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蓮華 代宗伝奇  作者: 大畑柚僖
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親王たちの改名

杏、今日はゆっくりと休めるよ。

どうしてですか?

もう、陝州に入ったからな。

陝州には、州城があるのだ。

県城と、違って規模が違う。

全員が屋根の下で眠れるってことだ。

大きい分、安心ですね。

蓮がいると、取りこし苦労ですが、つい心配してしまいます。

蓮に、何かあったらと、すぐ目覚めます。

毎日、寝る所が違うものですから。

その通り。

早く長安に着いて、そなたにゆっくり休んでもらいたい。

私の住まいは十王宅で、集合住宅だから想像はつく。

そなたたちの住まいが、気になって仕方ない。

興慶宮を広げたというから、伯父上たちの屋敷もどうなったか見たい。

蓮の屋敷は、永嘉坊だと聞いたけど、表向きは申王様の屋敷としているんだって。

申王様の屋敷は、別の坊に移ったって。

申王様は亡くなって、大分たつから家族の人にとっては、興慶宮の側にいるのは結構、気を遣うみたい。

なあ、この陝州は前に私の封じられていた州だったのだよ。

知らなかっただろう?

へえ、そうだったんですね。

ここ、いい処なのにね。

いろいろあってさ。

二年前まで、あしかけ十三年間、陝王だったのだ。

今は、忠王でしょう。

そうだ。

忠州、どこにあるか、知っている?

ううん、学問のない私に聞かないでよ。

学問は関係ない。

普通の人は知らない。

だって、私のために作られた新しい州なのだから。

役人位しか、知らないだろう。

どういう事?

皇后様が亡くなられたけど、皇后様は、なぜ、禁じられた呪術をしたと思う?

陛下は武恵妃に夢中になって、皇后様を廃そうとしたんだ。

武恵妃を皇后にしようとしてね。

その相談を、皇后様の兄上の知り合いにしたんだ。

知り合いは叔父上に、気を付けるよう、忠告したんだ。

それを知った陛下は怒って、その知り合いの罪を問うて、殺させたのだ。

三人は仲の良い友だちだったのだ。

武恵妃のためなら、友の一人くらい、どうでも、よかったんだ。

皇后様は、自分に子供がいないから、廃されようとしたんだ、と思った。

だから、子供欲しさに、宮中で禁じられている呪術をしたんだ。

陛下にとったら、“飛んで火に入る夏の虫”だったって事。

皇后様は、廃された。

陛下の思わく通りになったってわけだ。

そこで、陛下は、空位の皇后位に武恵妃を据えようとしたんだ。

だけど、重臣たちの反対にあって、願いは叶わなかった。

私は、いつも皇后様の味方だったから、心の中で、いい気味と思っていたんだ。

皇后様が亡くなった時も、

陛下はいかにも、悼んでいる風で、腹がたった。

(皇后様はなんで死んだと、思っている?)

そして、

封禅があるから忙しい。と、言って、そそくさと洛陽に出発した。

何が忙しいだ。

封禅は、次の年の十一月に行われたんだ。

その時の、私の態度が、気にさわったんだろうね。

年が明けて三月、皇子たちの、改名と封地替えがあった。

十年以上たっていたから、それ以後生まれた皇子たちも封ぜられた。

合わせて、十二人の皇子たちだ。

私は三男、一人は皇太子だから、普通の皇子の兄上は一人。

慶王、名も縁起がいい。

慶州は、長安の北、寧州の北隣り。

いずれにせよ、長安から遠くはない。

次は、すぐ下の弟、棣王。

これなんか、すごい。

だって続けて読んだら、ていおう。

“帝王”に通じる。

棣州は山東省、泰山のある場所だ。

次は栄王、栄州は四川省。

次は光王、光州は河南省。

洛陽と同じ省だ。

次は儀王、儀州は山西省。

これは、ちょっと自信がない。

次は、えい王、えい州は安徽省。

永王、永州は湖南省。

この封地を聞いた時、涙が出たよ。

私のとばっちりを受けたんだって。

永王は、私と一緒に、皇后様に育てられたからね。

皇后様に対する気持ちは、私と同じだと、誰もが思っているからね。

寿王、寿州は安徽省。

もう、ついでに全部言うよ。

延王、延州は陝西省。

長安と同じ省だ。

盛王、盛州は四川省。

濟王、濟州は山東省。

皆、南の方でも、揚子江近辺までだ。

永王は、湖南省の永州。

揚子江のはるか南なんだ。

私、私の忠州は新しく作られた州だ。

今まで、なかった州だ。

名は忠。

あんな態度ではイカン。

“忠臣たれ、”と、言うことだ。

忠州は、新しく作られた州と言ったが、変なんだ。

封地の発表があった時、忠州は広東省にあったのだ。

海に面した場所ではないと思うが、唐の海の玄関、広州のある省だ。

よく流刑になる人の行き先のある省だ。

そんな、長安から、遠い遠い場所に私の封地があったのだ。

だが、永王の封地を考えると、おかしくない場所だ。

永王の封地より南。

釣り合っている。

変じゃ、ない。

でも、今の忠州は四川省の揚子江の北側にある。

役人に探りを入れると、四川省の忠州は一度決まっていたそうだ。

だが、しばらくして廃されたそうだ。

忠州じゃなくなった後、“南賓郡”と呼ばれていたそうだ。

その時、広東省の忠州が生まれたのだろう。

そして今年、また四川省の忠州が復活したと、云う。

そのかわり、広東省の忠州が消滅した。

同じ名前の土地は、混乱を招くからね。

忠州が長安に近づいたのは、蓮のお蔭だと、一瞬にして謎が解けた。

だから、永州だけが、揚子江のはるか南に取り残されたのだ。

封地を見て、永王は泣いたと思うよ。

父親に愛されていないと告げらた気がしてね。

永王には、申し訳なく思っている。

今の忠州、

場所は四川省。

どこか、わかる?

