動物たち
今日は、陽差しが暖かいなあ。
俶、体は元気か?
ウン、
行くの?
まあ、待て。
王妃様、お体の調子は、いかがでしょうか?
また、ふざけて。
はい、絶好調です。
行きたいです。
杏の許可がおりたから、出かけると、するか。
気分が悪くなったら、我慢せずに、すぐ言うのだよ。
呂、馬車の用意を頼む。
珍しく、皇宮と宮城の間の横街を通ろう。
混んでないし、近道だ。
禁苑は東からでも、西からでも、行けるが、動物たちがいる処は、西から入った方が近いのだ。
それに、動物たちの餌を荷車で運ぶから、道が出来ている。
杏、この前、軽業の話をしていたけど、軽業は百戯とも、散楽とも言うんだ。
他には、奇術、幻術などがある。
これらは、教坊に組み込まれまている。
宮廷音楽の一翼をになう、あの教坊だ。
変だと思うか?
隋の文帝は、
こんなの音楽じゃない。
って、散楽百戯を楽制からしめだしたんだ。
そして、散楽楽人をすべて百姓としたんだ。
でも、煬帝が、探し集めて、もとの形に戻したんだ。
そして、朝賀に来ていた国々の使者を、十五日からの元宵節に招いたんだ。
洛陽で博覧会をするついでにな。
その時、皇城端門から洛陽城正門、定鼎門まで、なんキロもの距離を夜をてっして、催しものをしたという。
灯りが城の外まで照らし、音楽が遠くまで、鳴り響いたそうだ。
一月末まで、続いたという。
その間、飲み食い無料。
そのために、百戯の者たちを集めたのだ。
まあ、外国の人を楽しますため、と言うのは、玄宗様と同じだ。
まあ、国の豊かさを見せつけ、驚かすというのも、似ていると思うけどな。
皇帝、おのおのの考え方が見えてくる。
煬帝と似ているというと、陛下が気を悪くするだろう。
高宗様は、散楽が、民衆を浮かれさせ、騒がせるのを嫌い、関所、渡し場に、散楽を演じる者を唐に入れさせないように通達したそうな。
皇帝によって、さまざまだろ。
でも、玄宗様のなさり様だと、散楽の面白さに、皆、馴染んで、もう、やめられないだろうなあ。
高宗様も、持病の頭痛がなければ、楽しんだかもしれない。
俶も、大きくなったら、見て、楽しんだらいい。
そなたもな。
話をしていたら、もう、着いた。
兄さんに、一言、近いうちに、動物を見に行く、と伝えた。
何かがあった時、配慮してもらえるだろう。
だって、身重のそなたが一緒だからな。
さあ、獣の臭いがしてきた。
俶、すぐ着くよ。
杏は、馬車にいて、窓から覗くようにしたらいい。
見たくなったら、声をかけて。
降りるの、手伝うから。
象の柵が一面に続いている。
それぞれ、立ったり、横たわったり、声を上げたり、鼻をゆらしたり。
降りようとした俶が、驚いて、棒立ちになっている。
抱き上げ、
俶、象さんはいかがかな?
ちゅごい。
いっぱい。
腕の中で、跳びはねた。
眼は、象しか見ていない。
ちい上、近くに行ってよ。
もっとみたい。
飼育員らしき人物が、腰を低くして現れた。
高様から、伺っております。
まず、象からご案内させていただきます。
俶が、抱かれて最初の象を見ていたら、桶一杯のリンゴをもって来た。
象は、食いしん坊で果物が大好きです。
忠王は、俶を下ろして、リンゴをもたせ、また、抱き上げた。
俶は、両手でリンゴを象に差し出した。
象は鼻で受け取り、口に運んだ。
はあ上、リンゴをもっと、
呂、リンゴを頼む。
呂が、俶にリンゴを渡した。
もっと、
もっと、
桶一杯のリンゴはなくなった。
たくさん食べて、お腹痛くならないかな?
飼育員が答えた。
象は体が大きいので、たくさん食べます。
一日であの馬車いっぱいの草を食べます。
今日は、リンゴをたくさんもらえたので、大喜びでしょう。
象しゃん、眼が優ちかった。
象は、穏やかな性格です。
怒ることは、あまりありません。
でも、動物も、人間と一緒で感情があります。
よくしてあげたら、友逹にもなれます。
陛下は優しい方です。
朝貢品としてもらい、象が二百匹ちかくになった時、陛下は、象が住める場所まで、捨てにいかせました。
多すぎる象、
私たち飼育員は、象を殺すように言われるのではないかと、恐れていました。
ありがたいことと、感謝しています。
それでは、次に参りましょう。
象と一緒に演技したサイですが、眼が悪く、いつもと変わった音がすると、危検だと思い、角で突こうと突進してくるのです。
若様が一緒です。
止めておきましょう。
孔雀が綺麗です。
ですが、鳥ですので、つつきます。
くちばしにご注意下さい。
少し遠いです。
馬車に乗って行かれたらいいでしょう。
今度は、孔雀なの?
