身・言・書・判
父上、
「王皇后、武氏、お子に恵まれていない、皇后廃位、」
なんだか、聞いたことのある、既視感、馴染みのある話ですね。
茶碗をいじり、眼を伏せながら、忠王は呟いた。
おう、そなた、最近、ますます大胆なことを朕に向かって言うようになったな。
そなたでなければ、首を切るところだ。
まさに、歴史は繰り返すのですね。
蓮を人質にしていますから、私は父上に対して、ずいぶん強くなりました。
蓮は、私の心を解き放ってくれているみたいな気がします。
確かに、そなたは変わったな。
前とは、顔がまるで違う。
前は、科挙の最終試験には、絶対無理な容姿だったぞ。
父上、ひどい事をおっしゃいますね。
そなたが、朕を刺激するからだ。
まあ、そなたが言いたいことはわかる。
皇后のことを思うと、朕に嫌味の一つも言いたいのだな。
科挙の最終試験のどこが無理だと、そなたは思う?
身・言・書・判
さあ、そんなこと考えたこともないので、答えられません。
身 容貌や態度、
態度は身のこなしを見るのだ。
すなわち、立ちい振る舞い。
やはり、氏、育ちは見たらわかるからな。
特に、食べ方は要注意だ。
その点、皇子だからそんな心配はいらない。
だが、以前は、顔の感じが悪かった。
今は、問題ない。
俶、様様だな。
言 言葉がはっきりと、的確で、能弁なことだ。
ここのところは、直さねばな。
皇帝が、もごもご言うのは、周りが困る。
書 太宗様が書を好まれたから、字が上手な者でないとな。
王羲之の書をご自分と一緒に埋葬したほどだ。
これはちょっと、身内としても、どうかと思うがな。
叡宗様も、趣味は書だった。
そなたも、幼い頃から学ばされただろう。
唐の伝統なのだ。
これも、大丈夫。
俶にも、良い師匠を付けなければな。
判 これは地方官なら裁判をしなければならない。
判決の文章が明快でなければならないし、名文が望ましい。
そなたには、これはそこまで必要とされない。
そなたの、今後の課題は伝えた。
いつか言わねばと、思っていたが、いい機会だった。
思いがけず、話が横道にそれてしまった。
だが、お互いに言いたいことを言ったみたいだな。
そなたがよい皇帝になってくれると、信じている。
いま言った課題、これから気にして、直すようにすればいい。
先は長いのだ。
あせらずにな。
父上、優秀なのに最終試験に“ 身”だけが理由で落ちた者はどうなるのですか?
次の試験でも落ちるだろうな。
能力があるのにもったいないですね。
そういう者は、長安に残って塾を開いたりしているみたいだな。
故郷に帰る者もいる。
能力があるのだ。
いい師匠になるだろう。
節度使の所で、事務をする者もいるようだ。
優秀だから、重宝されるだろう。
学んだことが、無駄になるようなことはないだろう。
だが、なん年も学んだことが、生かされない人も多いだろう。
ただ 科挙合格者は使節として他国に行くこともある。
身はどうしても、はずせないのだ。
落ちた者には良い人生を生きるよう願うばかりだ。