唐の風習
御無沙汰しておりました。
おお、忠王か。
最近は、どうしていた?
少しは、落ち着いたか?
はい、生きております。
陛下、陛下だったのですね?
なにを言っておるのだ。
意味がわからん。
杏の死についてです。
陛下が協力したのですね?
なんと答えていいか。
どうして、わかったのだ?
私は杏を案じて、いつも気にかけていました。
一人にしない。
一人にしても、短い時間で杏の様子を確かめる。
心がけていました。
だのに、あの日は陛下の命により、会合を開きました。
百官、多い人数です。
自己紹介をしてもらいました。
時間がかかりました。
俶が、退屈しました。
いつも、大人しく待っている子が退屈したのです。
長かったのです。
私が俶を連れて出かけ、
丹丹は、緑児が十王宅に連れていきました。
あんなに、一人にしないように気を付けていたのに、ぬかったのです。
原因は、陛下の命だったのです。
あれから二カ月以上たちました。
でも、兵も誰も動きません。
慌ててするべき会合ではなかったと思いました。
杏のために、仕組んだのですね?
陛下、杏のためにしたのですね?
そなたは、もう昔のぼんくらな忠王ではないのだなあ。
よくぞ見破った。
実は、洛陽から帰ってすぐに、杏からお話ししたいことがあります、との連絡があったのだ。
すぐではありませんが、二人の子がある程度大きくなれば、旅立ちたいと。
まだ、二人目の子のかげも形もない時のことだ。
忠王は勘が鋭いので、自分が考えることが先まわりされる。
蓮のことを考えると、こうすることが、最上の策だと思えると。
是非、お願いしたいと。
それと、二人目の子が女の子ならば、警護と世話ができる温厚な女子を選んでいただきたい、と。
男の子ならば、殿下がよくしてくれるので、選んでくれた女子をそのままお願いしたいと。
当然、人柄がすぐれている方を。
との事であった。
自分がいなくなっても、自分の代わりになれるような人を考えていたようだ。
子の哀しみを受けとめる人をとな。
もう一つ、生まれ月の事を気にしていた。
朕たちは、庶民の習慣などは知らない。
だが、杏が言う、隋の皇后の話からもわかるように、二月生まれの子を親は育てない。
蕭皇后のこの話は魏徴編纂の隋書にも載っている。
もう一つの風習は、親と同じ月に産まれた子は殺す、と。
だから、誕生日の祝いを一緒にしたことを悔やんでいた。
それで、次ぎの年の誕生日を私の勘違いだとして、一緒にしなかったのですね。
そうだ。
そして、俶の誕生日は十二月だと。
そなたの誕生日は知っているものも多いし、記録にも、残っているだろう。
だが、俶は、丁度、上陽宮で生まれたから知る人はほとんどいない。
だから、十二月生まれで、これからは通すからな。
やむを得ず、俶の誕生日を十月とした時は、そなたの誕生日を九月としなさい。
そなたの誕生日を十月とした場合は、俶の誕生日を十二月とするように。
地方によって、いろいろ違いもあるだろう。
だが、民が信じて行っているものには従った方がいい。
そなたの子で、俶の誕生日、十二月十三日より早く生れた子はいないだろうな?
その日よりかは早くしないと初孫ではなくなる。
俶の次ぎの子の係は、十日程遅いと思います。
ちゃんと調べておきます。
俶を名前で呼び捨てにしていた子か?
そうです。
ちゃんと説明して注意したのか。
はい、皇后様と兄上のことを、例にあげて説明しました。
双子の場合でも、少しの時間の違いで、兄は兄、妹は妹なんだ、と。
そなたは、弟だ。
たとえ、そなたより、体が小さくて言葉が遅くても、俶は兄なんだ。
これからはちゃんと兄上と、呼ぶように。
陛下に、長幼の教えがなされてないと言われた。
もし、陛下の前で同じことがあったら、私とそなたが叱られることになるだろう、と伝えました。
それでいい。
子はなんと答えた?
“わかった、”とのことです。
そなたが俶を大切にするから、やっかんでいるのだな。
しかし、俶は普通の子ではない。
特別にして当たり前なのだ。
嫡皇孫なのだ。
その点を伝えなさい。
それと、そなたの誕生日、九月何日か、日付けをちゃんと考えておきなさい。
言う度に違うことのないように。
張説が会合に行ったようだが、話したか?
見かけましたが、杏のことで急いでいたので、避けました。
病なのだ。
最後に、そなたの晴れ舞台を見に行ったのだ。
あの日から、参内していない。
悪いことをしました。
だが、見舞いに行っても、会えないだろう。
太医を使わしているが、痩せ細っているそうだ。
今年一杯、持つかどうかと言っていた。
そんな様子を見せたがらんだろう。
微賎の出と言われながら、知力と意地だけで生きてきた男だ。
気持ちをわかってやれ。
そうか、張説は、俶を見に行ったんだな。
俶は、十王宅にも住んでいない。
なかなか、見ようにも、顔を見れない。
最近、会に連れて行っていると聞いて、病をおして出かけたのだな。
あの者は、人の相もみるだろう。
なんでも、出来る奴だからな。
そうだ、俶が目あてだったんだ。
俶を見て、唐の将来を知ろうとしたのだ。
まあ、そなたは、張きと仲良くしたらそれでいい。
父上も、寂しくなりますね。
まあな。
そなたにも、朕にとっての張説のような人物を、探さねばな。
有難いことです。
是非、お願いします。
分かっておる。