私、見たい。
杏の手を引いて、馬車からおろした。
次は、俶だ。
さあ、おいで。
これが、孔雀なのね?
俶、きれいな鳥だろう。
腕の中の俶に、声をかけた。
餌はなにかな?
子供にさっきのように、餌やりをさせたい。
この鳥は、なんでも食べるのです。
毒へビもお構い無しで食べるのです。
雑食なのです。
はっぱでもお持ちしましょう。
それでよろしいでしょうか?
いや、いい。
見るだけにする。
杏は、孔雀、どうかな?
私、長安に来る前、孔雀の羽根をもっていたの。
とても、綺麗で、私の背より、ずつと長かったわ。
模様が緑や紫でピカピカひかって、大きかった。
だから、この羽根が体にどんなふうに生えているか、知りたかった。
やっと、見れたわ。
父が、貰ったと言って、もって帰ったの。
美しいので、一目で、欲しいと思った。
でも、弟も欲しがった。
父は、迷わなかった。
私は口に出して、言わなかった。
だから?
そうじゃない。
父には、男の子しか大切じゃなかったの。
口に出して言って、断られたら、屈辱じゃない。
はっきり、弟の方が、大切、と、意思表示をされたようで。
母が、私の気持ちを察して、自分が欲しい、と言って、貰ったの。
男の子は乱暴だから、すぐにダメにする、と言ってね。
後で、そっと、私にくれたの。
私の宝物になったわ。
孔雀の羽根は、父の愛を得られなかった思い出の品なの。
屈辱の記念品なの。
私が生まれた時、父は
なんだ、女か。
と、言ったと聞いたわ。
今度は男を生め、
と、母に言ったそう。
弟が当たり前に、してもらっていることが、私は、してもらえなかった。
弟はいつも、父の膝の上に座っていたわ。
私も座りたかった。
弟がいない時、急いで父の膝に座った。
父が一言、
重い。
って言った。
その一言の冷たさに、あわてて飛びのいたわ。
その時、父の膝は私に無縁のものだと、悟ったわ。
下の弟の首がすわると、二人の弟が膝に座った。
私は、もう、なにも思わない事にした。
父のために、苦しむ事はないと。
“女のくせに、”って、よく言われたわ。
だから、殿下に会って、落ち着かなかった。
大切にしてもらっても、大切にされることにも、愛されることにも慣れてないの。
だから、生まれ変わらずに、待っていて欲しいと言われた時は、返事に困ったわ。
次は、絶対、男に生まれて、好きなように生きようと思っていたから。
殿下が、私を変えた。
だから、お腹の子が女の子なら、愛してあげて。
私の分まで。
おてんばでもいい、我がままでもいい、好きようにさせてあげて、
私がさせて貰えなかった分、お願い。
孔雀って、きれいね、
ガァ~~
グァ~~
でも、声と、姿が一致しない。
凄い美人が、がらがら声だったみたい。
天は二物を与えてないのね。
でも、仏像が蓮の上に座って、蓮が聖なる花といわれるように、蓮の上に座る仏像、そのまま孔雀の上に乗せているなんて、孔雀も聖なる鳥、なのね。
孔雀明王の事よ。
だから、孔雀は頭に冠をのせているのね。
多分、鶏冠の一種なんだろうけど、本当に冠だわ。
鶏冠なんて、あの冠に、失礼よ。
殿下、今日はありがとう。
馬車にもどるわ。
手伝うよ。
さあ、俶、行こう。
俶が、先に乗って。
次は、ダチョウだって、
見る、帰る?
杏、決めてよ。
せっかくだから、見ましょう。
蓮が喜ぶわ。
馬車がダチョウの柵に着いた。
大きな鳥だなあ。
ダチョウがこちらを向いた。
俶、降りて見よう。
父上より、ずっと大きい。
ちゅく、もう帰る、
あの鳥、可愛くにゃい。
そうか、じゃ、これで、帰るぞ。
杏も、見なくていいか?
飼育員が、孔雀の羽根をもって現れた。
羽根を馬車に置き、ダチョウの説明をした。
ダチョウは飛べません。
あの大きな体を持ち上げる筋肉を、羽根は持っていません。
でも、とても速く、走ります。
若様は、動物好きと、お見受けしました。
また、おいでて下さい、
象の、ズンが、喜びます。
ウン、ズン、しゅき。
杏は、
お世話になりました。
羽根をありがとう。
と、言った。
馬車の中で、杏は、忠王にもたれた。
ありがとう。
私、幸せ。
よく、わかったわ。