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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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天女出現

開元二十三年(735年)、

七月、玄宗の二十二女の咸宜公主が楊かいと婚姻することになった。

開元では、公主の封戸は五百戸であった。

唐初は公主の封戸は三百戸であり、多くて、三百五十戸であった。

が、武后様の時、中宗様の時、何千戸と異常に多くなっていた。

だから、五百戸にしていたのだが、咸宜公主は武恵妃の娘として育った、初めての公主であった。

封戸を千戸とした。

やはり、玄宗にとっては、娘として、愛着があったのである。

だから、他の公主も千戸になった。

中宗様の時、同腹の姉妹ながら、姉・長寧公主より安楽公主の方が封戸が多かった。

見ていて、他人事ながらいい気はしなかったのだ。

他人の眼がある。

皇帝は公平でなければ。


秋になり、ある日、武恵妃が興慶宮を訪れた。

玄宗は手持ち無沙汰であった。

高力士が、顔を赤くして、慌ただしく入って来た。

陛下、気を落ち着けて下さいませ。

何事があっても、気を確かにして下さいませ。

そなた、何を言っているのだ。

言いながら、玄宗は、高力士の後ろに、輝く天女を見た。

玄宗は、自分でも、呆けたようになったのを感じた。

今、この瞬間、ここにいるのは、玄宗と天女だけだった。

高力士が、

陛下、うたた寝で、頭がまだハッキリとなさってないのですね。

武恵妃様ですよ。

高力士が助け船をだした。

両手を広げて、伸びの一つもしてみせた。

いつの間に寝たのかな?

おお、そなたであったか。

久し振りだな。

興慶宮に来てからは、あまり会えないからな。

ところで、今日は何ようかな?

陛下、今日は寿王の嫁になる女子を、陛下に紹介するために、連れて参りました。

初めまして、楊玉環でございます。

おお、そなたが寿王の妻になる女子か?

普通に振る舞うのが、精一杯であった。

どこの、生まれだ?

はい、蜀でございます。

遠いところだな。

高力士が、口をはさんだ。

陛下、そろそろ、会議の時間です。

ああ、そうだった。

悪いが、朕には予定があった。

今日はこれで帰りなさい、

せっかく来てくれたのに、悪かったな。

陛下、失礼します。

武恵妃を先頭に、寿王、楊玉環、

三人が、ぞろぞろと出ていった。

危なかったな。

陛下、大丈夫ですか?

だから、そなた、うるさく警告したのだな。

聞かれたらいけませんので、あれで精一杯でした。

さあ、この事態をどうするべきか?

だが、何で、花鳥使、天女を見つけられなかったのだ?

あれだけの美人だ。

目立っただろう。

噂もあった筈だ。

職務怠慢だ。

担当者を呼んでまいれ。

仰ると思い、待たせております。

高力士、そなたは朕の心を読むのに長けておるのお。

早く呼べ。

どうして、見つけられなかったのだ?

一年ほど前に、武恵妃様の使者が、訪れて連れて行ったと、言うことです。

寿王様の嫁を探しているとのことだそうです。

他の地でも、花鳥使は同じような話を聞いたそうです。

申し訳ありません。

朕は、どうしたらいいのか?

あの女子を見たなら、他の女子では我慢できん。

陛下、わかっています。

玉環様を見たとたん、陛下の天女だと、私でさえわかりました。

だから、心構えをしていただきたくて、いろいろ言ったのです。

こんな時、一体誰に相談していいものか?

皇帝の立場と、男女の機微が理解できる者に忠告してもらいたい。

そんな人間、いるのか?

やはり、ある程度、年配の者でなくてはな。

年の功で、よい助言がほしい。


陛下、寧王様なんかは、いかがでしょうか?

かつて、夾城の複道をご一緒に歩いた折り、下の階で兵士が食べかけの餅を溝に捨てたのを、陛下が上の階から覗き見て、とがめ、罰しようとなさいました。

それを、寧王様は皇帝が民の生活を覗き見しているとわかれば、良くないとおっしゃいました。

皇帝が礼を欠いていると。

寧王様は、嫡長子で五、六才で皇太子になられ、幼い頃より帝王学を学んでおられたのですね。

だから、皇帝にはなられませんでしたが、そこらあたりはくわしいかと思われます。

思い出した。

あの日は武恵妃の誕生日だったのだ。

だから、餅が配られたのだと。

なおのこと、腹が立ったのだ。

少し冷静になれた。

ついこの間、忠王と天女のことについて話した。

結局、答えを出すのは、朕なのだ。

やっぱり、ご先祖様は裏切れない。

高力士、後何年もある。

花鳥使にひき続き、天女を捜すように、言ってくれ。

ただ、見つからないことも、あるだろう。

その時のために、天女には、子が生まれない体になってもらわねば。

寿王は慶王とは違う。

他の女子との間に子は生まれるだろう。

侍医に手配を頼む。

先のことはわからない。

ただ、朕に必要なのは、晩年を共に過ごす女子だ。

子を生む女子は必要ない。

朕には、俶がいる。

ただ、えらく年をとった男に、子が出来たという話をたまに聞く。

妙な夢を持たれたら困る。

朕も、そんなことで、煩わされたくないのだ。

だから、心配のないようにしておきたい。

婚姻は、いつだと言っていた?

十二月だと、いうことでした。

わかった。

後、一と月余りだな。

武恵妃も、年をとったな。

傍に若い女子がいたら、肌の衰えが目立つ。

あの頃の皇后と若い武恵妃を思いだす。

咸宜公主の亭主、最近、十王宅に、寿王を訪ねてよく行くそうだ。

武恵妃の皇太子への悪口が、具体的になった気がする。

まだ早い。

皇太子には、もう少し頑張ってもらわねばな。


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