十王宅
実は、そなたに聞きたい事があってな。
十王宅、皆の様子はどうかな?
一応、十邸は建っていますが、全部には入っていません。
東宮の事なのだが、朕が、興慶宮に移るとなると、宮殿には後宮の者しか残っていない。
はっきり言って、心配なのだ。
朕が居るから、控えていた者が、居なくなると動きだすかもとな。
池で溺れるとか、鞍に細工され落馬するとか。
だから、どこかに居を移させようと、考えている。
だが、どこを考えても、やはり心配なのだ。
力を持つ者が、金にものをいわせて、または、地位を餌にして、人を動かすのではないかとな。
人の眼があり、利害が一致しない人がいるところ、と考えると、十王宅が、どうかと思えてな。
立ち入るには、必ず検閲される。
狭いぶん、変な事をしていると、目立つ。
特に相手は皇太子だ。
皆、注目している。
誰だって、疑われたくない。
それと、太子が十王宅に住むとなると、東宮の教育機関、崇文館も一緒に来ることになる。
十王宅の皇子たちも、城から出て、大学に通わなくてもいい。
小学にいく者は宮城に行かねばならんがな。
年明けに、十五才になるものは大学に行くようになるので、崇文館に行くことにしたらいい。
十王宅の半数くらいだろう。
合わせても、五、六人だ。
多い数ではない。
太子と一緒に学べばいい。
そなたも、遠いから行くのがおっくうとは、もう言えまい。
そのかわり、絶対、遅刻はできない。
太子の恩恵を受けるわけだから、太子を迎えなければならない。
遅れて行くのは、もっての他だ。
十王宅の敷地内にあるのだから、無理ではなかろう。
朕の、今、言ったこと、どう思う?
学力差は、侍読を増やして、分けて講義をすれば、問題あるまい。
当然、よい侍読は太子に、まわすがな。
そなた、この案、どう思う?
そなたの意見が聞きたい。
さぼりまくっている私には、何も言えません。
陛下のお考え通りでよろしいのでは。
十王宅に太子が住むとなると、二邸分の敷地に邸を作らねば。
ついて来るものも多いからな。
だが、十王宅はまわりを囲っているから、警備は安心だ。
その分、人数を減らせる。
今まで、あまり馴染みがなかったけれど、毎日、いっしょに学べば親しくもなる。
狭くなるし、待遇の差がはっきりと見てとれるのは、嫌だと思う者もいるだろう。
だが、我慢してもらわねば。
太子の命にかかわる事だからな。
この事は口には出すなよ。
朕は、まだ若いうちに、兄弟が交流をして、仲良くしてもらいたいと思っていると、口にする。
太子の命、などと言うと、悪さをしようとする者が、気付くからな。
警戒されたら、以後、やりにくい。
だから、太子もだが、皇子たちも、お互いが我慢だ。
父親のわがままに、付き合わされていると、思ってくれて結構。
そなた、まさか、自分は関係ないなどと思ってないな。
他人ごとと思ってないな。
すべて、そなたたちのためなのだ。
わかっているのか?
わかっています。
私と俶のためなのですね。
そうそうに、皇太子に死なれたら困るのですね。
俶が成長するまで、生きていて貰いたいのですね。
本当に循なのですね。
なんだか、申し訳ないです。
でも、父上のお考えに従います。
知っているのに、知らない顔をして利用する。
私には、きつい使命です。
そんなこと考えるだけでしんどいし、辛いです。
なに、言っている。
杏のためだと思いなさい。
そなたは出来る。
死後、杏と過ごそうと思うなら、そなたは、する。
他人が、汚ないという事でもな。
杏と俶のために、生きている、
そなたはな。