長江(揚子江)の、ずうっと上流、

それこそ、蜀から南に降りていって、長江に会うだろう。

そして、東に進むとすぐに着く。

だって、船なら、流れに乗ったら済むことだからね。

あっ、長江は、流れが黄河と違って緩やかだと云うからね。

思ったより、時間がかかるかも。

まあ、何れにせよ、田舎ってことさ。

寿王の寿州なんて、長江より北の淮水の側だからね。

潁王の潁州、光王の光州も、淮水の側だ。

揚子江のはるか上流にあるなんて、忠州位なもんだ。

永王の事を考えると、文句なんて、言えないけどね。

優遇は、されてないだろう。

名前も、変わった。

嗣昇から、“しゅん

これは千字文には載っていないだろう。

意味が、限られているからね。

運河なんかで、上流から土砂が流されてくる。

積もって、河が浅くなり、舟が通りにくくなる。

だから、“浚渫しゅんせつ”すると言う。

川底の土砂を取り除く、と云う意味だ。

その言葉の“浚”という意味だ。

普通、名前にそんな字を付けると思わないから、ニンベンのついた、“しゅん”、「すぐれている」と間違う。

もしくは、ニスイの“りょう”、「しのぐ」とかね。

私のは、サンズの“浚”だ。

寿王は、“清”きよい流れだ。

私は川底をさらい、寿王はきよい水、

陛下の心が、読み取れるだろう。

ひがんだ心で、意味をねじ曲げてはいない。

あるがままに、判断しただけだ。

私を罰したのだ。

私は、生まれた時の、因縁があるから、多分、軽い罰だと思う。

こんな事から、私には、陛下のことが、よくわかったよ。

陛下は武后様に似ている。

嫌ってはいるけど、同じ血だ。

武后様は、張兄弟を寵愛した。

孫よりもね。

陛下は、好いた女子が一番大事。

よくわかった。

そう思ったよ。

でも、違った。

蓮が生まれて、わかったんだ。

やっぱり、皇帝陛下なんだ。

最も、優先するものは、女子より、国、“唐”なんだ。

陛下は、国、そのもの。

だから、御自分が一番大切だろう。

御自分になにかあったら、唐が、揺らぐからね。

蓮は、陛下の意識の中で、国の中に、組み込まれた。

そして、二人を繋ぐ者として、私もね。

その図式ができた途端、武恵妃も、寿王も、陛下の心から消え去った。

蓮のおかげで、私は息を吹き返した。

皇后様のことを考えると、別に、陛下に好かれたいとは思わない。

ただ、今の私は、

“女子より唐が大事”

と思う陛下と同じだ。

そなたと蓮、が、一番大切だ。

ただ陛下は、身内より、なにより女子が大切。

いい教訓になったよ。

そなたたちを守るためにも、二度と虎の尾は踏まないようにする。

陛下は、外見を取り繕うのがうまいんだ。

陝王の、せんの音、賤と通じるからね。

賤はいやしいの意味をもつからね。

私の名前を改名したかったって。

いい父親らしいだろう。

意趣返しのくせに。

私にしたら、陝王を十年以上使っているから、なにを今さらって感じ。

寿王なんて、わざわざ、寿州を作ったんだからね。

私の忠州を作ったみたいにね。

縁起のいい字だからね。

武恵妃の息子だから、仕方ないか。

でも、忠王って、悪い名じゃないわ。

そうかな、陛下に忠実であれ、って言われてる気がする。

だって、蛮族で帰順する人がいるだろう。

その人たちに、必ずといっていい程、名前を賜り、“忠”の字を付けるんだ。

“唐の国に忠実であれ”って意味でね。

だって、忠実じゃない。

毎日のように、出かけていって、話をして、仲のいい親子だと思うわ。

お互い理解しあって、羨ましい。

私には “そんな人 ”、もういない。

そなたは、私の事を “そんな人 ”の数に入れてくれないのか?

だって、男の人をあまり信じたら、後で苦しむ事になる。

皇后様がそうだったでしょう。

私、そんな話、いっぱい聞いた。

“男の人に飽きられた”って。

私、苦しみたくないの。

だから、蓮だけを心の糧にして生きていく。

杏、私の心の糧はそなただ。

そなただけとは言わない。

蓮もいる。

殿下、私は、いつまでも生きてられない。

この世に執着したくない。

苦しみながら、怨みながら、死にたくない。

ただ、蓮だけを想って逝きたい。

あの世からでも守るわ。

悪いけど、殿下までは手がまわらない。

ごめんなさい。


杏、あの世で待ってくれる。

って、言っただろう。

あの世でそなたが待っていてくれないと、私は、また母の胎内にいる時に戻ってしまう。

墓の隅っこで、膝をかかえて、泣けと言うのか?

そんなの嫌だ。

最後の最後まで、答えは出さないと言っただろう。

私を試すつもりで、見ていてほしい。

お願いだ。

もう一人は嫌だ。

皇后様を亡くした時には戻さないでほしい。

杏、こんなに想っているのだ。

信じてくれ!

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