忠王、皇太子となる
陛下、皇太子にしてくださってありがとうございます。
おお、忠王か、やっと約束を果たせた。
そなた、式まで一月近くある。
東宮殿に早く引っ越しなさい。
式には、東宮から出立するようにしなければな。
宣政殿でおこなう予定だ。
早く引っ越しして、宮殿での生活に慣れなければな。
父上、十王宅を出るのですか?
皇太子は、十王宅にいたのですよ。
武恵妃がいなくなったから、宮殿にいても命の心配はない。
皇太子の命が心配で外に出していたのだ。
だから、居場所は公にしなかった。
早く引っ越しなさい。
俶に、早く宮殿の生活に慣れさせたいのだ。
それに、そなたが十王宅をでると、一人、十王宅にはいることができる。
皇太子の屋敷も空いているから、改築しなければな。
そなたたちが、宮殿にいるようになると、朕も、大明宮に足が向くようになる。
武恵妃が亡くなって、心の重しがとれたような気がする。
玉環のことを、どういう形で、朕のもとに呼び寄せようか、考えていたのだが、武恵妃が亡くなってくれたので、障害が一ツなくなった。
もし、強行したら、皇后待遇の女子だから、八つ当たりして玉環を苛めるかも知れないからな。
なんせ、武后様と同じ血が流れているからな。
陛下、息子だからといって、話があからさまですよ。
はっは、実は、そなたに頼みたいことがあってな。
言いにくい話なので、ちょっとふざけたのだ。
そなた、俶を大切に思っているだろう。
係やたんと比べたら、同じか?
朕もそなたも、同じ父親、腹を割って話そう。
他の二人には悪いと思いますが、俶は初めての子です。
思い入れがやっぱり違います。
それを聞いて、話しやすくなった。
そなたの俶が、朕にとっての慶王なのだ。
そなたほどではなかったが、やっぱり手をかけた。
あの子が産まれた時、朕は、皇太子でもなく、ただの皇子だった。
そなたは、朕が皇太子の時の子だ。
だから、あの子には、ただの皇子としてという意味で、
そなたは、私の跡継ぎだ。
と、よく言っていた。
そんなあの子が病にかかった。
医者に、
多分、子が出来ないだろう。
と、言われた時、可哀想で可哀想で涙が止まらなかった。
そして、皇帝になった時、皇太子を決めなければならなかった。
朕は、皇帝だ。
子が出来ないかも知れない皇子を皇太子には出来ない。
だから、次子を皇太子とした。
それまで、素直ないい子だったあの子が、嘘をつかれた、騙された、と感じたのだろう。
変わったのだ。
玄宗は涙を流していた。
何事にも、投げやりになった。
朕にいつも仏頂面を見せた。
周りは、
瑛の母親、趙麗妃を朕がもっとも寵愛しているから、瑛が皇太子になった。
と言った。
そんなことを言われて、慶王の母親、劉華妃は肩身の狭い思いをしたと思う。
だから、華妃には、第六子えん第十二子ついを産ませた。
華妃を寵愛しているという、証しにだ。
趙麗妃には瑛だけだ。
二人の弟を産ませて良かったと、思う。
父親に裏切られたと思った慶王は、禁苑でよく狩りをして、うさ晴らしをするようなった。
禁苑には、漢の時代から今と同じように、貢がれた珍しい獣などを放している。
その獣に、あの子は襲われたのだ。
従者たちが、獣に襲いかかり慶王から自分たちに注意をそらし、あの子を救った。
命は助かった。
だが、あの子の顔には襲われた痕が残った。
あの子は、もう外には出ない。
人には、会いたがらない。
自分の顔を恥ているのだ。
だが、二人の弟には心を開いている。
兄として、可愛がっている。
だから、普通でいられるのだ。
朕は自分を褒めたいくらいだ。
二人の弟を産んだことをな。
長々と話して、聞きずらかったと思う。
すまなかったな。
父上、慶兄上のことを俶に置き代えて想像したら、身も心も震えました。
父上の哀しみが伝わりました。
朕は兄弟たちが、亡くなった時、太子位を追贈している。
寧王は皇太子を経験しているので、亡くなったら、帝位を追贈したいと思っている。
実は、慶王にも贈りたいと思っている。
だが、あの子が亡くなった時、朕が死んでいなかったら、そなたに太子位を贈ってもらいたいのだ。
そして、もしできるなら、俶が慶王に帝位を贈るよう、頼みたいのだがな。
それができれば、朕は、慶王を騙したことにならないだろう?
そなたが、皇太子になったから頼めることだ。
それと、二年前開元二十四年、慶王を司徒とした。
そなたは、開元二十年に司徒になったであろう。
そなたは皇太子になる。
だから、慶王には、皇子として高位と考えられる地位を授けたかったのだ。
気を悪くせんといてくれ。
一言、言っておきたくてな。
それと、朕の張説である、そなたの侍読。
決めたぞ。
ただ、ちょっと若いのだ。
前から、そのつもりでいたのだが、大きくなるのを待っていたのだ。
李泌、その者の名前だ。
早く東宮に住んで、来てもらえ。
侍読なんだから、なんでも相談したらいい。
張説も褒めていたし、張九齢も可愛がっていた。
ただ年齢がちょっとな。
そなたより、十一才若いのだ。
二十八才だな。
では李泌は十七才だ。
慣例にとらわれなくていいから。
なにごとも、二人で相談して決めなさい。
いい子なんだ。