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王妃さんと婚約者候補のお茶会はひたすら面倒だよぉ

「オルクスが迷惑を掛けたわね。わたくしから良く注意しておいたわ。これでよろしいわね?」

「王妃殿下のお手を煩わせてしまい、申し訳ございませんでした。わたくしの力不足をお詫びし、今後この様な事の無い様に心掛け致します」

(そりゃね、王様だの王太子様だのは忙しくて、あの与太郎を直接教育してるのは選ばれた家庭教師だってのは分かってるよ。勉強だけじゃなくて誠実さってのを教えてやって欲しいね。立場上、謝らないといけないから茶番にお付き合いしてやるけど、たかが十代前半の娘っこにもたっぷりと責任があるみたいな考え方は本当に気味(きび)が悪いよ)


 王妃様と王子さんの婚約者候補のお茶会は、王妃さんの登場までダンマリでガーデンテーブルを囲んで待ち、やって来た王妃さんにもう良いわと言われるまで筋力と姿勢の美しさを試されるカーテシー大会から始まった。

 やっと座れたと思ったら、王妃さんを褒めて庭園の花を褒めてご陽気を褒めて茶器を褒めて茶葉を褒めてお菓子を褒めて、兎に角「素敵ですわ」「素晴らしいですわ」と連呼した後、順番に改めてのご挨拶と各自の近況を発表。で、やっと多少気を抜いても良いかなって雰囲気になったと思ったら、王子さんに図書館で詰られた事を持ち出されて、あたしが王妃さんに謝罪して話が始まるってんだからおめでてぇ事で。


 いやね、分かるよ。王妃さんが無闇矢鱈と目下の人間に謝っちゃあいけないって事は。でもさ、悪いのは王子さんだから、わざわざ話題に出してあたしを謝らせるのはいただけない。結局の所、王子さんが勘違いで瑕疵の無い令嬢捕まえて、頓痴気(とんちき)な事をしゃあがったけれど『ちゃんと言い聞かせるという誠意を見せましたよ。ここまでしたのだからこれで手打ちです』という体裁を整えたって所を、他の候補者にご披露したってぇこった。

 まだるっこしいのは嫌いだし、悪かったらすっぱり謝るってのが筋だよ。だからあたしはこのやり口も考え方も嫌いだね。大人だから黙って合わせるけどさ。


「ウィスタリア様は殿下との交流を余りお持ちにならないから、誤解されてしまうのではないかしら?」

「こちらの教室にお顔を全く出して下さいませんので、わたくし達も寂しゅうございますわ」

「あらあら、ウィスはオルクスが苦手なのかしら?」

「いえ、その様な事はございません。学園では課題などで手一杯ですし、放課後は王妃殿下にもお伝えしておりますが、ユースティティア家の慈善事業を行なっておりますので、慣れるまでは多くの物事を抱えない様にしております」

(やだよ、あんなぞろっぺぇ連は。時間は有限なんだ。幾らユーさんが優秀だったからって、ある程度の復習をしないと覚えた事だって抜けていくし、細工やら彫金やらやりたい事はいっぱいあるんだ)


「そうなのですか?お忙しいと聞いておりますが、城下町の商会に出入りしていらっしゃる姿を見かけた方もいらっしゃるとか」

「忙しくても、せっかく同じ学園に通っておりますもの。朝や放課後に少しでもお話し出来れば、ウィスタリア様のご様子も伺えて嬉しいと思いますわ」

「わたくしは婚約者候補として、生徒の方々の相談に乗ったりしているのですが、ウィスタリア様はその時間がお取りになれない様子ですのね。でも、ウィスタリア様に相談したいという声も結構聞きますのよ」

「学園は様々な立場の生徒が交流する事が推奨されておりますわね。優秀なウィスタリア様ならお忙しくてもお時間が取れますわよね」


 普段適当に誤魔化しているからか、王妃さんを追い風にエルトリーべお嬢さんとプリュネお嬢さんが不満を訴えて来た。結構ストレスが溜まってたんだねぇ。けれど、あたしにゃあ関係無い。王妃さんがうんうん頷いているけれど、つられたりしないよ。下手に頷いたら肯定したってぇ言ってくるに決まってるんだ。こすっからいよ。

