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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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呼び名・はあ上

子供たちを見に上陽宮に行ってくる。

二人共、よく行きますね。

なにか楽しいことが有るのですか?

あそこで、馬を飼っているのだ。

だからだ。



忠王は、虹橋をわたり二人を見た。

俶は、新しい馬に鞍も馬銜も付けずに遊ばせていた。

ふうと同じようにさせていたのだ。

軍部で指導者が乗って演説するような階段の付いた台に、二人は並んで座っていた。

それぞれ、手に半分のリンゴをもってかじっていた。

二人で仲良く分けたのか?

声をかけながら、近づいて行った。

見ると、丹丹は、俶の二、三年前の衣を着ていた。

へ、へ、見つかっちゃった。

半分のリンゴを噛りながら、丹丹は笑った。

王府では見ることのない、あっけらかんとした笑顔だった。

ちい上、丹丹を叱らないで。

横から、俶がまだ噛ってない半分のリンゴを、忠王に渡した。

手にしたリンゴに、忠王は大きくかぶり付いた。

怒ってないよ。

丹丹、好く似合っているよ。

杏が、今の二人を見たらきっと大悦びするだろう。

忠王には、杏の嬉しそうな顔が浮かんだ。

俶が言った。

丹丹がはあ上に似ていて良かった。

俶、はあ上を忘れずにすむ。

丹丹を抱き上げながら、忠王は、

そうだな、私も同じだ。

皇后様と杏を忘れずにすむ。

杏はこんな風な表情をして、大きくなっていったと、成長を知ることができる。

丹丹が笑っていれば、杏が悦ぶ。

俶、二人で丹丹を幸せにしような。

腕の中の丹丹がふうを呼んだ。

噛ったリンゴをふうに食べさせた。

ふう、リンゴが好きなの。

いつも、半分っこしてるの。

ちい上、見せてあげる。

台に戻して。

台の上に立った丹丹は、鞍も手綱も付けない馬に乗り、両腕を馬の首にまわし、顔をたてがみにうずめた。

手が首を軽くたたいた。

ふうがゆっくりと、歩きだした。

もう、乗れるんだな。

なんで、手綱を付けないんだ。

丹丹様は、鞍も手綱も付けたがらないのです。

いつでも、好きにさせたいと。

そうだな、丹丹の馬だ。

私たちの考えを押し付けるのは、あの子が嫌がる。

ちい上、丹丹、ふうと居る時、いい顔をしていると思いませんか?

俶、丹丹がふうと居る時、丹丹の顔を書きたくなります。

一瞬の表情に見とれます。

輝きを紙の上に移したくなります。

妹なのに、変かな。

気にしなくていい。

私だって、丹丹を見ていると、杏が子供だったであろう時を重ねて見てしまう。

丹丹を、母上は、お転婆なわがまま娘に育てたいと。

自分がさせて貰え無かったことをさせたいと。

心を縛りたくないと。

大切に育てたなら、道は踏み外さないだろう。

だから、そなたから見たら、随分えこひいきしているように見えるかも知れないが、母上の希望なのだ。

分かってくれ。

母上が言っていた。

女子は婚姻など、どうしても思い通りにならないことがある、と。

だから、そのころまでは好きにさせよう。

いずれにせよ、丹丹が笑っていたら私たちは幸せだ。

そなたも、婚姻は義務でもある。

好きでもない女子と一緒に住まねばならない。

だから、私のように、好きな人を見付けたら、最初の男の子を産んでもらうようにしなさい。

そうしたら、同じ墓に入れる。

永遠に一緒にいられる。

丹丹が、一周りしてきたぞ。

部屋に入って、一休みだ。

楽しかったか?

うん、

ふうと、いつも話すの。

ちい上のこと、褒めてたよ。

いい父上だって。

はっはっ、

今度は、リンゴをもってこなければな。






おお、俶、腕をあげたな。

たくさん貼ってある。

いろんな表情の丹丹だ。

そなた、丹丹しか書かないのか?

他に書きたいと思うものがないのです。

それに、丹丹を書いていると、はあ上を書いているような気がして、思い出がよみがえります。

蓮には、懐かしい時間です。

にいにい、解りやすい。

にいにいが書いた女子がいたら、その人が“蓮蓮の人”なんだ。

“蓮蓮の人”ってなんだ?

好きより、好き好きなの。

これ以上言うと、はあ上に叱られる。

ちい上、丹丹、この頃思うの。

“ちい上”、“はあ上”って呼んでいるから、韋妃様を“母上”と呼ぶの、嫌じゃない。

はあ上を母上と呼んでいたら、同じにように、韋妃様を母上と呼ぶのは嫌だったと思う。

違う呼び方をしていて、良かった。

“はあ上”は私たちのだけのものだと思えるから。

本当だ。

俶もそう思う。

“はあ上”、“ちい上”で良かった。

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