十王宅と礼会院
陛下、お正月は忙しくて大変でしたね、
お体を大切になさって下さい。
一番気を使うのは、やはり、朝賀だな。
外国の客のために、なんで朕が、象や馬の芸の心配をしなければならないのかと思ってしまう。
かといって、期待されているのが分かっているから、やめられない。
まるで、曲技団の団長だな。
自分でも、笑ってしまう。
大明宮で式典をやっていた時は、民も見る事がなかったが、ここ興慶宮で朝賀をすると、音楽は聞こえるし、催しものの時は動物を見ることが出来るので、民が押し寄せ、大変だ。
だが、民が喜んでくれると思うと、興慶宮に移り住んでよかったと思える。
朕の生誕日、千秋節でも同じような催しものをするのを、楽しみにしてくれているのが分かると、嬉しいものだなあ。
生誕日、千秋節をしようと思ったのは、そなたと俶が象にリンゴをやっているのを見たからだ。
ちゃんとした形で定期的にしたら、歓ぶ者がいるとわかったからだ。
動物の芸を披露するのは、朝賀の時と、元宵節だけだったからな。
一年の内で二回なのに、どちらも一月だから、間隔が十五日程しか空いてない。
朕の生誕日は、八月で、一年の真ん中当たりで、時期としてはちょうどいい頃合いだ。
だから、そなたたちを見ながら、つい、ちょっと口走ってしまったが、やっぱり張説だな。
長年の付き合いだ。
すぐに察っして、朕の思いを千秋節、まあ、名が付いたのはずっと後だが。
皆の前で、誕生日祝いを王朝の行事とするよう、提案してくれた。
変な話だが、朕の方からは言いにくいものだからな。
あいつは仕事の出来る男だから、行事として、式典の骨子をすべて作って、去年、あっ違った、年が変わったのだな。
年齢を感じるよ。
一昨年の生誕の祝いの日には、行事として、朕の許可を得るべく、上表の文章までちゃんと出来ていた。
そして、生誕の宴のあと、百官そろって、その請願文を読んだ。
その後、朕が許可の文書をだし、皇帝の生誕日を王朝の行事とすることが、まあ、決定されたわけだ。
この行事は、臣下の誓願によって、始まったことになる。
そなたも、いずれ帝位についた時、自ら言いにくい時は、腹心の者に上奏させるようにしたらいい。
武后様なんか、上手かった。
皇帝にだって、皆に推され、何度も頼まれ、やっと帝位に就いた形をとったからな。
張説、今思うと、体が不調だったから、最後の仕事と考えてのことだったのかもな。
十二月に亡くなったな。
年は越せなかったのだなあ。
泰山封禅を一人で仕切った男だ。
荷が重いことはなかっただろう。
六月のそなたの河北道行軍元帥就任の会を見に行ったから、八月の朕の千秋節にも、顔を出すかと思ったが、来なかった。
去年の、あっ、一昨年の式典がたたき台で、問題なく進行するのがわかっていたから、二度目は来る必要がなかったってことだな。
ああ、そなた、河東道諸軍元帥も九月に就任したな。
そなたが何もしないからといっても、戦は眼に見えない形で行われている。
今は、相手を偵察し、作戦をたてているところだ。
そなたには報告がないからと、何もしていないわけではない。
一応、言っておく。
そなたに華を持たすためにも、この戦は負けるわけにはいかん。
副元帥を変えるかも知れん。
最強の布陣で臨むつもりだ。
わかっているのか。
勝った暁には、肩書きが増えるからな。
武恵妃の要注意人物となるであろう。
気持ちを引き締めて、日々を過ごすように。
勝つのが分かっているから、そなたを元帥にしたのだ。
その時がきたら、ニヤケて締まりのない顔をしないようにな。
一応、言っておく。
それと、たしか親王たちが十王宅で、“公主たちが自分たちより優遇されている。
”とボヤいてるとの話だったな。
