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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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杏の来し方

声がすると思って来てみると、殿下がおいでになっていたのですね。

俶も大変ね。

父上とお祖父さまの話に付き合わされて、

そろそろおっぱいの時間です。

俶が、口をもぞもぞさせています。

忠王から俶を受け取り、側の椅子に腰をかけ、授乳をはじめた。

忠王は肩ごしに、俶を見ていた。

私にこんな穏やかな時がくるとは、

杏、しあわせだよ。

だけど、私はいい父親になれるか、不安なんだ。

私は皇帝としての父上は知っている。

でも、父親としての父上はよく知らないんだ。

父上は皇后様のところににはほとんど来なかったから。

どんなふうに接したらいいのか、まるでわからない。

気がついたら、いろいろ教えてほしい。


私も、母親初心者です。

ただ、私がなぜ自分で授乳しようとしたかを、お話しします。

まず、私を知っていただきたく、長い話になりますが、話させていただきます。

私は濮陽で生まれました。

河北の東寄りの地です。

私は職位とかはよくわかりません。

父は県の上から何番目、とかいう立場だったと思います。

上の方ではありません。

殿下の知らない世界です。

偉い方がたの朝廷では、小役人と呼ばれる者です。

そんな父が転勤になりました。

四川です。

私の幼い時のことです。

母は大喜びで、父の意向などお構い無しで、引っ越しの準備をしたそうです。

母は自分の知らない世界に行ける、と喜んだのです。

これが、陝州や汾州なら行かなかったと思います。

母は四川でいろいろなお茶を楽しんだそうです。

ある時、父のもとに愛州(今のベトナム)から知りあいの方が訪れて、手土産に花茶を下さったそうです。

殿下には、珍しくもないものでしょうが、幼い私は、机の上に座って、器をのぞきこんでは、蓮の花が器の中で茶を注がれ開いていく様子に見入って、動かなかったそうです。

母はそんな娘を見て、蓮の花をとってきては、見よう見真似で、針でいろいろ縫ってみたそうです。

いただいたお茶は飲むより、見るのに使われて、すぐになくなったそうです。

四川のことは、何も覚えていません。

ただ、茶を注がれ、花が開いていく様子だけが、四川の思い出です。

愛州から来た方と、四方山話よもやまばなしをしていて、花茶をつくる人は蓮の葉や茎でお茶を作ると、母は聞いたそうです。

母のことです。

早速、蓮の葉や茎をとってきて、細かく切って干しました。

乾くと、お茶として飲んでみました。

あまりおいしい物ではありませんでした。

この地で弟が生まれました。

母は大きなお腹で、花茶や蓮のお茶を作っていたのです。

母は弟を乳母に任せていました。

一応、役人の家です。

それが当たり前で、なんの不思議もありません。

私も、同じ様に乳母に世話になっていました。

短い赴任期間がすぎ、濮陽に帰ることになりました。

引っ越しの時、私は、

父上は愛州に行ったらいいのに、

と言って、皆に笑われました。

愛なんて、名前が素敵だと思い勝手に楽園のような所だ、と思い込んでいたのです。

花茶の印象もあったと思います。

唐の国の南の果てで、よく失態を演じた者が配される所だと、後で知りました。

濮陽に帰ると、また、弟が生まれました。

そんな時、父の知りあいの方が罪に問われるようなことをしたそうです。

父とは付き合いがあったそうで、父も、罪に問われたのです。

あっ、父の弁護をしている訳ではありません。

疑われるようなことをした父が悪いのです。

父は刑に処されました。

そして、私たち四人は来たこともない都、長安に、官奴婢として掖庭宮にはいるために、連れてこられたのです。

父の罪を償うため、私たちは働かなければなりません。

その時、母は四人目の子を、出産直前の子を宿していました。

奴婢なのですから、出産直前まで、慣れない仕事をしていました。

母は掖庭宮で三人目の弟を生みました。

乳母などは考えられず、母はみずから授乳をしました。

私も、五、六才で、あまり役にはたちませんが、それなりに働きました。

弟たちも、それぞれ定められた年令になると、馬の世話をするため牧場に連れていかれました。

弟たちがいなくなって、私に月のものが来た時、母が言ったのです。

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