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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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杏の出棺

張説のような者は砂の中でキラリとひかる瑠璃のような物だ。

なかなか見つかる者ではない。

そのつもりで、気長に待つように。

はい。

その節は、埋葬、お世話になり、ありがとうございました。




ところで、永嘉坊の屋敷は、どうなるのでしょうか?

そなたはどうしたいのだ。

なにか考えがあるのか?

俶に下賜したと、朕は思っている。

安心しました。

できれば、掃除等の管理をお願いしたいのですが?

我々は杏が亡くなった今、もう、あそこには住めません。

俶と丹丹の世話を誰かに任さねばなりません。

韋妃は、正妃ですし、懐妊はしていますが、子の世話に追われているわけではありません。

他の者は、すでに子がいて、俶と丹丹に対し、暖かい眼差しを向けているようには思えません。

私の心を独り占めした者の子であり、俶は長子なので好意はもたれてない様です。

しかし、呂や緑児に世話をさせ二人で置いておくわけにはいきません。

忠王府の中で家族の一員として、私の跡取りとして育てなければなりません。

韋妃に養育を委せるつもりです。

陛下の方からも、一言、声をかけていただきたいと。

お願いします。

この選択は、俶の将来がかかっているのです。

それでは、失礼します。

あっ、今年の千秋節、欠席して申し分けありませんでした。

家に不幸があったのだ。

出席なんぞ、期待しておらん。

気にするな。

子どもたちが待っています。

早く帰らないと。

忠王はあわただしく、永嘉坊との間の通路を抜けていった。


中央に丸い寝台が置かれていた。

壁にもたれてそのまま座った。

眼を閉じると、あの日が蘇った

俶と丹丹に、母上に渡したい物を持ってくるように言って、その場を離れさせた。

用意された衣に着替えさせて、蓮茶の敷かれた棺に寝かせた。

待たせていた俶と丹丹を部屋に入れた。

二人は泣きながら棺に駆け寄り、母を見て、喜んだ。

綺麗!

口々に美しい衣を褒め、触った。

一緒になって、初めてのちゃんとした衣だ。

子がこんなに喜ぶのなら、他人に会うわけでない日々の生活の中で着せてやればよかった、と悔やまれた。

しばらくして、俶が包を顔の横に置いた。

はあ上のお人形。

一緒に、蓮が書いた絵の失敗したのが、沢山あったよ。

あれも、入れた方がいいのかな?

蓮、壁に貼った、上手に書いたのをはあ上に持っていってもらいたいんだけど。

俶、母上は持って行くために、失敗したのを置いていたんだよ。

綺麗に書けたのは壁に貼って、私や丹丹に見てもらいたいんだよ。

母上は失敗した絵を見て、上手になっていく俶の成長を喜んでいたんだよ。

だから、失敗したのを棺に入れてあげよう。

蓮、父上と馬に乗った絵、入れる。

絵師が書いた絵だから、又、書いてもらったらいい。

父上と蓮の絵だから、母上、喜ぶよ。

それと、孔雀の羽。

それと、元宵節の簪、三本あったよ。

古いのは、布が汚なくなっているから、判るね。

丹丹、はあ上に持って行ってもらう物、なにもない。

じゃ、兄上と一緒に、はあ上の絵を書こう。

最初からは上手には書けないよ。

母上が取っておいた兄上の失敗の絵、下手だっただろう。

丹丹が書いてくれたのが、母上は嬉しいんだと思うよ。

兄上も、はあ上を書くよ。

でも兄上は、棺に入れない。

壁に貼って、思い出すよ。

丹丹、丹丹ははあ上によく似ているよ。

ちい上も兄上も、丹丹がいれば、いつもはあ上を感じられる。

丹丹は、兄上にとって大切な妹なのだよ。

生まれてくれて、ありがとう。

さあ、書こう。

二人は母親を書いた。

私、私は、二人を急かした。

杏が、嫌な臭いを出さないうちに、早く埋葬しなければ。

六月、暑い季節だ。

明日になれば、皮膚がただれるかもしれない。

美しい姿のうちに、埋葬しなければ。

子に佳い思い出を残さなければ。

夜、坊がしまってから、誰もいない道を通って、前に指定された場所に埋葬するのだ。

事故死なのだ。

おおっぴらにしない方がいい。

棺も見られたくない。

俶、丹丹、たくさんの人が参列する立派な葬儀でなくて、ごめんよ。



ちい上、そんな処に座って、何しているの?

丹丹が、首に腕を回してきた。

丹丹をおんぶしながら、立ち上がった。

俶、丹丹、この屋敷はいつ来てもいいから。

ここは秘密の場所だ。

父上、俶、丹丹、三人のな。

母上が恋しくなったらな。

来たらいい。

壁の杏の寝顔を見た。

俶、上手になったな。

形じゃないんだな。

よく似てるよ。


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