杏の墓前にて
縁に寄せて、停めてくれ。
後の馬車に先に行ってもらえ。
さあ、丹丹、後ろの風にばかり構わずに、こっちを向きなさい。
そうだよ、丹丹、ここ、どこかわかる?
俶が、左の窓の日除けをめくった。
母上のお墓だ。
俶、母上の墓前だ。
蓮と、呼ぼう。
蓮と丹丹、私はそなたたちの母上と約束したのだ。
今日は二人とも、初めて洛陽に行く日だ。
蓮は、四年前、洛陽から長安のこの道を通った。
その道中、杏と死後の話をした。
二人、同時に死ぬことはないから、私が先に死んだらどうする?
杏は、誰も好きにならずに死ぬ。
と、言ってくれた。
誰か好きになったら、蓮に嫌われる。
だからって。
私は、親王という立場上、何人も女子を娶るだろう。
だけど、死後、母上と一緒にいたいから、生まれ変わらず、待っていてほしい。
と。
その時、ここを通ると、
この場所に埋めて欲しい、
と言った。
だから、母上のお墓はここにあるんだ。
ここだと、蓮が洛陽に行き帰りする時、顔を見ることができるから、
と。
その時は、心の中で声をかけて欲しい。
わざわざ、馬車から降りなくていいから。
と。
大ききなった蓮と丹丹を見れる。
と。
だから、今ここに馬車を止めたのだ。
だから、母上の遺体も魂も、ここにある。
口に出さなくてもいいから、心の中で、母上と話しなさい。
どんな事でもいいから話したらいいよ。
母上が居なくなって、忠王府に住むようになって、生活が変わったから、母上も心配しているはずだ。
誰に衣食の世話をしてもらって、どんな友達ができたか?
母上も気になっているはずだ。
丹丹も、風の話をしてあげたら、母上、悦ぶよ。
蓮、私と杏には来世はない。
皇帝は、再生、復活を望まれない。
だから、永遠を二人で過ごす。
私は、それが嬉しい。
忠告しておく。
そなたも、好きな女子に最初の男子を産んでもらえ。
そして、その子に位を譲れ。
そしたら、死後、そなたは好きな女子と永遠を過ごすことができる。
玄宗様は、気の毒だ。
私の母、玄宗様にはどうってことのない女子と陵に入る。
私が跡を嗣ぐからな。
まあ、武恵妃と入るよりかはいいか。
今では嫌っているからな。
丹丹、陛下の話、私が跡を嗣ぐ話、昨日の戦の話、誰にも、言わないように。
言うと、私たちは命を狙われることになる。
風も巻き添えをくい、殺されることになるだろう。
風が大切なら、余計なことは言わないように。
頼んだよ。
さあ、母上と話しなさい。
終われば、洛陽に向かうからな。
私は外で待っている。
馬車の後に、繋がれている風をなでながら、
蓮より丹丹が好きか?
と、声をかけた。
後の窓から覗いて、お前に話しかける女の子がいいのか?
丹丹は、お転婆でも小さな女の子だ。
もう少しすれば、お前に乗って走りたがるだろう。
落とさないように、気をつけて走るんだよ。
頼んだからな。
丹丹は私の大切な娘だからな。
お前の友達なんだろう。
丹丹はそう言っている。
頼んだぞ。