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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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棺と蓮茶

牛とヤギ、どうなさるおつもりですか?

当然、俶に飲ますつもりだよ。

私が飲ましているのにですか?

そうだ。

そなたに飲まして、そなたをかいして、俶に飲ますつもりだ。

朝晩、丼一杯の牛とヤギの乳を飲むように。

朝晩どちらでもいいから一杯づつ、合わせて二杯だ。

味が好きじゃなかったなら、蜜をすこし入れたらいい。

蜜って、贅沢品ですよ。

私を、甘やかしすぎじゃありませんか?

他人からみたら、そうかもしれん。

でも、私がそうしたいのだ。


揺らしていたら、俶が眠りました。

侍女を呼んで、俶にはべらせます。

ああ、そうしてくれ。

一人で置いておくなんて、不安で落ちつかん。

私もです。

さあ、君が飲む乳を提供する牛を見にいこう。

殿下、お願いがあります。

黙っていたら、多分、私が罪悪感をもちますし、隠しきれないことですから。

なんだ、言ってみなさい。

俶のことを、“蓮 ”と呼びたいのです。

忠王が振り返った。

陛下が、嫌がると思う。

陛下は、私たち息子の名前を改名した。

名前には、こだわりがあるのだ。

息子の数は多いので、お互い覚えられなくて、今では、封地の名で呼びあっている。

存じております。

そして、“蓮”と言う名を嫌っている。

武后様が寵愛した、張兄弟の美しさが、“蓮”にたとえられたからな。

張兄弟は、重潤郡王と永泰郡主と、その婿が、自分たちの悪口を言った、と武后様に訴えた。

武后様は、当時の皇太子、後の中宗様の子であり、自分の孫でもある重潤郡王と永泰郡主、そして、郡主の婿 の三人を杖殺させたのだ。

郡主の婿は武一族の者で、武后様の甥に当たる。

重潤郡王と永泰郡主は、陛下の従兄弟にあたる。

身内に衝撃がはしった。

死ぬまで、杖でたたいたのだから、血だらけになって死んだのだ。

あの、隋の煬帝も殺される時、毒酒を要求したが拒まれ、血を流さないよう、自分の首を絞める布を差し出したそうだ。

血を流さない死が、貴い身分では当たり前のことなのだ。

なのに、杖殺をさせたのだ。

諦めてくれ、

無理だと思う。


分かっております。

でも、私の話を聞いてください。

掖庭宮でつらい思いをしたとお思いでしょうが、すこし違うのです。

母は、

そなたのおかげで助かった。

と、よく言いました。




配される部所を決める時、母が裁縫が得意と申告し、その部所に配属されました。

母が指導するということで、私も母と同じ部所です。

母は、蓮の花咲く季節になると、朝早くから出かけて、つぼみをとってきては花茶を作り始めました。

愛州の花茶のようではありませんが、見たことのない人には、綺麗にみえたみたいです。

さしあげたら、皆、大喜びで、周りの態度が変わりました。

方言のきつい田舎者が、人気者になったのです。

母は、次の年から、池を掃除する人の舟に乗せてもらって花を取るようになりました。

葉も茎もたくさんとってきました。

私と二人で蓮茶をたくさん作るのです。

普段でも、高価なお茶など、とても手にはいりません。

自分の体さえ、自分の物ではない奴婢の身、他の人は宮中で出たでがらしを煮て飲んでいました。

でも母が、

そんなもの口にするな。

と言って、私には飲ませませんでした。

そして、分相応といって、いつも蓮茶を二人で飲むのです。

私のこの体は蓮のお茶でできているのです。

母はなにに使うのか、飲む以上の量を取ってきました。

そして、捨てるようにいわれた布を洗って乾かし、回りを縫って袋にして、余分の蓮茶を天井につるすのです。

こうしておけば、冬でも、お茶には困らない。

と、言うけど、明らかに、飲む以上の量を貯めこむのです。

それが何年も、続きました。

怪しまれ、宦官に袋を破られたこともあります。

床に落ちた蓮茶の上のきれいなところと、床に触れた所をわけて、袋にいれなおしました。

袋が十個になった時、私に言いました。

これで、いつ死んでも安心。

我が死んだら、花茶を炭に代えてもらいなさい。

花茶は別のところに置いてある。

炭は一番安いのでいい。

安いのは柔らかいので、くだきやすい。

奴婢には棺がないのかと心配したけど、あるみたい。

言っとかないと、私がしてほしいようには、してくれないからね。

棺には、下に砕いた炭をしいてほしい。

その上に、蓮茶をすこし敷いてほしい。

直接、炭にあたると、痛いからね。

そして、我の体を横たえたら、残りの蓮茶をいれてほしい。

あっ、汚れた蓮茶は足もとの方にね。

余っているようにみえても、湿気をすうと、小さくなるからね。

無理しても、全部いれて。

私は死んだら、腐って、臭って、体液をだすだろう。

炭は臭いを吸うから、すこしは臭くなくなるだろう。

蓮茶も体液を吸うから棺の外に滲みでないだろう。

私の体は蓮茶に包まれる。

蓮は、仏教では極楽に咲いているという。

道教でも、聖なる花とされている。

それだけでも、死後、いい所に行けそうな気がする。

こんな事ができるのは、そなたが花茶に、執着してくれたから。

そうでないと、私は花茶など作ろうとはしなかった。

そなたのおかげ。

ありがとう。

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