突然の訪問
外がうるさいけれど、何かあったのか?
永王様が、お越しになられて、
申王妃様に、ご挨拶したい。
と、おっしゃっています。
留守だと言ってくれ。
そのように申し上げたのですが、
待たせてもらう。
と、おっしゃっています。
仕方がないな。
私が行く。
やっぱり居た。
王府に行っても、居たためしがない。
一体、兄上は何処にいるのかと、後を付けていたのだ。
だが、いつも、見失っていた。
この前いなくなったのは、この辺りだったと、散歩がてらにうろついていたら、懐かしい匂いがした。
確信したよ。
母上の匂いだ。
“兄上はここにいる。”と、ね。
澤、冷えたのしか残ってないよ。
兄上、私が油菓子を食べたくて訪問したと、思っているのか?
あの頃の私ではないのだよ。
でも、この屋敷は凝っているな。
すごいよ。
こんな屋敷を賜っているとは。
兄上は、やっぱり陛下に愛されているんだ。
皇太子どころでは、ないよ。
やっぱりだなんて、母親の腹の中にいた時、殺されそうになったんだぜ。
愛されている訳ないよ。
あっ、私もだけど、小さい声で話してくれないか。
子供に、聞かれたくないんだ。
申し訳ない。
配慮が足りなかった。
陛下、よく母上の処に、母上じゃないな。
母上の住まいではあるけれども、部屋には入らなかった。
外で、柱の影から兄上を見てたよ。
高力士も一緒だった。
高力士だけの時もあったよ。
エッ
本当か?
兄上は、母上しか見てないから、気が付かないんだ。
一ト月に、一回か二回。
すぐ帰るけどね。
兄上、知らなかったのか?
兄上、愛されているんだ。と思うと、羨ましかった。
だから、うんと世話をさせよう。
と、思ったよ。
澤、ここの屋敷の事は、誰にも言わないでくれ。
事情があるんだ。
今日は、悪いが帰ってもらえないか?
そなたの、さっきの話、心構えなしでは聞けなかった。
今、私は動揺している。
兄上、
ここには、兄上の心を掴んで放さない女子がいるんだろう。
ちょっとでいいから、逢わせてほしい。
頼むよ。
忠王は、椅子によろけながらすわった。
今度にしてくれ。
すまない。
私も、出かけたい。
悪いが、明日だ。
ちい上、なにちているの?
あっ、ちい上のおとおとしゃんだ。
俶、いい子だから、母上といなさい。
うん、いいよ。
みゃたね。
俶は手を振り、走っていった。
てん、ちぃ、げぇん、おう、
兄上の子と思えない、賢さだな。
母親似なのか?
澤、私を怒らせたいのか?
わかった。
じゃ、帰るよ。
またな。
杏、用事が出来た。
ちょっと出かけてくる。
弟さん、すごいわね。
よく、探し出したわね。
あっ、気をつけてね。
わかっている。
私に何かあったら、そなたたちが心配だ。
気を付ける。
俶、好き好きしてくれるか?
俶にしてもらうと、元気になれる。
ザワザワした心が治まってくる。
なんて、かわいいんだ。
俶は、父上の心のお医者さんだな。
私は、幸せなんだ。