人体の限界を越える要求は呑みません」

「南京豆とは?シオンの世界では目から物を食べるのか?」


 さっきまでの思いやりあふれた視線が、化け物を見る目に変わったのは何故なのかね?いや、冗談なんだけれどね。


「いや、食べませんよ。物の例えというか、不可能は可能に出来ないっていう意味です。南京豆はあっちで一部の人が使う慣用句というか、物自体はピーナッツの事なんですけれどね」

「いつものシオンが使うおかしな例えだな」


 いつものとか、おかしなとか、酷い話だよぉ。ちょっとした例えじゃないか。目でステーキ食べるとでも言えば良かったのかね?それに、普段からおかしな事を言っているみたいにいうけれど、あたしは品行方正誠実実直な彫金師なんだけれどねえ。

 百聞は一見にしかずってんで、持って来た道具袋から加工前の鉄の端材を出して、柔らかくなれと念じながらペーパーナイフに押し付ける。押し付けた箇所の形にくっきりと凹んだ端材を爺様達に見せてから、別の端材を凹みに乗せて柔らかくなれー押し込んでから外せば、複製の出来上がりだ。

 熱は使わないから意識せずに作業した場合、同じ金属でもくっついたりしないけれど、前に細く伸ばした部分を間違えて折って『くっついたら便利だった』と未練がましく手で押さえてみたら元通りになったので、詰め込む金属が小さくても粘土を寄せ集めて詰め込んだ時みたいにくっつくという便利機能も出現したので、剣だの槍だのをどんどこ量産出来るんだよね。


「作りたい武器と大量の金属があればシオン一人で型取りして量産出来るな」

「刃ぁは付けられませんけれどね」

「それは仕方が無いが、仕上げのみに専念する鍛治士が複数いればあっという間に揃うだろう」

「閣下、問題があります」

「何だ?」

「調査後に不足分を鋳造となりますが、王都で武器を大量に作る訳にはいきません」

「まあそうだな」

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