蓮の幸せ
殿下、私、甘かったわ。
私は周りの人のことしか考えてなかったの。
一番気を付けなければならないのは、蓮なのね。
そして、自分がいなくなったら、すべて解決すると考えていたけど、そうじゃないのね。
死んだら大丈夫だと思っていたけど、存在そのものが、蓮には、苦しみの元になるのね。
あの子、私のことで、卑屈にならないように気を付けてね。
掖庭宮から来たのは、そなたを含めて三人だ。
そなたは、そんなに気にすることないよ。
他の二人も、親子ともども、なにも気にせずケロリとしてるよ。
だって、蓮、他の子と違うわ。
将来、皇帝になるのよね。
そして、私は謀反人の子なの、娘なの。
私だって、能天気に、毎日三人で楽しく過ごしたい。
蓮に、是非、皇帝になってもらいたいとは思わない。
私は、わが子の立身出世を願えるような、後押しできるような、頼れる後ろ楯をもつような、そんな立派な女子じゃない。
どちらかと言えば、蓮を、皇帝にしたくないと思っている。
でも、それは出来ないんでしょう。
陛下が、許さないでしょう。
皇帝に、ならなければならないのなら、せめて身内の厭なことで、苦しまないようにしてあげなきゃ。
私は、蓮の為には、表に出ない方がいいと、良くわかった。
陛下には、なにも言わないで。
私のような、卑しい者の事で、煩わすのは良くないわ。
行かないから、衣の心配はいらない。
これからは、公の行事も、私的な行事も、参加しない。
私も、そんな事で、悩みたくない。
ただ、死んだ時は、側室の衣を着せてね。
側室にもなれない立場の者が、厚かましいお願いをするのだけど、聞き入れてね。
美しい衣を着ているのを見ると、蓮が喜ぶわ。
生まれてくるはずの、娘も、女の子だから喜ぶわ。
悪いけど、行かない。
蓮は連れていってね。
呂に世話を頼んでおくわ。
私は、存在しない人間として、しばらくだけど生きていくわ。
蓮には、こんな母親で申し訳ないわ。
殿下、千字文、教えてね。
読めるのは読めるけど、あやふやで、自信がないの。
それと、書けない。
書き順が、わからない、
今から、学んで、蓮に本を正確に読んであげたいの。
次に読むところを、前の日には勉強しておく。
少しでも、蓮の役にたちたいわ。
思い出を作るの。
私は、他の側室の人が当たり前に、出来ることさえ、出来ないの。
情けないわね。
でも、やってみる。
蓮には、少しでも、幸せになってもらいたい。
役たたずで、手間のかかる妻で、ごめんね。
これからの、私の生き方、伝えたから。
悪いけど、納得して。
蓮は、私より殿下の方が好きみたい。
悔しいけど。
だから、居なくなるのが、私でよかった。
おっぱいの時、いつも私の後から、蓮の顔を覗いたりしていたから、蓮、私のではなくて、殿下のおっぱいを飲んだと思っているのかと、最近、思うわ。
なんか、損した感じ。
あっ、蓮の衣、親王の格式だったら、誕生会に着て行くの、兄弟と差があるのは良くないわ。
もし、まだ出来上がってないなら、お断わりして。
出来上がっているのなら、兄弟と、分けあったらいいわ。
陛下にお聞きして。
了解してもらって。
そんな事、言えないよ。
陛下にとってはささいなこと。
面倒がるよ。
でも、陛下のご好意よ。
一言、言っといて。
そして、
これからは、身分にあった装いをさせます。
と、ね。
殿下の息子として、他の兄弟と同じ格の服装が、一番ふさわしいわ。
でないと、変に目立って、他人の反感をかうわ。
蓮に、無用な敵を作ることになるわ。
殿下が、十王宅に住むようになれば、他の親王と近いから、お互いが見えすぎるようになる。
そして、噂が広まるのは、速い。
蓮を守るためにもね。
これからは、蓮、十王宅によく行くようになるわ。
父上に会うためにね。
それと、兄弟にね。
今に、殿下より兄弟の方がよくなるかも。
だから、公平にしてあげて。
蓮にはわかっている。
父上は自分を愛している、と。
だから、皆のいい父親でいてね。
蓮、喜ぶわ。