舞馬銜杯
蓮、父上がいなくて、つまらないわね。
ン、
ちい上、にゃにちているんだろう?
今日は、元日だから、挨拶で忙しいって。
おい、帰ったぞ。
えっ、話が違う。
宴会は、興慶宮で行われるって。
知らなかったのは、私だけだったみたい。
だから、まあ、一休みしようと思って。
宴会には、いろいろな催しものがある。
百戯などが行われるが、俶に見せてやりたいのだ。
連れて行っていいものだろうか?
えっ、なんか、嫌な感じがする。
何で、なんだ?
この子、最近、いろいろな事を真似るわ。
雑技・軽業の真似なんかされたら、危なくて、困るわ。
確かに、それは言える。
どうしても、演目の繋ぎ目に、軽業は頻繁に行われる。
そなたの言う通り、同じ動作の繰り返しの舞踏より、俶の興味を引くだろう。
私と体を使って遊んだりしているから、尚だな。
ご免なさい。
蓮を喜ばせようとして言って下さっているのは、わかっている。
でも、私の体に赤子がいる時は、心を乱されたくないの。
妙な心配はしたくない。
杏、そなたの言う通りだな。
思慮深いそなたには、感心するよ。
陛下は、例年通り、大明宮で宴会をすると思っていたけど、興慶宮を新しくして、生活を新たにすると、言いたいのだなあ。
でも、最後の馬の演技は見せたいな。
百頭の美しい馬が、飾り物を付け、刺繍をした鞍を置いて、音楽に合わせて、頭と尾を楽しそう振りに、一つになって舞い、跳ねるんだ。
そして、終わると、四方に向かって跪いて頭をさげ、盃をくわえて、酒をすすめるのだ。
舞馬銜杯、と呼ばれている。
これなら、いいだろう?
そして、その後、象とサイが登場して、音楽に合わせて踊ったりするんだ。
動物の演技なら、子供は喜ぶ。
大きい動物なんか、俶、見たこと無いだろう。
見せてやりたいんだ。
悪い影響はないと思うけどなあ。
殿下の話を聞いて、私が見たくなったわ。
でも、私は、やっぱり行かない。
話を聞いただけでも、蓮が喜びそう。
連れて行ってあげて。
そのために、帰ってきたのね。
私、お腹の子と待っている。
誘わないで。
心を乱したくないの。
分かった。
俶は連れていく。
着替えさせてくれ。
さあ、一張羅を着て、おめかしだ。
俶、今日は楽しかったか?
うん、あんにゃ大きな動物、いるんだにゃ。
にゃんて名にゃの?
鼻の長いのが、象って言うんだ。
もう、一つのがサイって言うんだ。
お馬さん、どうだった?
うん、ちゅごかった。
きれいだった。
陛下、って、えらいんだにゃ。
まんにゃかに、しゅわって、えらしょうだった。
俶、俶がへいか、って言うと、へいかが悲しむよ。
俶は、おじいさま、って、呼ばなきゃ。
おじいちゃま、って。
その通り。
ちゅく、象ちゃんがちゅき。
今度、いつ、見れるかにゃ?
いつでも見れる。
連れて行ってあげるよ。
ほんと?
私も、見たい!
ただし、芸はしないから。
ただ、見るだけだよ。
それでもいいなら、三人で、寒くない日を選んで行こう。
暖かい日でないと、赤ちゃんが風邪をひくからね。
杏と俶が、忠王に抱きついた。
忠王は二人に押されて、後ずさりし、丸い寝台に倒れこんだ。
蓮と杏の二人が忠王の上に重なった。
息も出来ない程、幸せだよ。
息も絶え絶えだけど、しあわせー。