李泌・登場
陛下、お願いがあります。
私の名前ですが、王扁に與です。
普通の皇子の時はいい名前と喜んでいたのですが、皇太子となると“王を与える”の意味が落ち着かないのです。
そんなことができるのは、皇帝のみです。
皇太子の名前なのに、皇帝のような意味合いを感じます。
変えていただきたいのですが、お願いできますか?
そうか?
そなたは、そう感じるのか?
わかった。
すぐというわけにはイカンが考えておこう。
やはり、朕はいい名前をつけたい。
決めたら、そなたも意見を言ってくれ。
何度も変えるのはよくない。
そなた、今からでも東宮に行って、宮殿を見てくるとよい。
皇太子が住まなくなって、十年以上だ。
改築させている。
行って、そなたの意見も反映させたらいい。
はい、ありがとうございます。
でも、行くにしても、一人ではなく、俶も一緒に行こうと思います。
皇太子だ。
宮女も、宦官も倍以上に増えているから、指示だけして、そなたは身一ツで動けばよい。
はい、ありがとうございます。
でも、子供と一緒に行きたいのです。
わかった、わかった。
したいようにすればいい。
少しすれば、李泌に訪ねるようにいう。
では、失礼します。
ちい上、引っ越しなの。
そうだよ。
もう帰ってこないから、そのつもりで。
じゃ、ふうを連れて行かなきゃ。
また、馬車の後に繋いで行こう。
今度の屋敷は東宮だから、広いぞ。
馬場もちゃんとある。
ただ、みんなの馬もいるから、今までのようにはいかんぞ。
丹丹も覚悟しときなさい。
ふうに言いきかせるのだ。
わかったな?
ブウ。
気持ちはわかるが、丹丹ももう大人だ。
仕来たりに沿うように、しなければな。
丹丹、困ったことはにいにいに言うんだよ。
相談に乗るからね。
丹丹、これからは、父上と呼ぶようにしようよ。
もう大きくなったんだから。
だって、ちい上、丹丹抱いたら、丹丹の足が床に付きそうになってる。
丹丹だって、わかっているんだろう。
もう、父上に、抱いてもらう年ではなくなったんだよ。
東宮に行くのをきっかけにして、年齢相応に二人とも変わろうよ。
にいにいが見て、丹丹が変だと思ったら、言って。
にいにいのことも、丹丹が見て、変に見えたら注意するから。
さあ、ふうを連れて出発だ。
父上、偉くなったんだ。
皇太子なんだ。
父上、おめでとうございます。
さあ、丹丹も
ちい上、おめでとうございます。
二人とも、祝いの言葉、ありがとう。
葦妃にも、東宮に行くように
と、呂に言付けた。
ふうを繋いだ馬車が延喜門を通った。
あっ、ここ象がいる禁苑に行く道だ。
そうだな。
最近は行ってないな。
俶が学問やら馬術、武術で忙しくて、行ってないな。
行きたければ、言いなさい。
丹丹、行きたい。
二人で、相談して行ったらいい。
呂と緑児と一緒だと、安心だ。
父上は学問しなければならないのだ。
前のようには、一緒に遊べない。
さあ、東宮だ。
重明門を通って、喜福門を通って、嘉徳門を通って、後、馬車でいってもいいけど、降りて、様子を見てみよう。
警護でない人が立って、おじきしてるよ。
近寄ってきた。
皇太子就任、おめでとうございます。
李泌と申します。
陛下から、侍読を申しつかりましたが、若輩者です。
自信をもって、お受け出来ません。
ただ、少しでもお役に立てたらと、思います。
包みを差しだした。
呂が受け取った。
殿下、失礼します。
あの人、だあれ?
父上の先生。
先生?
だって、兄上と変わらない。
俶より、四才年上だ。
張説も認めたというから優秀なんだな。
二人が同時に言った。
すご~い
一ト月後、七月、玄宗は宣政殿に出御した。
皇太子の柵立の儀である。
昔から、太子は、天子の乗り物である輅に乗って殿門に着くようになっていた。
だが、太子は輅に乗らずに、歩いて宮殿に入った。
式が終り、玄宗は皇太子に聞いた。
どうして、輅に乗らなかったのだ?
慶兄上が式に参列して下さっています。
兄上は、本当は人前に出たくなかったと、思います。
兄上は歩いて宮殿に入るのです。
だから、私も同じようにしただけです。
・・そなたが皇太子で良かった。
声を詰まらせながら、玄宗は言った。