話は持ち込み易い所に行くもんで
修道院やらでつまみ細工を教えると、次に言われるのが道具を持たせて欲しいってぇ事で、これはまあ予想していたんだけれど、最初に用意した時もキルさんに「売り飛ばされるからダメです」ときつーく言われたので断っていた。いたんだけれど、熱心であればある程手元に道具を置いて手が空いている時に作業したいって事になる。
そうなると施設の代表者に預けるってぇ事になるけれど、万が一不心得者がいて丸っと全部盗まれた場合、誰が責任を取るのかってえ問題になるから引き受けてくれないと。
「作業所を作れば良いだろう?」
渋い笑顔であっさりと言う爺様。
「良いか、儂の名前で商会を作ったじゃろう?そこの空き部屋を作業所にして、作りたい者がそこに通えば良い」
「爺様の商会は城下町郊外の軍の鍛錬場の傍に建てたんじゃなかったでしたかねぇ?」
「そうじゃ。私的流用では無いぞ。きちんと土地使用料を払って、建物はユースティティア家で費用を出したからな。軌道に乗ったら城下の店舗を借りるつもりじゃ。何と言っても儂の管轄地の中じゃから、忍び込もうという豪胆な泥棒はおらんよ」
でしょうね。得意気な爺様、渋可愛い。
「掛かった費用は経費として記録しておくから、売り上げから返却していくように」
「え?え、ええ、お爺様、どうぞよろしくお願い致します」
「おや、今日はあのおかしな話し方はせんのか?」
「これが本来の話し方ですわ」
「ほほう、それはそれは」
ニヤニヤ笑わないで欲しいねぇ。普通だったら気ぃ抜くとだらしくなくなるんだろうけれど、こちとら逆なんだよぉ。ユーさんの日常が染み付いてるんだから、あたしがあたしだってぇ事を主張するってぇ事を意識して話さないと、ご丁寧に変換されて出て来るんだからね。
「不満は無いのか?シオンはウィスの為に尽力してくれると言うのに、費用を自分持ちでで良いのか?」
「勿論です。わたくしは自分の作品に自信がございますし、こちらで好まれる物は分かりませんが、本来のすべき事以外をする事について、きちんと責任を取るべきだと考えております。お爺様もわたくしが作った剣帯飾りを気に入ってくださったのでは?」
(そこはそれ、下手に全抱えされちまったら、あたしの商品の権利もユーさん家のもんになっちまうよ。あちこちの店を覗いて、好まれそうなデザインは分かったから、後はエルトリアの職人がやっていない要素を加えれば良い。剣帯飾りだって、気に入らないもんを爺様が身につけるとは思えないし、ちゃんと目鼻はついてるよ)
「うむ、あれは友人達に羨ましがられたぞ。家紋は好まれるが、そこに草花の飾りが入っておるのが良いと」
「気に入っていただき嬉しゅうございます」
「それでな、仕事をとってきてやったぞ。同じ大きさと形でデザインはこの三種類。これをそうだな、先ずは二つずつ作れ。順番は、デザインの重なっている上からじゃ」
「承知致しました。然程時間は掛からないかと思いますが、仕上がり次第順次お渡し致します」
「宜しく頼む。ウィスとしてやるべき事が第一優先だぞ」
「はい」
店もなければ直接の宣伝手段も持たないあたしの代わりに、爺様が仕事を取って来てくれるとはねぇ。ユーさんさんは遠慮して弱みを見せなかったけれど、爺様に頓狂な状況を分かって貰うために作ったもんが看板になって注文が入るなんてしめこの兎だよ。クチコミ程効果的なもんは無いからねえ。
朝は朝練、昼間は通学、放課後は軍でこっそり細工もんを作ったり、孤児院やらに顔を出したり、夕ご飯の後は部屋で作業をする生活をしていたら、同級生のお嬢さん方が家にやって来た。
進級前に爺様にお願いして、見事王子さん達と別のクラスになった上に、偶然なのか爺様が気を利かせてくれたのか知らないけれど、婚約者候補のお二人さんとも別のクラスになれた。
一年の時にクラスも違うのに、王子さん連中にアザレさんがぺったりだとあたしに苦情が持ち込まれていたんだけれど延々のらりくらりと躱していたからか、矛先がだんだん婚約者候補のお二人さんに変わって行き、新年度になって完全に苦情受付窓口として休み時間やら放課後に文句を言うお嬢さん方が殺到しているとの事。
元を正せば王家が望んだのはウィスタリアとの婚約で、学園で他の生徒と関わったりする中で二人の仲に悪い変化が訪れないとも限らないと爺様が異議を申し立てなければ、お二人さんが婚約者候補にならなかったのだから、筆頭婚約者候補として、学園の風紀を乱すアザレさんを諌め、殿下達に諫言するべきである。
また、学友として側近として殿下の側にいる坊ちゃん方に意見出来るのは、王家に認められており且つ側近の一人を兄とするウィスタリアである。入学して一年間は初年度という事で許せたが、新入生も入って来た中で義務を果たさないのであれば学園の自治が乱れるという事位理解して然るべき。即日動いて沈静化に努めろ。
と言われてもねえ。
あたしゃあ知らないよぉ。正直、そんなに拙い状況かい?13歳の小娘捕まえて、下は12歳から上は18歳のお嬢さん方が『何とかしろー何とかしろー』って、手前さんで何とかするなり、諦めるなり、足掻くなりすればぁいいじゃないか。
そりゃあね、ユーさんの知識で知ってはいるよ。お嬢さん方にはお嬢さん方の立場があって、王家に忠実で政治には中立な爺様んとこの娘であるウィスタリアが事を収めるべきってぇ事はね。けどねぇ、実際やるかってぇ事になるかといえば話は別だ。
ユーさんはやった。それはもう頑張って頑張って、最後に梯子を外された。別にこちらのお嬢さん方が卑怯だとは思わない。ユーさんの基準でいけば、そういう権謀術数も貴族の実力のうちで、ここはそういう世界だから。其の伝で言うと、ウィスタリアであるあたしに話を持って来るのは当然っちゃぁ当然の話だよ。梯子を外されて落っこちまったのはユーさんの手落ち、貴族のお嬢さんなら冷静に踏みとどまって最善の手を打つべきだったってね。
けどね、それはつまりウィスタリアが関わらない中立を選んだって良いって事になるよねぇ?立場が強いから諌めて欲しい?立場が強いからこそ、中立な立場を保ってどちらかに片寄らないようにするんだよ。王家に認められている?王様の孫であるオルクスさんとそのお仲間がいるじゃぁないか。最初に動くべきはあっちだよね。その連中が動かないからどうにかして欲しい?そんなの知らないよ。あたしゃあ親でも先生でも無いんだ。先ずは親にでも訴えて、正攻法で攻めれば良いじゃぁないか。学園内の問題は将来の為に学生で自治をするべきだ?それこそ先生の出番だよねぇ。国の運営する学校だよ?税金で食ってるんだから、学生が自治をするのであっても、それを教え導くのが先生ってもんだろうさ。
さて、何を言っても聞かなそうなお嬢さん方に、幾ら相談してもウィスタリアはあてにならない、これで六段目とご納得いただくには何と言ってお帰りいただくのが良いかねぇ。
◇◆少しアレな言葉説明◆◇
しめこの兎;しめた、うまくやった。うまくいったの意味で使用。
六段目;これでおしまい。これっきり。




