表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
52/347

皇后様の油菓子

わかった。

協力するよ。

誕生会は明後日だ。

だれも呼ばずに、家族だけの、内々の集まりのつもりだ。

王宅で、派手に兄弟を呼ぶと、後々、気を使って、皆を呼ばなければならなくなる。

まあ、陛下は、当然来るだろうけど。

陛下が来たら、私の邸のまわりは、気にする連中が、偵察の人を寄越して、さぞ賑やかな事だろう。

皆、陛下の言動は気にせずにいられない。

あっ、それと、呼ばなくても、やってくる弟が一人いる。

永王、澤だ。

あの者は、小さい時に母親を亡くして、皇后様のもとに、来たのだ。

皇后様は正室なので、陛下のすべての御子の母親という事に、建前はなっている。

だから、私のように、皇后様が育てることになったのだ。

その時の私は、皇后様が本当の母親だと思っていたけどね。


嗣昇ちゃん、あなたの弟よ。

嗣昇ちゃんは、いい子だから、いい兄上になってくれるわよね?

いい兄上に、なってくれたら、私、嬉しい。

心配しないで。

澤をかまうと、嗣昇ちゃん、

母上は澤の方が、好きなんだ、と、

誤解するかも知れないから、言っておくけど、

母上には、嗣昇ちゃんが一番。

澤は、母親を亡くした、可哀想な子なの。

二人で大切にして、愛してあげましょうね。

澤を大切にしているからといって、すねないでね。

それだけが、ちょっと心配。

と、言って、ほっぺにほっぺをあてて、抱きしめてくれた。

澤は、今の蓮より、ちょっと大きいくらいの時だった。

私は十才だったかな。

澤とは八才違い。

私は、皇后様の気持ちにこたえようと、まあ、頑張ったって訳。

小さいのが、走りまわって、皇后様の大切にしている物をひっくりかえしたり、壊したりで、怒るに、怒れず、私もだけど、皇后様もしんどい思いをしたと思う。

時々、二人で顔を見合わせたりしたよ。

でも、おかげで、蓮を育てるのに役立っていると、思う。

子供はこんなものだと、思えるからね。

澤は、呼ばなくても、多分やって来ると思う。

ただ、言っておくけど、私に似た容貌をしている。

もっとよくない、と言う者もいるけどね。

そなたが、いい顔になったと言うのなら、

澤、私を見て、なにか言うかもしれない。

“どうやった?”

ってね。

でも、澤のおかげだよ。

蓮のおしっこにも、ウンチにも、たじろがなかったのは。

ああ、そろそろ、蓮も、油であげたお菓子、食べさせても、いいかな?

皇后様は、陛下と宴にでると、同じ食べ物を私たちに届けてくれてたんだ。

その中に、油であげたお菓子があって、私は何度か食べていたけど、澤が、初めてらしくて、私の分まで取って、手で囲ってガツガツ食べたんだよ。

私に取り返されると思ったんだ。

蓮にも食べさせないと、あんな食べ方して貰いたくないよ。

皇后様は、その話を聞くと、我慢した私を褒めてくれて、二、三日後、庭に面した廊下で、賄いの者に頼んで、油菓子を作らせたんだ。

私と澤に、ある程度食べさせてから、まわりの侍女たちにも、おすそわけと言って、配ったんだ。

匂いにつられて、見にきた宮女たちにもね。

その時から、時々、私に聞くんだ。

そろそろ、作ろうか?

って、

いつも、答は、

うん、

澤も、もう、あんな食べ方はしなくなった。

皇后様が亡くなった時、皆、油菓子の事が、頭にあったと思うよ。



だから、澤は私に遠慮がないんだ。

蓮をみたら、あいつの事だから、

どうやったら、あんな子が生まれる?

