竜門
ごめん、ごめん、待たせて。
部屋の割り振りの時、居なかったから、兄さんに聞いてきた。
さあ、行こう。
疲れただろう。
少し、横になったらいい。
馬車はゆれるから、体にこたえる。
さあ、蓮、ちゃんと、母上を見ていてくれたかな?
ウン。
ありがとう、
父上の大切な母上だから、しっかりと、守ってくれよ。
ン。
蓮が男の子で助かるよ。
トット、
また、鳥さんになるのか?
ン
蓮、悪い。
ここは、天井が低いから、危ないんだ。
外で、いる時にしよう。
ヤア、
仕方ない、
一番上の階に行こう。
甘やかしすぎですよ。
いいじゃないか。
ダッコ
さあ、おいで。
杏は足元、気を付けて。
ほうら、周りがよく見える。
ここは、米倉も置かれていて、結構、重要な場所なんだ。
江南から送られてくる米だから、量が多いんだ。
前に言っていた黄河の難所が、この手前にあるからね。
さあ、目の前に黄河が見えるだろう。
蓮、むこう岸が遠くにあるだろう。
大きな河だろう。
蓮の知っている川は、蓮の花がいっぱい咲く川だ。
この河みたいに、激しく流れていない。
汚ない色の河だろう。
土が混じっているから、あんな色なんだ。
唐の国の中でも、大きさから言えば、一番か、二番だ。
杏、竜門って、知ってるか?
もちろんよ。
たくさんの、石仏が岩に刻まれているところね。
そうだ。
洛陽の近くにあるところだ。
もう一つ、あるのを、知ってるか?
いいえ。
もう一つあるの?
ああ、この黄河は、真っ直ぐな河じゃない。
この黄河を遡った、あと三か所目の宿泊所、潼関に向かって、北から流れてきて、潼関の堅い岩盤に当たり、流れを東に変えて、黄河は目の前を流れているのだ。
潼関に当たる前の北から流れてくる黄河沿いに、竜門があるのだ。
登竜門と言えば、そなたなら、わかるだろう。
あの登竜門なの。
そうだ。
立身出世の登竜門だ。
鯉が、その滝、激流を登りきると、雲や雨がその後にしたがう。
また、不思議な火が現れて、その尾を焼く。
すると、鯉は竜に変身するそうだ。
竜は天に登るけど、どうやって登るか知ってる?
ふつう、知らないよね。
竜は、その爪で雲をつたって天に登るんだ。
それだから、雲や雨を従えているんだね。
話を変えよう。
李家は、ここ陝州から、黄河をわたり、北にずっといった、太原と言うところで挙兵したんだ。
蓮がいるから、難しい話だけど、言っておく。
太原から三万の兵と供に長安を目指したんだ。
なぜ、太原にいたか?
北から突厥がよく領土に侵入するから、阻止するためにね。
いつも、敵として戦っている相手だ。
だから、挙兵しても、後ろから、突厥に、襲われないか心配だったんだ。
そこで、挙兵する前に、突厥と、約束したんだ。
挙兵して南に向かっていても、襲わないでほしい。
上手くいって、長安を手にいれたら、土地と人は李家がもらうけど、宝石など財宝は突厥に、渡すからってね。
突厥にとったら、いい話だよね。
なにもしなければ、財宝が手に入るわけだから。
そしたら、竜門に着いたとき、突厥が馬二千頭と、兵五百人を寄越したんだ。
李家にとっと竜門はそういう場所なんだ。
そのあと、黄河にそって北に向かった。
船を用意しようとしたんだ。
たくさんある所がなかなか見つからなくて、壺口に、着いたんだ。
いずれにせよ、長安に着くには、川を渡らなければならない。
舟橋が、必要な場合があるかもしれない。
だから、船を、百以上用意したんだって。
人もね。
船をあつかってもらわなきゃね。
だって、渭水、ああ黄河が潼関から流れを変えると言ったけど、黄河はもともとある渭水に流れ込んでいるんだ。
だから、渭水は潼関までの、川ってことになるんだ。
それからは、黄河に飲み込まれているからね。
だから、潼関にくるまでの北から南へと流れる黄河を東岸から西岸に渡るのと、渭水を北岸から長安のある南岸に、渡らなければならないから、橋がいるだろう。
その頃は、各地で反乱が起きていたから、あるはずの橋が行ってみると、長安を守るために取り除かれたりして、なかったりしたら困るからね。
それと、長安近くの永豊倉の米を確保するためには、橋が必用だからね。
当たり前だけど、その場所に着いて見て、橋がなくて、慌てなくてもいいようにね。
少し行った所で、渭水に橋をかけてもらい、永豊倉の米を、一部の兵に確保してもらうことにしたんだ。
そして、西渭橋まで行って橋を渡ったんだ。
橋はちゃんと、あったんだ。
長安の城はたいした抵抗もなく、まあ、無血入城したんだ。
長安より東、洛陽の辺り、そして河南では有力群雄が激しく戦っていた。
だから、戦わずに都、長安を手にいれたのは、幸運だったと思うよ。
煬帝の死の報を受け、高祖様は皇帝位に着いたんだ。
高祖様は、煬帝の政事には反対だけど、文帝のやり方を継承したいと表明したから、皆に支持されたんだ。
そして、群雄たちと戦って勝ち、統一したんだ。
だけど、その随分まえから、
河の南で 楊 が散れば
河北じゃ 李 の花ざかり
と、巷で歌われていたんだ。
やなぎ、楊氏
すもも、李氏 と、たとえているんだ。
煬帝が、どの李氏か気にしてね。
群雄の中には李密もいたしね。
李密は、家柄もいいし、切れ者だったから。
それに、高祖様は他人に警戒心をいだかす人じゃなかったからね。
すごいね。
予言歌って、当たるんだね。
驚いたよ。