 それにしても、王妃さんも王妃さんだ。爺様にお願いして交流やら何やらの時間を取らなくても良いってぇ約束を取り付けたご本人だってのに、お嬢さん方の言葉をただ聞いているだけってんだから人が悪い。許可はするけれど、それについての権利は自力で勝ち取りなって事なのかねえ。


「時間を作りたいのは山々なのですが、新しい事を初めて手探りな事も多く難儀しております。エルトリーべ様、プリュネ様のご活躍には心から頭の下がる思いでございます」

(どうせ王妃さんの許可の事も知ってるんだろうに、ご面倒さんな事をごちゃごちゃと。手前さんはきちんとやってるってぇなら、歳下に面倒をおっつけるんじゃないよ)


「あらあら、せっかく同じ立場のお嬢さん達が三人もいるのだから、揉めないで力を合わせて頑張って欲しいものね」


 うふふとか笑ってんじゃぁないよ。この婆様は。孫が他所さんのお嬢さん方に迷惑掛けてるんだから、首に縄ぁつけて()っ張ったってバチは当たんないだろうに。どっからどこまで実態を知っているかは知らないけれど、ご面倒さんも大概(てぇげぇ)にしていただけると、痛み銀山鼠取り感謝感激雨霰だ。


 王子さんとの交流は学園でとしてからこっち、一年半以上王妃さんには会って居なかったから、積もる話もあるでしょうと言われても、取り立てて話したい事も無い。商会やら慈善事業やらの伝えたい事は、爺様にお願いして必要な事だけを伝えて貰っていたから、そちらも何も無い。

 何とか捻り出したのが、東国から来た彫金師ってぇ事になっているあたしの仕事が上手くいっているってぇ事と、慈善施設がやっとトントンで運営出来る見込みが立った事、学園の先生方が頼りになるってぇ事ぐらい。


 そうやって話していると、エルさんとプリュさんのお二人は王妃さんと王太子妃さんと定期的にお茶会をしているって事が分かった。エルさん達はサボってばかりのあたしが婚約者として劣っていると貶しているってぇつもりなんだろうけれど、こちらとしてはありがたくって涙が出るよ。何が悲しくって一回り以上歳下の、青春真っ盛りで反抗期を拗らせている様な、王子さんの婚約者なんぞになりたいなんてオッソロシー事を願っていると思われているんだろうね。

 そりゃあね、何にも問題が無けりゃあ将来王様と王太子さんの後を継いで、国王になる王子さんと結婚すりゃあ国で一番高貴な女性である王妃になれるって事に憧れるお嬢さん方は多いだろうさ。なりたいよってんで「はいどうぞ」ってなれるもんでも無いし、その候補になるのだって本当に難しいのも分かるよ。けどねえ、あたしが来る前、ユーさんが十歳の時点で爺様がユーさんを候補者にするのを嫌がったってなお役目だよ?どう考えたってユースティティア家はその立場を欲しいと思っていないって事になるさね。

 考えなしに「お姫様(しめさま)になりたい」ってぇのは、可愛いお嬢ちゃんの言い分だよ。あたしゃあ嫌だね、どう考えたって面倒ごととそれで得られる満足感が釣り合わない。


 まっつぐに話せないきれーどこ御三方に合わせて、ユーさんの穏便な話し方で対応すれば、手前の口から出て来る言葉もむず痒い。何だか地味な嫌がらせを受けてる様な気分で、尻が落ち着かない。早いとこ終わらないかねえ。


「名残惜しいけれどそろそろお終いにいたしましょうか」


 王妃さんの言葉と同時に、後に控えていたお女中さん、じゃあなくて侍女さん方があたし達三人の前に綺麗な缶を置いた。


「王家に献上された今年初の紅茶をお分けするわね。次に会った時に感想を聞かせてくれると嬉しいわ」


 最早念仏みたいに口から漏れ出す自動ユーさんやり取り機能をフル活用し、モニャモニャと御三方のやり取りに参加している風を装いつつ、お終いって事は終わるって事だと思っていたけれど、お終いから始まるながっぱなしなんてぇもんがあるんだねえ。お終いとは果たして何なのか?こりゃああれかい、先生さんの話す哲学ってぇやつかい。

 

