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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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智永の千字文

ちぃ上、たにょちかった。

はぁ上よぉり、ちゃかくとべちゃよ。

ちゃかいと、みゃわりが、よく見えちゃ。

それは、良かった。

母上は、女子だから、背が低い。

仕方ないんだ。

それに、力も弱いからね。

今まで、腕が痛いと、言いながら、よく蓮のために、頑張ってくれていたと思うよ。

呂は、やっぱり男だから、力も強いし、背も高いから、蓮を高く持ち上げられるんだ。

じゃ、あと十カ月、呂と遊んでもらおう、な。

呂、これからも、相手をしてもらうようになると思うけど、頼むな。

一休み、しましょう。

喉が、乾いたでしょう。

なんか、あるみたいだな。

皆で行こう。

呂もいっしょだ。

果汁を用意したわ。

呂、仕事を増やして、ごめんなさいね。

蓮、もう、上手に飲めるのよね。

はい、殿下。

はい、呂も。

お気づかい、感謝します。

皆さまとは、緊張して、とてもご一緒できません。

下がらせていただいてから、飲みます。

失礼します。

杏、呂の分も用意してくれて、ありがとう。

蓮が、呂と、とっとしたら、高く飛べて、楽しかったって、喜んでいた。

良かった。

私が、急にしなくなったら、赤ちゃんのせいって、すねられたら、つらいと思っていたの。

杏、そなたも果汁、飲んだのか?

赤ちゃんのためにも、ちゃんと、飲むように。

おいしい物も、たくさん食べて、よく休むように。

体、いたわってくれよ。

かわいい娘を、体の中で育てているのだからね。



一休みしたら、字の勉強をしようか?

杏、書き順、困ってないか?

細筆で、横に数字を書いておこう。

知ってるか?

千字文は、四言、二百五十句だから

使われていない字が、どうしてもあるんだ。

画数が少ないのでは、数字の三、山、小、弓、乙なんかだ。

だから、一、二、三、四、五、六、七、八、九、十を、別の紙に書いておく。

私が、手本に、書き順通りに数字を書いておく。

数字の紙を、目の前に貼っておけば、すぐに、確かめられる。

これで、効率的に、学べる。

手本に書き込むなんて、これも、陛下のおかげだ。

智永の千字文、貰って、帰ろうとしたら、叱られた。

そなた、まさかそれをそのまま、手本にするつもりか?

とね。

気のきかないそなただから、あらかじめ、摸本五部、搨本五部、作らせておいた。

智永の千字文は、大切にしまっておくように。

実際には、摸本か、搨本のものを、使うように。

俶が、墨をこぼしても、叱らなくてすむ。

右側の、楷書の方を書く時は、手本を折って、楷書だけが、見えるようにしたら、気が散らずにすむ。

全部で、十部あれば、気楽につかえる。

どれも汚なくなったら、また、摸本か、搨本を作らせればよい。

だから、原本は、大切にしときなさい。

それと、太子の住まいは、建ててまだ人がはいっていない、今ある邸を皇太子用に改築するようにする。

二軒か、三軒かは様子をみながら決める。

でないと、朕の興慶宮行きが遅れる。

朕は、興慶宮で、新しい年を迎えたい。

年内には、太子が王宅に移れるだろう。

崇文館は、弘文館を小ぶりにしたものだから、楷書手も、搨書手も、いる。

太子に頼んで、崇文館のそれらの者に、智永の千字文を、兄弟たちのために、摸本三部、搨本三部づつ作らせなさい。

楷書手、搨書手に原本を渡すようになるが、その日の内に、返してもらうように。

まだ出来ていなくても、返してもらい、また、次の日に改めて渡すように。

太宗様はご自分が、人を騙すようにして、蘭亭序を手に入れたから、用心深く管理されていた。

蘭亭序を手に入れたいきさつは、皇帝らしくなく、本人も恥ずかしく思われていたと思うよ。

だから、手にいれた原本には、貞観、という印をおしていた。

摸本も搨本も、作っている時は、たくさんの同じ物がある。

原本と間違える事を恐れたのだ。

皇帝陛下の大切にしている物は、みんな、当然、注意深く扱うと思うがな。

当時、智永の千字文は、南朝の寺寺に、八百部程、配られたという。

太宗様の生まれる、二、三十年前の事だ。

だから、手に入れるのは簡単だった。

簡単だから、あまり値打ちがあると、思われていなかった。

でも、太宗様は、王羲之ゆかりの者として、手に入れられていた。

だから、貞観、の印が押されている。

朕も、太宗様にならって、自信のある自作の書には、開元、の印を押すようにしている。

子孫に見てもらって、偲んでもらえれば、本望だ。

この千字文は、太宗様の収集された作品の中では、特に話題になるような物ではない。

だが、今では手に入りにくい。

この機会に、兄弟全員に、作って渡すのだ。

皇太子には、

崇文館を利用させていただいて、ありがとうございます。

と言って、五部づつ渡しなさい。

礼は尊重し、かつ、恩は売っとけ。

少しでも、俶に、感謝させるようにしなさい。

その時、そちの家の分も、作らせなさい。

平等に見えるようにな。

そうしておけば、そなたを、皇太子にする時、兄弟たちは反対しにくくなる。

こんな事一ツで、上手くいくとは、考えないように。

こんな事の、積み重ねなのだ。

これからは、他人に、自分がどう見えるかを考えて、行動するように。

との、ことであった。

私には、自信がないよ。

俶に、分別がついたら、そなたが、俶に教えるのだ。とも言われたよ。

そなたも、陛下の話を考えて、助言をしてほしい、

それと、係が俶のことを、 “俶”と、呼び捨てにしていたから、注意して改めさせるようにとの、ことだった。

俶は長子、長幼の秩序を守らせるように、とのことであった。

私は、本当に気がきかないな。

こんな事を注意されるなんて、

恥ずかしいよ。

それじゃ、数字、書いとくよ。

陛下の言う通り、折った方が使いやすいと思うよ。

俶の、道具の用意をしておいたら、二、三日後には、俶が真似っこをして、書き始めると思うよ。

楽しみな子だ。

無理強いじゃなくて、好奇心を刺激したら、いいんだね。

ようやく、私にも、わかってきた。

おお、俶か?

これから、母上は、字の勉強だ。

俶は、父上と、お昼寝だ。

さあ、行こう。

呂が、新しい遊びを教えてくれると言っていた。

明日が楽しみだね。


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