母の手作り人形
陛下、御礼に参りました。
李泌ですが、よい人物を選んでいただき感謝します。
東宮に行きますと、李泌が待っていました。
書面を渡されましたが、皇太子の心得が書かれていました。
皇太子になったことを、皆、祝ってはくれますが、心構えを差し示してくれたのはあの者だけです。
師匠と呼んでもよい者だと思いましたが、侍読には若輩者だから、荷が重いと言っています。
李泌は、張説を知っているようです。
張説は亡くなって大分たちますが?
ああ、あの者が九才の時、優秀との評判の童がいるとのことだったので、朝廷に呼んで、張説に試してもらったのだ。
張説は、
陛下は奇才を手に入れられました。
とのことであった。
それが李泌だ。
張説はその年の暮れに、亡くなった。
最後にいい仕事をしてくれた。
李泌は、それから朝廷にいる。
張九齢が大切にしてな、小友と呼んでいた。
侍読が嫌なら、学友にでもなってもらえ。
はい。
あんなに若くして、知識豊かな人物は初めてです。
出来るだけ近くにいて、知識を吸収したいです。
そなたから、そんな言葉が聞けるとはな。
すでに、いい影響を与えてくれている。
良いことだ。
陛下、話は変わりますが、長安から洛陽までの道に、行宮を造らせているそうですね。
洛陽へは食料のために、前のようには行かなくていいのです。
必要でしょうか?
あまり深く追及しないでくれ。
きまりが悪い。
天女と行くことがあるかもと思ってな。
この話はここまで。
わかりました。
陛下、では失礼します。
丹丹、入っていいかな?
いいよ、兄上。
箱、さわってもいいかな?
い~い~よ~
やって来ても、丹丹に用事があるわけじゃないんだ。
他人が見たら、ビックリだよ。
丹丹、からかうのは止めてくれないか。
こんな姿を見せられるのは、丹丹だけだ。
俶は箱を開け、丹丹の人形を大切そうに、取り出した。
私は、この人形を作っているはあ上を覚えている。
丹丹が起きていじると危ないからと、起きるころをみはからって、片付けていた。
だから、丹丹はにいにいみたいに愛着がないのかな?
でも、お人形遊びにこの人形を使わなくてよかった。
にいにいが、緑児にもっと大きなお人形を作ってもらっておいてくれたから、皆と同じだった。
だから、よかったと思った。
はあ上のお人形は、皆の中に置いたら貧相だったと思う。
皆に、はあ上が非難されているような気がしたと思うから。
にいにいは、貧弱なのはわかっていたよ。
だって、はあ上が貧乏だった時に持ってた人形のソックリさんだからね。
ただ、この人形には、だれにも触って欲しくなかったんだ。
見られるのも嫌だったんだ。
はあ上が作った人形だ。
前には、はあ上の匂いがしてた。
でも、もう匂いはわからない。
こうやって、少しずつ消えていくんだね、思い出が。
寂しいよ。
にいにい、人形に鼻を当ててたら、見た人、変に思うよ。
別にいいよ。
ねえ、話は変わるけど、ちい上、この頃うれしそうだね。
李泌と気が合ったみたいだね。
張九齢の真似して、李泌を“小友”と呼んでるって。
歩きながら、楽しそうに話してるって。
寝る時も話ができるように、父上の寝台の側に李泌の寝台を置いているって。
父上のためにも喜ばなければいけないよ。
李泌は今まで知っている人とは違う。
いい影響を父上に与えているのだと思うよ。
はあ上が言っていたけど、父上、よく大学サボッテ蓮と遊んでばかりいたって。
だから、勉強ができないからと、ガッカリしないで、って。
私と遊ぶことを優先して、本来ならば学ばなければならない時に学んでないんだ。
だから、今遅れを取り戻そうとしているんだ。
父上のためにも喜んであげようよ。
わかった?
うん。
でも、ちょっと淋しいね。
もう、前みたいに三人で遊べないんだね。
ねえ、にいにい、何人、妃を娶るの?
そんなのわからないよ。
ねえ、丹丹に一人選ばせてくれないかな?
丹丹の姉上用に。
多分、いいんじゃないかな。
じゃ、丹丹、にいにいの妃選び、一人もらったからね。
にいにい、どんな人が好き?
そんなの、わからないよ。
だって、婚姻は親が決めるもの。
この人が好きといっても、親が賛成とは限らない。
はあ上は、何て言っていた。
はあ上は、笑顔がきれいな人って。
はあ上は、媚びた笑顔が嫌いだって。
下心を持って笑う人はイヤって。
にいにい、丹丹もはあ上がそんな事を言ったのを覚えてる。
はあ上、にいにいがいつも笑っているって、褒めてたね。
丹丹、にいにいのために、笑顔のきれいな人選ぶね。
丹丹、はあ上が言った意味、よくわかるんだ。
だから、探すよ。
宮中にいないことは確か。
だって宮中は、作り笑いの名人だらけ。
委せてね。