 で、今度はこちらから手土産を渡す。はいどうぞで帰れると思ったら、みんなの目の前で開けて、あれこれ話す作業もあったんだねぇ。

 エルさんからは枕元に置ける眩しすぎない魔法の光を発するランプ、プリュさんからは辺境で取れる希少な動物から作った香水、これらの来歴やら何やらをモニャモニャと喋る。本当にね、お終いとは何なのか。

 とはいえ、あたしもちゃんと用意して来たんだよ。「これお土産です、はいどうぞ」「まあ、ありがとう」で終わると思って、いつ出すのかなと思ったら、真打トリでございとなっちまった。


 王妃さんが好きだと聞いていたスノードロップを組み合わせたやや大きめの銀製のブローチ。留金も着けたのでヘアピンを使えば髪留めにもなるし、チェーンを通せば大振りのネックレスになる。いやぁ、楽しかったね。そりゃもう楽しかった。お茶会が決まって直ぐに作り始めて、王妃さんの目ぇの色に合わせて瑠璃色の小さなラピスラズリを幾つか取り寄せて、朝露をイメージして配置。良い仕事したよ、あたしゃあ。


「まあまあまあ」


 そっからまた、念仏モニャモニャが始まって、はっつけた様な微笑みで対応していたんだけれど、最後に王妃さんがぶっ放した言葉で顔が引き攣ったのを感じた。


「ウィスの見つけて来た職人に実際会ってみたいわ」


 ああ、サヨウデゴザイマスカ。これは予想してなかったよ。職人なんざぁ、お偉いさんからすれば下人だよ。間に何人も人を挟んであれこれ指示して、気に入らなけりゃあ首があれしてこれするみたいなもんだと理解していたよ。ブローチだって、自信作ではあるものの好みって奴があるから気に入って貰えなきゃあ、そうですかってんで宜しければ次はお好みのデザインをお聞かせ下さいとか言って、お茶ぁ濁してお土産の義務は果たしたよってぇ事にしようと思っていたんだけれどね。

 なまじっかあたしの職人魂に()ぃ点いちまったばっかりに、気合を入れすぎた。でもねえ、納得のいかないもん作る訳にはいかないし、ユーさん家にいる職人が家紋の剣帯飾りを作っているのが噂になっているのに、それを出し惜しみしたってぇ思われるのも癪だ。


「殿下のお言葉、祖父に伝えます」

「そうねえ、出来るだけ早く良い返事をいただきたいものね」


 それでもあたしが最後まで微笑みを崩さなかったのを、帰りの馬車の中でエピ嬢ちゃんが褒めてくれたので、ちょっと涙目になったけれど、大人の余裕で「大丈夫」と返した。

 にも関わらず、失礼な青少年キルさんが「シオン様は結果を考えずに贈り物を作られていたのですか?私ですら簡単に予想出来る事でしたのに?」などとほざきゃあがって、だったらそう思った時に言ったら良いだろうと返したら「申し上げましたよ。余りにも手を掛けた品は目立ち過ぎませんか?と」。あれだね、格好つける物言いをするお年頃ってやつだね。全く。

◇◆少しアレな言葉説明◆◇


おめでてぇ;考えが甘い。(逆説的な言い方として使用)

頓痴気;とんま。間抜け。

こすっからい;ずるい。悪賢い。

おっつける;押し付ける。

きれーどこ;着飾った女性達。美人達。綺麗どころ。

ながっぱなし;長話。長い時間話す事。だらだらとつまらない話をする事。

真打;噺家、講談師の最も高い身分。

トリ;寄席(興業小屋)の最後の出番を務める者。


◇おまけ;『おめでたい』の事◇

「こいつはおめでたいねぇ」と言われた時、「こいつ」が何であるかで意味が変わります。

①めでたいの丁寧な言い方。祝い事。慶次の挨拶。「結婚が決まったって?コイツァおめでたいねぇ」

②お人好しな人。馬鹿正直な人。愚かな人。「全くお前さんはおめでたいねぇ」

③考え方が甘い。楽観的。「そんな、おめえ、おめでてぇこって大丈夫かい?」

「本当にお前さんはおめでたいねぇ」ときたら、「あけまして」と返すのが与太郎スタイル。

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