皇太子失脚
開元二十五年(737年)
四月、右丞相・張九齢が左遷され、荊州長史になった。
監察御史・周子諒が予言書を証拠として、牛仙客の非才を糾弾したのである。
その糾弾に玄宗は怒り、周子諒を朝堂で杖刑にし、じょう州に流刑とした。
そして、長安からすぐ南東の藍田で殺させた。
李林甫が、玄宗に
周子諒を推薦したのは、張九齢です。
と、言った。
任命責任を問うたのである。
だから、荊州長史となったのである。
李林甫は、遂に目ざわりな張九齢を朝廷から追い出したのである。
李林甫は、心が放たれた気がした。
いつも、見られている気がしていたのである。
近くにいなくても、視線を感じていたのである
張九齢は、もう長安にはいない。
これでやっと思い通りにできると、思った。
李林甫は、さらに大胆になった。
同じ四月、李林甫の意を受け、咸宜公主のふ馬都尉・楊かいが、
皇太子・えい
鄂王・瑤
光王・きょ
太子妃の兄・薛しゅくの四人が陰謀を企んでいると、上奏した。
玄宗は、宰相を召し相談した。
李林甫は答えた。
これは、陛下の家事、家臣が預かることではありません。
玄宗は心を決めた。
皇太子・えい
鄂王・瑤
光王・きょは廃され、庶人に落とされた。
そして、長安城東の駅で、死を賜った。
三人、それぞれの妃の実家は貶められ、流刑となった。
玄宗は、高力士に
宮女への対応は、張九齢に使者として訪れた宮女がいいだろう。
武恵妃の腹心だな。
下の者にも睨みがきくだろうから、その者にしよう。
いずれにせよ、抜かりなくやるように、
と、言った。
それと、占い婆さんにもな。と、
玄宗は、教坊に出かけた。
一段高い場所から、練習風景を眺めながら、
準備は万端であろうな?
と、独り言を言った。
御意、
後ろの御簾から声がした。
そなたになら、安心して任せられる。
朕の無理難題を、いとも簡単に解決してくれる貴重な人材じゃ。
葦后および太平公主、排除の折り、力は見せてもらっておる。
そなたが、居てくれて良かった。
ちょっと聞いてみたいが、どうかな?
三人は、主に付き添っていて、今、おりません。
付いて行ったのか?
はい、長い付き合いですから。
よい方たちだと申しておりました。
わかっておる。
まあ、いずれ聞ける。
ご苦労であった。
やってほしいこと、必要な物、何でも、言いなさい。
はい、
それと、褒美、考えておくように。
はい。
じゃあ、
ちょっと、武恵妃の顔をのぞいてこよう。
皇太子位が空いて、寿王がやっと座れる、と勝手な想像をして大喜びだろう。
うれしそうな顔を見ておこう。
朕が会いに行くと、気持ちを抑えるのに苦労することだろう。
宮女の、朕に対する態度も見ておかねばな。
高力士の言葉が、どれほどの効果があったか、知りたい。
朕は、まるで間者だな。
武恵妃は、天女を手に入れて寿王の後押しをさせようと、朕好みの女人に仕立てようとしている。
まあ、天女はいずれ献上してもらうことになるがな。
朕が歓ぶように、しっかりと指導を頼む。
武恵妃も、朕が音楽を嗜まない妃に不満を持っていたのを知っていたのだな。
頼みもしないのに、頑張っている。
そなたの欲の実現のために、な。