って聞かれる気がする。

兄上に生まれたんだから、私にも、可能性がある。

と、言ってね。

私にとって澤は、皇后様との思い出に繋がる、たった一人の者なのだ。

私には、ちっとも益はないが、大切な弟なのだ。

油菓子を作る際は、油は料理する時、はねてあたると怪我をするから危ないと、側に行かせてもらえなかった。

だから、部屋の窓を開けて、椅子に乗って料理をする所を二人で見てたんだ。

出来たら、すぐに食べようと思ってね。

食べ慣れても、飽きる事はなかった。

粉に、卵と牛の乳をいれて混ぜ、その後、蜜をいれるんだ。

粉のお菓子は、皇后様の小さい時はなかったそうだ。

油菓子は、胡の食べ物だそうだ。

中国では新しい食べ物だ。

だから、珍しかったのだね。

皇后様、本当は大好きなのに、ゆっくりとお上品に食べてた。

私たちのように、何度もお代わりはしなかった。

最初に取り分けたのだけ、食べてた。

私にはわかっていたから、私のお皿から、時々、皇后様のお皿にお菓子をそっと移したんだ。

そしたら、皇后様、目を丸くして私を見るんだ。

嗣昇ちゃんは、優しいのね。

それを聞いた澤が、あわてて私のまねをするんだ。

澤は、そっとではなく、豪快にドサッとね。

そして、空のお皿を振り回して、お代わりするんだ。

蜜が、甘くておいしいと、その時知ったんだ。

蜜を使うのは宮中くらいだって。

店で売っているのは、蜜ではなく、さとうきびの絞り汁を使うそうだ。

だから、私たちだけでなく、宮女たちまで、楽しみにしてたんだ。

皇后様、私たちがお皿にいれたお菓子、

せっかく皇子たちが譲ってくれたのだから、

と言って、時間をかけて、全部食べたんだよ。

後で、私たち二人に、

堪能したわ。

ありがとう。

でも、もうしないでね。

食べられない人がいるから。

って、笑って言ったんだ。

皇后様の笑いは、最高に美しかった。

そなたに、そっくりだった。

澤が、そなたを見たら、驚くだろうな。

私を羨むだろう。

眼に浮かぶよ。

あっ、思い出した。

粉のお菓子はなかったと、皇后様は言っていたけど、皇后様には馴染みの粉だったって。

なんだと思う?

聞いて、目が丸くなったよ。

そして、悪いけど、笑っちゃった。

だって、顔に叩く、お化粧の白粉に使っていたんだって。

だから、昔から小麦の粉って、あったんだ。

小麦を臼でひいて粉にするのは大変な作業で、担当の奴婢がいなければならなかったんだって。

お金持ちなら、粉のお菓子を食べられたんだね。

今は、碾磑てんがいという石臼を改良した設備を川に設置して、水の流れの力で小麦を挽いているんだって。

だから、手間がかからないようになり、安く粉が手に入るんだ。

どこの川でも、碾磑が規則正しく、並んで設置されているんだって。

だって、水の流れの力を利用するわけだから、間隔をあけなければ、使えないだろう。

だから、持っている土地に川が流れていたら、運がいいよね。

なにもしなくても、碾磑が稼いでくれて。

面白い話だろ。

また、話は変わるけど、白粉、今の白粉、なんで出来ていると思う?

鉛だって。

子供の時、鉛の置き物があって、いい物ではないから、それこそ床に置いてあったんだ。

扉を開けておく時、使っていたんだ。

叱られないのがわかっていたから、面白半分に手元にあった小刀で傷をつけたんだ。

驚いたんだけど、木の表面を削るみたいに、いくらでも、簡単に削れたんだ。

削ったあとは、墨色だった表面が、銀色にきれいになったんだ。

ピカピカ光る銀色じゃないよ。

鈍く光る銀色だ。

一見、堅い物のようだけど、小刀で、子供が簡単に削れるのが、忘れられなかった。

だから、鉛が粉になるとは想像出来なかったけど、碾磑でひくなら、不思議とは思わない。

だって、鉛って、柔な金属だって、思いがけず知ってたからね。

白粉としては、使いがってがいいって。

でも、鉛を顔につけるなんて、私は気持ち悪い。

そなたには、白粉は必要ないね。

だって、きれいな膚の顔だ。

なんか、そなたには白粉、つけてもらいたくないよ。

私は、鉛だと知っているから、やっぱり感覚的に受け入れられない。

悪いけど、使わないでほしい。

頼むよ。

ああ、しつこいようだけど、蓮に食べさせる油菓子の事、考えておいて。

蓮もだけど、そなたに食べさせたい。

お皿に、てんこ盛りでな。

うれしそうに食べる姿が、想像できるよ。

考えるだけで、私も嬉しい。

私は、幸せ者だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