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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

家紋ホラー集

幻の声

作者: 家紋 武範

 私はホラー作品を書く。

 しかし霊の存在を否定する。

 だから本来は、私はこの話を否定しなければならないのかもしれない。



 幻の声──。

 魂がもしもあるならば、それは声を発すれるだろうか?

 その答えはノーだろう。

 声、音がなぜ聞こえる?

 物理的に空気を振動させるからだ。

 物理的な力を持つものでしかそれはできない。

 霊体には念動力があるなどと、考えることを諦めたものの言い分だ。


 死んだら簡単にそれが身につく?

 恨みがある、心残りのあるものにはできる?

 生きているうちにはできないのに死んだらできるのか?

 そんなことできっこない。


 霊の声が入ったメディアというのも存在する。

 曲の途中で全く関係のない音声が流れるのだ。

 さまざまなアーティストの市販されたメディアの中に幽霊の声が入っている。

 若い頃、それを聞いてゾッとしたこともあったが、現代の検証によるとほとんどが説明がつくらしい。


 人は説明のつかないものを怪異によるものと、ついそちらに思考を向けがちだが、きっちりと検証すれば説明がつくはずだ。

 疑う心、暗闇に(ゆうれい)を見るだ。




 しかしこの話はどうだろう。

 実際に私が体験した話ではない。

 いわゆる「友人から聞いた」という眉唾なものだ。

 だが、本当にあった。あって欲しいと願う話だ。

 少しばかり耳を傾けて欲しい。


 ◇


 当時、中学卒業ギリギリにこの事件は起きた。

 ガキだった我々は、背伸びをして大人になりたがった。

 ケンカ、タバコ、酒、セックス。

 そんなことをすれば大人だと勘違いしていたんだ。

 今になってみれば、大人「ぽい」、大人「らしい」ことをしていただけ。ただのどうしようもない手をつけられないガキだっただけだ。


 私の友人二人はオートバイに2ケツして夜の山道を走っていた。当然無免許だ。

 人家のない、かろうじて舗装された山道だった。

 後部座席に乗っていたのをAとしよう。運転していたのはB。

 卒業間近だったから冬だ。路面に雪があったかまでは分からないが、左右の畑や山肌には雪があったのだろう。


 Bの運転するオートバイは、カーブを曲がりきれず転倒。二人は投げ出され車体は田んぼの中へ落ちた。

 Bはそのまま道路に身を滑らせて気絶してしまった。冬の山だ。周りには雪。当然寒い。

 そこでAが呼びかけたらしい。


 A「おい、おい、B? Bよ」

 B「──やべぇ。やっちまった」


 A「大丈夫か? 寝たら死んじまうぞ」

 B「うあー。寒ぃ。んだな。やべぇ」


 A「動けっか?」

 B「……いや。痛ぇ。足折れてるかもしんねぇ」


 A「ケケ。バーカ」

 B「うっせ。おめぇはどうなの」


 A「動けねぇ」

 B「人のごどいえねーべ」


 A「んだ」


 しばらく雑談。卒業式に出れないかもしれないなどと話したらしい。

 その間、Bは痛い体を我慢して話し続けた。

 しかし後ろを見れない。体をひねることが痛くてできないのだ。


 しばらくして、新聞配達か誰かが通りかかって、慌てて救急車と警察に電話すると走り去った。携帯電話のない時代だ。しばらく二人は放置。そのうちサイレンが聞こえてホッとした。


 救急隊員に抱えられてBはAのほうに目をやる。そこにはブルーシートを被せようとしている警官。だがはっきりと見えた。


 ──Aの体は車体から投げ出されたときに、電信柱に頭を打ちつけ、頭部は砕け、辺りに血や脳が飛び散っており、雪は赤やオレンジに染まっていた。

 ブルーシートから覗いていたのは頭の大部分を失い、下顎だけのご遺体。

 Bは混乱して激しく暴れ、救急隊員を困らせたようだった。



 後日、私は学生服に着替え、お葬式というものを体験した。親に言われたとおり「お顔を見せてください」とAのご親族に頭を下げると、彼の姉は「──顔なんてもうないのに……」と言って泣き出したことを憶えている。

 そこには真っ白い包帯をグルグルに巻かれ、かろうじて頭部があった場所(・・)が作られていたAのご遺体。私も小学校からの遊び相手だったAへの思いが込み上げて泣いてしまった。

 男が泣くことなんてかっこ悪いはずなのに、止めることができなかった。


 ◇



 直接Bから聞いた話。

 それは故人を利用したホラー話だったのだろうか?

 それともBの幻聴か?


 下顎だけになった人間が話せるだろうか?

 そもそも脳がなくなった人間が──。


 しかし、AはBが冬の山道で寝てしまい、凍死しないように話し掛けた。Bを助けたのだ。と、そう思いたい。



 幽霊はいない。と私は思う。

 今それについて論議はしない。


 しかしだ。

 幽霊がいないことを証明することも──。


 ──また、誰もすることができないのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)怪談話でしたね。でも噺としてすごく緻密に「異常に不思議で異常に不気味」な事が説かれていました。なんにしても起きた出来事に関しては説明が難しいから、起きた事をそのまま説明するしかない。…
[良い点] 見事にゾワッとしました。 私も不思議なものはいくつか見たり聞いたりしたことがありますが、霊の存在は信じません。 Bさんの話も、Bさん自身の混乱した意識が『聞いた』『会話した』と思い込ん…
[良い点] 悲しいけど怖い話でした。 事故で、“自分はもうダメだけど“と魂だけになっても助けようとしたんでしょうね……なんとも言いようがない気持ちになりました。 すらすらと読めるストーリーでした!
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