三人の口技
それからしばらく後、武恵妃の憔悴した様子が、噂に上がるようになった。
見舞いに行ってこよう。
皇后待遇の女子だからな。
玄宗は高力士をみて、ニヤリとした。
武恵妃、そなた、どうした?
体調が悪いと聞いたが、太医に見せたのか。
季節の変わり目です。
ただの風邪です。
そうか、随分やつれて見えるぞ。
そうですか?
陛下に、そんなふうに言われると、辛いです。
陛下には、
元気だなあ、そなたは何時までも変わらんなあ。
会った時のままだ。
と、いつものように、おっしゃっていただきたいです。
じゃ、言おうか?
てんごを言っただけです。
自分でもわかっております。
その時、隣の部屋から、小さな声で会話がはじまった。
誰が私たちを陥れたのだ?
わかりません。
でも、私たちの失脚で、得をする人物ではないでしょうか?
皇太子位に就くのは、誰なのか?
別の声が、割って入った。
そんなの、わかっているではありませんか?
見ると、武恵妃が、恐怖の表情のまま固まっている。
今、なにか聞こえませんでしたか?
なにか、聞こえたのか?
朕には、なにも聞こえなかったが。
そなたには、聞こえたのか?
いえ、なんでも、ありません。
最近、耳鳴りがひどいのです。
耳鳴りです。
変なこと言って、すみません。
陛下、陛下の三人の御子息が亡くなりました。
私は我がことの様に辛くてなりません。
三人の霊を慰めたく、お祀りしたいのですが、よろしいでしょうか?
それはいいことだが、当人の母親たちが、どう思うかなあ。
そりゃ、母親たちが許可したなら、朕はなにも言わない。
ありがとうございます。
朕は、もう行く。
よく養生するように。
朕に心配をかけないようにな。
側仕えに、世話を頼む 。
と、言っておく。
起き上がらなくていいから。
そなたは、体調が悪いのだ。
横になっていなさい。
早く良くなってくれ。
寿王が気をもむ。
朕のためにもな。
ありがとうございます。
陛下。
高力士、聞いたか?
やっぱり、巧いものだな。
口技の家系の者だと言うからな。
本当に、そっくりでございました。
あの口癖は瑤王様、
お三方がいつものように、話されているようでした。
あの三人、
主の仇討ちだと思ってやります。
と、言ってくれた。
いい主だったと、偲んでくれた。
十年、仕えたのだ。
芸人として、修行の十年を投げうったのだ。
何らかの償いを考えなければな。
事が終わったら、無不可に相談しよう。
陛下は、ぴったりの名を賜ったのですね。
私も、無不可はあの者に相応しい名だと思います。