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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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思い出の油菓子

俶、今日はおいしい物を食べよう。

呂、頼んだよ。

ちい上、にゃあに?

今日は、父上が小さい時、弟と一緒に食べた、油菓子を作ろう。

俶は、多分、今まで食べた事ないと思うよ。

おいしいんだ。

庭に面した廊下に、料理器具がおかれ、料理人が器で材料を交ぜている。

さあ、離れよう。

窓を開けて、部屋の中から見るんだよ。

何度も見たけど、料理する人、油がはねると火傷するんだ。

火傷は、痛いし皮膚が膨れるんだ。

痕も残るしね。

だから、食べる私たちは、火傷しないように、離れていよう。

俶には、熱くて痛い思いをしてほしくないからね。


杏もおいで。

料理のやり方、見たいだろう?

体が、しんどいなら、椅子に座っていなさい。

もう、私、元気よ。

それに、初めてだから、やっぱり見たい。

俶は椅子に立ってだけど、杏は椅子に座って見て。

あっ、出来たみたい。

二人とも、食卓に着いて、

熱いから、ふーふーして冷やしてね。

俶、あわてないでね。

たくさんあるから、好きなだけ食べていいんだよ。

ちい上、おいちぃね。

はあ上、おいちぃ。

りぇん、これ、いっとおちゅき。

それは、よかった。

杏はどう?

私や蓮に、食べさせたがっていたのがわかるわ。

初めて澤が食べた時、私のお皿から取ったんだよ。

取ったっていうより、奪ったって言い方の方が、正しいかな。

澤って、だあれ?

父上の弟だ。

父上は皇后様に、育てられた。

十才の時、そろそろ三才になろうかという澤が母親を亡くして、来たんだ。

皇后様に育てられるためにね。

最初、母親を恋しがって、寝ると泣くんだ。

皇后様が、最初の頃は起きて、あやしていたんだけど、

次の日、皇后様の顔が、綺麗じゃないんだ。

眼は腫れて小さいし、顔、全体がむくんでいる。

私は、美しい皇后様が好きだから、

私が澤と一緒に寝るから、皇后様は起きて来ないで、

って、言ったんだ。

澤が、泣き出しそうになると、背中を軽くたたいて、

ここにいるから、大丈夫。

って、声をかけるんだ。

すると、また寝はじめるんだ。

それはいいんだけど、おねしょをするんだ。

おねしょをされると大変で、澤だけでなく、私まで着替えなきゃ、

それと、布団まで変えなきゃ。

特に、冬は寒くてね。

ぶるぶる震えながら、着替えた衣、交換した布団の中で、寒いから抱き合って寝るんだ。

毎晩だからね。

だから私は、考えた。

おねしょをさせないやり方をね。

おしっこをする前に、起こして、おしっこをさせようと。

起きるのは大変だけど、着換えるよりかは、ましだと。

でも、起こしても、ふにゃふにゃして動かないんだ。

何度かやってみて、外の警護の人に頼む事にしたんだ。

抱いて行って、抱いたまま、おしっこをさせてほしいと。

お礼も言ったけど、皇后様に事情を話して、定期的にお礼をするようにしたんだ。

これからも、頼みやすいようにね。

警護の人の一人が、上手いんだ。

抱いた澤の体を前につきだし、声をかけるんだ。

おしいっこっこっこ

ってね。

しばらくすると、ふにゃふにゃ寝ていた澤、チョロチョロおしっこをするんだ。

夜、おねしょをされないのは、随分助かったよ。

俶、聞いてて自分の事かと、思っただろう?

父上は、弟は手間がかかって、大変だったけど、大きくなった今はいい思い出だ。

あの時、澤を世話したから、俶を上手に世話できる。

俶なんか、おねしょなんかした事ないから、おねしょをした時の気はずかしさなんかは、わからないだろうなあ。

皇后様には感謝されるしね。

澤は、兄上には頭が上がらないわね。って、

だから、俶を世話するいい父親になれたんだ。

俶、油菓子おいしいだろう。

たくさんあるから、王宅に持って行こう。

兄弟は手間がかかって、大変だ。

でも、いい事もあるからね。

この前、誕生会に来た叔父上、あれが澤だ。

馴れ馴れしいだろう。

呼んでもないのにやってくる。

会ったとたん、小さかった頃の二人になるんだ。

皇后様の話ができるのは、澤だけだ。

澤も皇后様に大切にされていたからね。

寝不足の時の、腫れぼったい顔の話も、今なら、笑って話せる。

だって、その時、私は澤に、

母上の美しい顔が、そなたが、夜起こすから、変になっている。

って、責めたんだ。

二人だけの時の話だよ。

母上の前で、そんな事を言ったら、叱られる。

弟には、優しくね。

嗣昇ちゃんはいい子なんだから。

ってね。

皇后様が亡くなって半年後、陛下が皇子たち皆の名を改めた。

そして、今の凌になったんだけど、皇后様といっしょにいる時は、初めて会った時から、ずっと嗣昇だった。

嗣昇という名は、皇后様との思い出がつまった名前なんだ。




さあ、たくさん出来た。

係たちに持って行こう。

俶、俶は、私の長子だ。

係は、上手にしゃべれても弟だ。

係に、これからは、兄上と呼ばせるからね。

陛下に注意された。

長幼の教えがなされてない、とね。

叱られるのは私だ。

俶の方からも、係が出来てない時は注意してくれ。

頼んだよ。

俶、たくさん食べたか?

もう、いいか?

杏と赤ちゃんはたくさん食べたか?

少し残しておこう。

赤ちゃんが、

もっと食べたかった。

って、言う気がする。

俶、兄弟って、大きい方が世話しなければならないから大変だけど、大きくなったら、父上や母上の同じ思い出を語れる仲間になるんだ。

私も、もっといい父親になるから、俶も、いい兄上になってほしい。

ちぃ上、呂の分は?

そうだった。

忘れていた。

今日は、出かけるのをやめて、家の皆に配ろう。

宮女やみんなにもね。

皇后様のやり方だ。

息子の私が踏襲しなければな。

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