誕生会の出来事
やっと帰ってきた。
心配したわ。
門のすぐ側に立って、忠王に声をかけた。
抱かれた蓮が、父親の胸に顔を埋めた。
なにかあったの?
まあな。
話は入ってからだ。
部屋に入っても、座った忠王の胸から顔を離そうとしない。
教えて?
今日の俶は、賢いって、皆びっくりだったんだ。
なあ、俶。
ちゃぁう、
にゃまえがおんにゃみたいって、
殿下、言葉を話していますよね。
私の蓮ですよね。
りぇんじゃにゃい。
ちゅくだよ。
私の子供の中で、一番年上だけど、言葉が遅いって言ってただろう。
自分より、小さい弟がペチャクチャ話しているのを見て、随分と衝撃を受けたみたいだ。
それと、係、すぐ下の弟が口がたっしゃなもので、俶がモゾモゾ言ってる間に、言いまかすのだ。
だから、俶も対抗してしゃべっているうちに、この通りだ。
私も、びっくりだ。
そして、陛下がきて、
俶、おめでとう。
大きくなったな。
って声をかけられたのだ。
俶が
ちゅくじゃない、りぇんだよ。
って、答えたので、
また、係が
へんなの。って、
チャチャいれたんだ。
大勢で住んでいたら、みんな負けじと、逞しくなる。
一人で、おっとり育っている俶には、今日は、刺激的な一日だっただろう。
また、「俶 」と陛下に呼ばれて、「蓮 」と答たのも、係の攻撃の材料にされて、俶の 厄日だった。
外交初日は、辛い思いをさせてしまった。
殿下のおっしゃる通りに、なったのですね。
嫌がるように、なったのですね。
私も、俶と、これから呼ぶようにします。
まあ、そんなに早まることはない。
呂、花茶を持って来てくれ!
俶、これを器に入れてくれないか?
頼むよ。
ウン
急にしゃべれるようになったので、
父上は驚いたよ。
俶はすごいな。
お茶を注ぐから見てておくれ。
父上も初めてなんだ。
母上は、これを一日中見てたそうだ。
何でだろうね?
チイ上、これにゃに?
きれぃ。
これが、蓮なんだ。
綺麗だろう。
母上は、小さい時、これを一日中見てたそうだ。
フウン
俶は、上陽宮で生まれたんだけど、周りが川で、この花、蓮が、たくさん咲いていたんだ。
覚えていないかな?
母上は蓮が綺麗だし、小さい時から好きな花だったから、男の子なら蓮、女の子なら蓮児と、名前をつけたいと思っていたんだ。
だから、陛下に頼んで、子供の時だけ呼ばせてもらうことにしたんだ。
だって、陛下は “俶 ”って名前をつけてくれていたからね。
俶の、幼名としてね。
チイ上、みょっとみぃる。
母上みたいだな。
母上の子供だから、仕方ないか?
だから、「蓮 」と、呼んだこと、怒らないでくれ。
ウン。
蓮は、忠王の膝からおりて、杏のもとに行った。
かがんだ母親の首に両手をまわし、はなちゃ、きりぇだにゃ。
と、言った。
「りぇんで、いい。」
ありがとう。
“蓮”
花の名前で、ごめんなさい。
杏、今日は、そなたのおかげで、俶、陛下に褒めたんだよ。
係に、やられっぱなしじゃないよな。
しゃべりで、負かされたものだから、頭のよさで、反撃だ。
杏の千字文のおかげで、皆、びっくりだ。
天、いち、にぃ、ちゃん、ちぃ、天
地、いち、にぃ、ちゃん、ちぃ、ごぉ、りょく、地
宙に、書いてみせたんだ。
陛下が、喜んで、王羲之七世の孫の智永禅師の 真草千字文 を貸して下さるとのことだった。
他人の手前、大切なものだから、下賜するとは言わなかったけど、多分、返さなくても、いいんじゃないかな。
だって、意味ありげに、私を見たんだ。
明日、取りに来いって。
そなたの手本に、使えると思うと、気分がいい。
俶にはまだ早いし、そなたが書いていると、すぐに真似をするから、俶の勉強にもなる。
ああ、よかった。
殿下って、思いがけず教育熱心だったのですね。
私は、自分が出来が悪かったから、息子の出来がいいと、こんなにうれしいものとは、知らなかった。
ずうっと大学を休んでいる。
王宅だから、サボると、わかるからなあ。
これからは、ちゃんと大学に行くようにするよ。
質問されても、答られるようにしとかないとな。
杏、早く女の子を生んでくれよ。
生まれたら、もっと頑張れる気がする。
頼むよ。