だから、崇仁坊の元、長寧公主の屋敷を、公主たちの仮の屋敷にしたいと考えている。
長寧公主は中宗様と韋廃皇后の娘で、安楽公主が好き放題していたから、対抗して作ったのが、あの屋敷だ。
中宗様もたびたび訪れて、泊まったりもしている。
莫大な金をかけて作られた屋敷だ。
立派すぎて、どう使おうか、考えていたところだ。
だから、中宗様を接待した建物を親王、公主たちの婚姻関係の儀の公の場として使うのはどうかと、考えている。
婚姻関係に限らず、他のなんとかの儀の時にも使うようにすればいい。
金をかけた立派な造りだからな。
使わない手はない。
公主たちは、婚姻の相手の家に嫁ぐのだから、無理に家は要らないだろう。
今までも、嫁ぎ先の事情を考慮して、公主邸を賜っていたが、全員にではない。
賜ったと言っても、亡くなった時点で、国が没収する事になっている。
皇帝のかわいい娘に、快適な日々を送ってもらうために住宅を提供している訳だ。
嫁ぎ先を豊かにするためではない。
親王とはそこが違う。
親王は王府を持てる。
公主が公主府を持てたのは、中宗様の時代、安楽公主たちだけだ。
それまでは、公主に経済活動は許されていなかった。
府を持って、初めて人を雇い、人を動かせるのだ。
公主の方が優遇されていることは、絶対にない。
相手の家で仲良く住んでいたら、妻に家があっても無駄なだけだろう。
もし、亭主と別れたり、死なれたりしたら、体面もあり宮中には戻れまい。
そんな時、この屋敷に住んだらいい。
どうせ、まだ若くて再婚するなら、出て行くことになる。
この屋敷が公主で一杯になることはないだろう。
亭主に死なれ、年をとり、婚家に居ずらくなったら、ここで一生を終えたらいい。
似たような境遇の者もいるだろうから、寂しくはないだろう。
屋敷の名称は、礼会院、
しばらくの間でも他の公主たちと一緒にすごすのだ。
お互い礼を持って、生活したらいい。
相手の家族と上手くいかない時は、亭主も一緒に住んだらいい。
公主一人だけとは、言わない。
公主邸を下賜しないのだから、二人でやってきたらいい。
ただし、亭主のみだ。
以外の男を連れてきて、風紀を乱すことのないように。
公主の品位を保つように。
非難されるような者は受け入れないから、そのつもりで。
親王たちに、礼会院の話をして、共同生活は公主もすることになる、と伝えてくれ。
これで、不満も無くなるだろう。
頼んだからな。
あっ、今日、伺った目的、お礼を言うのを忘れておりました。
陛下、竜池の鯉、捕るのを禁止してくださりありがとうございます。
そなたには、朕の心が分かったのだな。
はい、陛下は、鯉は・り・李家に通じるから捕らないように、との事でした。
でも、鯉は龍の前身、龍の子供のようなもの。
俶を連想して禁止なさったのですね。
そうだ。
それもある。
が、やはり鯉・りは李家を意味する。
金魚袋、あの五品以上の者たちが、腰に佩している飾りだが、あの中には三品以上が金、五品以上が銀で魚の形の符が入っている。
その符には、姓と官名が書かれている。
符は割り符になっていて、左は朝廷におき、右を袋に入れるようにしている。
宮中に入る時、割り符を合わせて、入宮を許可するようにしている。
あの魚は、李家を意味する鯉だ。
それは、絶対だ。
だって、武后様の時代には、亀に変えたのだからな。
あの魚は鯉、あの子といっしょ、李家にはとって大切なのだ。
いずれにせよ、あの子は、朕がご先祖様に祈って授かった子。
そなただけの子ではないからな。
大切にして当たり前。
気にするな。
そなたも、大切にしてくれて感謝している。
韋妃には、“俶を頼む。”と言っておいた。
問題ないか?
はい、ありがとうございます。
では、失礼します。